付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「さくら荘のペットな彼女」 鴨志田一

2010-02-28 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「もし、俺が間違っているんなら、世界は今すぐ滅べばいい……」
 『ましろ当番』に決まった神田空太の言葉。

 神田空太は要領が悪い。真面目だし、困っているものも見捨てられない。
 だから、拾った捨て猫を見捨てられずに水明芸術大附属高校の寮を追い出され、問題児ばかり集まるさくら荘の住人になって、もう半年。猫はもらい手が見つかるどころか増える一方だ。
 そんな彼に新たな“ペット”が増えた。
 美術科に転入してきた椎名ましろだ。
 イギリスで芸術家の両親に育てられ、現代デザインアートの世界では既に超有名な天才少女。ただし、両親をして「介護が必要」といわしめるほど世間知らずに育ってしまい、自分の履くパンティすら自分では決められない人間に育ってしまっていた……。
「あのものぐさ教師め! 全部、俺に押しつけやがったな!」

 帯のアオリ文句だといくらでもお下劣にもエッチにもなりそうなものを、うまくまとめて、健全な男子高校生と世間知らずお嬢さまの青春コメディに仕立ててしまってます。見事……。
 しかし、この高校の芸術科は全国から応募した精鋭が10名ほどの定員を争うほどの名門と言いつつ、そのトップエリートがあいついでアニメだ、マンガだと転んでいてはイメージダウンもはなはだしいと思います。少なくとも経営陣はそう思うに違いない。

【さくら荘のペットな彼女】【鴨志田一】【溝口ケージ】【ボーイ・ミーツ・ガール】【ラブコメディ】【バームクーヘン】
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「仔羊の巣」 坂木司

2010-02-27 | ミステリー・推理小説
「今の子供たちはもっと、親と先生以外の大人に触れるべきなんじゃねえかな。昔の子供が良かったってのは、そこさ。大人にも色々なタイプがいて、色々な生き方があるんだ、って自然にわかったからね。良い例もあれば悪い例もある」
 職人・木村栄三郎の言葉。ちゃんと他人の子供でも叱れる大人です。
 実際、坂木と鳥井の周囲に集まってくるのは、悪い例ばかりかも。

 ひきこもり探偵の第2弾も連作短編集。
 坂木が同僚の様子がおかしい原因を探ろうとする「野生のチェシャ・キャット」。
 木工教室にやってきた男性と、地下鉄で不可解な行動をとる中学生の謎「銀河鉄道を待ちながら」。
 なぜか通りすがりの女子高生に坂木が襲撃されてしまう「カキの中のサンタクロース」。

「災害のとき、というか災害になりそうな状況に置かれたら、迷わず人の少ない方へ行け」
 たぶん鳥井真一だったら、そういうだろう。立ち止まって考えろ、場所を変えろ、金を惜しむなと。

 人付き合いが苦手で、基本的にコミュニケーションがとれない鳥井と、彼になんとか社会とのかかわりを持たせたいと奮闘する坂木の周りにも、次第に大勢の人たちが集まってきます。最初は二人きりだった食事の卓も、いつしか3人4人と囲む人数が増えていき、鳥井はぶつぶつ文句を言いながらあれこれ腕によりをかけた料理をふるまいます。
 それぞれ欠けたところのある人たちが、欠けた部分を埋めるのではなく、欠けているところは欠けたままぴったりと収まる居場所を探す物語です。

「優しくしてあげればいいんだよ。困っている人には、声をかけてあげればいい。なに、簡単なことじゃないか。一番近くにいる人からはじめて、まだ手が届くようだったら、もう少し先の人に優しく。そういう風にしていけば、いつか遠くにも届くだろう?」
 一人で世界の悲劇を解決できないと泣き出したくなった中学生の頃の坂木に応えた祖母の答え。
 うちの嫁さんはこの言葉を読んで「九州の人みたい」といいました。そうなんでしょうか? 確かにシバムラ的発想と通じるところがあります。

【仔羊の巣】【坂木司】【創元推理文庫】【同僚】【留守電】【自動改札機】【ジャスミン茶】【さなづら】【閉所恐怖症】【有栖川有栖】【うどんすき】
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「ディエンビエンフー大作戦」 富永浩史

2010-02-26 | 架空戦記・仮想戦史
 速水螺旋人によるコミック&イラストエッセイ集『速水螺旋人の馬車馬大作戦』収録の「パルスジェットのフラミンゴ」の後日談を小説化したもの。

 インドシナ紛争真っ直中にソビエト連邦から軍事顧問団としてベトナムに送り込まれたのは、女性パイロット、マーシャ・カルチェンコ大尉。ベトミンを支援して空軍を創設するのに尽力しろというのだが、送り込まれた中国南部の根拠地に用意されていたのは、旧式の複葉練習機とやはり旧式の連絡機の2機だけだった……。

 冒頭でいきなり登場する、マーシャ・カルチェンコの「今」の姿に泣きましたが、普通に考えたらありえないけれど、もしかしたらそんな話があったかも知れないという、時代後れの機体で挑む最貧で珍妙な空の戦いの物語。どっかんどっかん景気よく爆弾が爆発し、ぱきゅーんぱきゅーんと銃弾が飛び交い、ずががががんバキバキと灌木を踏みつぶして巨体が進撃し、むちむちぷるんの美女たちがきゃっきゃうふふで戯れてるけれど、不思議と死人が出ないという話……あ、スターリンは死にました。

【ディエンビエンフー大作戦】【小説 馬車馬戦記】【富永浩史】【速水螺旋人】【あくしずレーベル】【百合】【タイガーモス】【シュトルヒ】【軍事顧問】【政治委員】【ベトナム美女】【残留日本兵】【外人部隊パイロット】
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「フラン学園 会計探偵クラブ」 山田真哉

2010-02-25 | 学園小説(ミステリ)
 ヨット部に入ろうと期待に胸を膨らませて私立芙藍(フラン)学園に入学した杏莉だったが、ヨット部はなぜか突然に廃部となっていた。
 彼女の前に現れた謎の美女は「真相はここに書いてあるわ」と1枚の紙切れを手渡したが、それは確定申告書の第1表だった。
 第1表って、なに……?

 1枚の確定申告書からその裏に隠された意味を読み取る会計探偵クラブの活躍を描く連作短編集。「税金が分かる」というより「確定申告書から何が読み取れるか分かる」というビジネス・ミステリかな。ラノベ気分で読める税金のうんちく本。
 税金の話なのだけれど、著者が会計士のせいか、会計士は凄くて、税理士は会計士資格を持っている人間が余技に名義貸ししてもできる仕事……みたいな記述がちらほら見られ、真面目に職業倫理に従って職務を遂行している税理士さんは怒るだろうね。無免許運転を見つけた第三者が「知り合いが免許を持っているから、その人が運転していたことにすればいい」と提案するような話です。
 そういう意味では「一般人の確定申告への理解を深める」というより「会計士のイメージアップ」に貢献している作品。角川書店から文庫が、東洋経済新報社からソフトカバー版が出ているけれど、読み比べていないので中身が同じかは不明。
 高校生が主人公のライト・ミステリとしては標準。登場人物の理不尽な言動がなにかと気になりましたが、そもそもこの学園の設定そのものが理不尽なのかも知れません。自己責任のシステムと言いつつ、他人の債務を別の人格に負いかぶせるようになっているのですから……。

【フラン学園 会計探偵クラブ】【山田真哉】【税金】【会計士】【マンガ家】【税理士のニセモノ】
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「オペレーション・アーク3」 デイヴィッド・ウェーバー

2010-02-24 | ミリタリーSF・未来戦記
「人を評価するというのには、その相手が誰であれ、もちあわせている技倆や能力にかかわらず、実際の行動にこそ注目しなければいかんと思うのだよ」
 チャリス国王ハァロゥルド・アァルマァク7世の言葉。

 もともと1冊の本を3分冊して邦訳しているわけで、今回はひたすら海の戦いです。
 同じ著者のオナー・ハリントンもスペース・オペラといいつつ、やってることはほとんど帆船の戦いでしたが、こちらは完璧に帆船の戦い(ガレー船からガレオン船)です。教会勢力を黒幕に、海洋国家チャリスを滅ぼさんと攻め寄せる多国籍軍を、迎え撃つのは技倆の高さと勇猛果敢で知られるチャリス海軍。聖人マーリンの心眼の助けがあるとはいえ、10倍近い艦数の差を、装備の質と練度の高さだけで乗り越えられるのかという物語でした。
 ウェーバーの書く話って、取っつきにくそうなイメージがあっても、いざ読み出すとするするするっと読めてしまうのですね。これもそこそこ厚いのに、あっという間に読了。

【オペレーション・アーク】【セーフホールド戦史】【デイヴィッド・ウェーバー】【ウスダヒロ】【帆船の戦い】【おかかえ魔術師】【植民惑星】【夜戦】
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「ジョン&マリー ふたりは賞金稼ぎ」 桝田省治

2010-02-23 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 『俺の屍を越えてゆけ』や『鬼切り夜鳥子』の桝田省治による婚活ファンタジーが出た!というので、さっそく本屋へ。
 おお、並んでいるぞ! ぱらぱらと立ち読みしてみれば、水玉螢之丞のイラストがよくマッチしていてなかなか楽しい。結婚資金を稼ぐために賞金稼ぎになった若いカップルの冒険譚
 さっそく買おうと思ったら、同行していた妻に止められた。
「ここで買わずに、うちの本屋で買って」
 そう。妻は書店勤務だ。
「……なら、そうする」
 ところが、すぐに買ってくるというわけではないという。
「うちの本屋、取次さんが1冊しか送ってくれなかったの。追加発注かけてるから、もう少し待って!」
 東販だか日販だか知らないけれど、ちゃんと配本しろよ!!

 そういうわけで、まだ手元にないのです……。(10.02.21)

「占いに振りまわされるのはご免だ。遠回りだろうが間違っていようが、自分の道は自分で決める」
 マリーの占いをジョンは否定する。

 えっと到着。
 桝田作品には珍しく、人死にが出ないです。(10.02.22)

 ぱーーーーっと読めて面白い。
 ヒロインが単純明快。喜怒哀楽がはっきりしていて、好きな人に好きっ!とはっきりいえるまっすぐさが気持ちいい。もう、ツンデレなヒロインはもう飽きました。こういう正統派ヒロインを待っていたのです。
 あとは、ライバルの男が本当にただのバカなので、あまりにバカすぎて、なにか考えるのもバカバカしいのが難点と言えば難点かも。本当にただのバカかどうか、酔いが醒めるのを待ちたいと思います。(10.02.23)

【ジョン&マリー】【ふたりは賞金稼ぎ】【桝田省治】【水玉螢之丞】【士官学校】【ボーイ・ミーツ・ガール】【レース】【賞金稼ぎ】
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「ガーデン・ロスト」 紅玉いづき

2010-02-23 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「なんにもない人間にはねえ、守った方がいい、最低限があるのよ!!」
 怒るシバ。

 自分自身がキライな4人の少女たちの1年間を視点を変えつつ連作形式で描いたお話。ひとことでいえば「わかっちゃいるけどやめられない」。人に依存しないと不安になってしまうのも、自分が女の子っぽい格好ができないのも、もはや宗教ともいえる学歴至上主義に陥っているのも、それで自分が苦しい思いをしていると分かっていてやめられない。だから、なお苦しい。でも、他人にはそんな自分の気持ちを解ってはもらえず、ただただ無い物ねだりで友人たちに幻想をいだいてしまい、さらに苦しみ反発し合い、それでも友人でいられるのだろうか……。

【ガーデン・ロスト】【紅玉いづき】【浴衣】【放送部】【インフルエンザ】【学歴至上主義】【ライブ】【ママの味】
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「ながれで進攻!! 邪神大沼3」 川岸殴魚

2010-02-22 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「いつ、いかなる挑戦でも受ける。それが邪神と猪木の宿命なのです!」
 常に強気で背中を押すナナの言葉。

 手下として召喚していた天狗少女かえでが実家へ連れ戻されてしまった!
 邪神のプライドに賭けて、天狗の里であるT尾山へ向かった大沼貴幸は、天狗四天王との戦いに挑む……。

 腰砕け邪神育成小説ももう3巻。ゆる~い笑いがじわじわきます。秘技「鼻さわり」なんてまるで「秘剣こいわらい」に負けず劣らず情けないネーミングじゃないですか。
 『ラのべつまくなし2』を読んだ直後にこちらを読み、「そうだよなあ」と思い返しつつ納得しました。ちょっと挿絵が残念すぎます。マニュアルと対比させつつ進める展開も若干ネタ切れの気配もあって、続刊で盛り返せるかどうか気になるところです……というか、下っ端「グールC」がどこまで勢力拡大していくかが最大のポイントではないでしょうか。

【ながれで進攻!!】【邪神大沼3】【川岸殴魚】【Ixy】【進路指導】【侵食希望】【ビーフジャーキー】【天狗10大ひみつ】【露天風呂】【ベトベト】【ちっさいメダル】
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「ラ・のべつまくなし2~ブンガクくんと腐たご星」 壱月龍一

2010-02-21 | 本屋・図書館・愛書家
『花火も、物語も、あまねく生命もすべて終わりがあるからこそ美しい。日本人は、おそらく古くから終わりゆくものの儚さを愛してきたのだろう』
 滅びの美学とかなんとかではなく、物語は語り終えてナンボって話です。創作に対する意識とも言い換えられます。
 考えてみれば、海外のドラマはいつ終わったのかはっきりしないものばかりですが、そのあたりにも意識の違いが現れているのかも知れません。

「ブンガクさんの書く素敵なお話があって、双星さんの描く素敵なイラストがあって、ボクの大好きな『かみたまっ』なんです」
 ブンガクの作品が売れるのに大きな力となっているのは、モノクロ挿絵ですら手を抜かない双子の高校生イラストレイターのイラスト。しかし、その姉弟が絶縁宣言してしまい……。

 ライトノベルにおけるイラストの役割とは、商品を生み出すプロとは何か、創作とは何か、そんなことを青臭くも熱く語り、言葉をぶつけ合いながらの第2巻。同じ作者の作品でもデビュー作あたりは読み進めるのが辛かった部分もありましたが、このシリーズは一気に読んでしまいます。

「なにかを得ることはとても難しいのに、なにかを失うのはあまりにも簡単だ。だが。私はあまりにも簡単にすべてを得すぎてしまったのかもしれない」
 星峰天斗の言葉。

 登場人物たちがみんな誤解はその場で解くようにし、1+1が2になることを理解するだけの頭がある話はちゃくちゃく進みます。不必要にどろどろしていないのはそのせいです。

【ラ・のべつまくなし】【ブンガクくんと腐思議の国】【壱月龍一】【裕龍ながれ】【温泉】【二次創作】【文学賞】【パーティー】【全然】
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「創世記機械」 J・P・ホーガン

2010-02-21 | 破滅SF・侵略・新世界
 天才的な科学者がすごい発明をしたけれど「軍の言うこと聞いて兵器開発しないと首にするぞー」と軍事利用を強要され、断ったら仕事を干され、民間団体に移っても「言うこと聞かないともっと圧力かけるぞー」圧力をかけ続けられたので、ついに「ウガーっ!」キレてしまう話。そこで発明したのが「最終兵器」ではなく「創世記機械」というあたりが良心かな。
 東西冷戦下の1978年に書かれたハードSF。ストーリーはほぼ冒頭に書いたとおりだし、主人公もその周辺人物も科学者か官僚か軍人でキャラクターはかなり類型的。派手なアクションシーンの1つもない地味な話です。でも面白い。

【創世記機械】【J・P・ホーガン】【統一場理論】【東西対立】【ジャンクヤード】
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「配達あかずきん」 大崎梢

2010-02-20 | 本屋・図書館・愛書家
「本屋の謎は本屋が解かなきゃ、ですね」

 言葉のはっきりしなくなった老人に頼まれたというリストの書名は何なのか、『あさきゆめみし』を購入した女性はなぜ失踪したのかなど、駅ビル内の書店・成風堂で起きる小さな謎を、しっかり者の書店員・杏子と、勘の良いアルバイト店員・多絵のコンビが解決していく書店ミステリを5篇収録した連作短編集。

 読後感の良い4話目の「6冊目のメッセージ」だけ読んだ記憶があったのだけれど、もしかしたら久世番子のコミック版を読んだことがあったのかも。
 続きが出ているそうだけれど、前の作品に登場した人たちがその後の話にも登場していると嬉しいな。登場人物が探偵と犯人と被害者である以前に、町の本屋に集まる人々なので、一度登場したらそれっきりというのは寂しいですから。

【配達あかずきん】【成風堂書店事件メモ】【大崎梢】【日常系ミステリ】
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「日本人の知らない日本語2」 蛇蔵&海野凪子

2010-02-19 | エッセー・人文・科学
「うちのクラスにも外国人を入れてください!!」
 別のクラスに美形のフランス人が入学してきたときの生徒たちの要望。「君たち全員外国人だから……」。

 日本語学校に通う生徒と教師のエピソードを中心に、日本語の正しい姿を見つめ直し、各国毎の風俗文化の違いを認識させてくれる1冊……これが85万部突破だそうですよ。うん、わかりやすく、身近なところに意外な発見があり、笑えて為になるんだから。

【日本人の知らない日本語2】【爆笑!日本語「再発見」コミックエッセイ】【蛇蔵】【海野凪子】【日本語学校】【神社】【忍者】【カンチョー】【コスプレ】【ピタゴラスの定理】【干支】【声点】【怪談】
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「クリスタル・シンガー」 アン・マキャフリイ

2010-02-19 | 宇宙・スペースオペラ
「目玉の上、そして後ろまで(理論を)詰めた方が良い。生き残れるか否かは反射的に出てくる知識にかかってるかもしれん」
 ヘプタイト・ギルド会長ランゼッキの忠告。

 物語においては主人公のライバルとして才能はあるけれど高慢でいけ好かないキャラクターが登場することがよくあります。そのライバルというか主人公のイジメ役を主役にしたような話が、この『クリスタル・シンガー』。そういう理解で間違っていないと思う。
 面白い話で、分厚い割には何度も読み返すのだけれど、そのたびに主人公である キラシャンドラ・リーの勝ち気で唯我独尊ぶりに辟易するのです。才色兼備とはいえ付きあって楽しい人間じゃないですね。こういうタイプの主人公は男性ならいくらでもいるのですが、こういう一方的なキャラはそもそもキライなのです。
 まあ、それだからこそ前半の彼女の挫折もさほど苦にせずに読んでいけるわけだし、彼女が生業とすることとなるクリスタル・シンガーという職業は、単独作業・疑心暗鬼・健忘症が職業特性なので適性ばっちりですね。社交的な人間には務まらない過酷な職業なのです。

 広大な宇宙に点在する人類社会をつなぐ核となるクリスタル。そのクリスタルはギルドによって独占・封鎖されている惑星ボーリィブランでのみ産出される。採石士は「シンガー」と呼ばれ、自らの歌声をカッターの波長と同調させて水晶を切り出していく。石が良いだけでは意味がない。それを切り出すシンガーの歌声が正しくなければ、クリスタルはただの石クズになってしまうのだ。
 だが、ボーリィブランが封鎖されているのはギルドの利益のためではなかった。それは惑星の環境が、降りた人間に治療不能な変化を与えてしまうのだ……。

 禍福は糾える縄の如し。世の中はギブアンドテイク。シンガーとなることで莫大な富と権威と不老長寿に近い能力を手に入れられる一方で、それに見合うものが失われるのです。
 ボーリィブランへ到達するまでの周囲の人々の不可解な反応にドキドキし、ギルドでの適応訓練の過程にハラハラした後は、植木等の無責任シリーズを思わせるとんとん拍子の大出世! これを鼻持ちならないと思うか痛快無類と感じるかは読者次第。

【クリスタル・シンガー】【アン・マキャフリイ】【絶対音感】【健忘症】【共生】【山師】
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「世界ぐるっとほろ酔い紀行」 西川治

2010-02-18 | 食・料理
『なんでも大きいことがいいことだ、というアメリカだ。料理のまずいやつはうんざりだが、アルコールはうれしい』
 そしてレアで頼んだステーキはやっぱり火が通りすぎていた……。

 世界には果実の種類だけ果実酒があり、国の数だけ酒がある。
 カメラマンが若き日から現在に至るまで呑んで回った世界の酒と肴に関する覚え書きをアレコレ。カラー写真も満載だけれど、少し小さいし説明書きもないので、なんの写真か分からないこともあるぞ。
 虫だらけのヤシ酒を呑んだり、沖縄出身の友人がどこからか持ってきたヤギ肉をつまみに泡盛を呑んだり、モンゴルで馬乳酒を呑み、スコットランドの片田舎でウィスキーのグラスを傾ける。
 自分は酒飲みではないけれど、うらやましい話です。

【世界ぐるっとほろ酔い紀行】【西川治】【シュールストレミング】【ワイン】【アクアビット】【紹興酒】【カバ】【ポルト】【タパス】【ヴィーノ】【カルパッチョ】
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「復活の日」 小松左京

2010-02-17 | 破滅SF・侵略・新世界
「セックスは、人間にとってそれほど本質的なものじゃないですよ、ママ。セックスが人生の重大事みたいに考えるのは、小説家の冥蒙ですよ」
 イルマ・オーリックに語った吉住の言葉。生き残った人類1万人のうち女性はたった16人という世界でも人間は懸命に生きようとしている。冥蒙(めいもう)という表現に時代を感じますし、この表現が的確なのか悩んでしまいますが。

 その年のインフルエンザは悪質だった。
 チベット風邪と呼ばれるようになったそれは、今までのインフルエンザと比較して致死性が非常に高い上にワクチンの効果が出にくいタイプだったのだ。懸命にワクチンの開発が急がれ、軍や政府機関はその確保を最優先事項とした。
 しかし、どちらにせよ無駄なことだった。新種のインフルエンザと平行して、未知の致命的流行病が蔓延していたのだ。鶏やアヒルが次々に死んでいき、ワクチン製造に必要な有精卵が不足し始めた。街には回収しきれない死骸があふれ、都市機能・政府機能は次々にマヒしていった……。

 全篇を通じて、ひたすら絶滅に向かって突進していく人類があがくさまが描かれていて、少なくともインフルエンザ流行期に読むもんじゃありません。為すすべもなく人々が倒れ死んでゆく様は壮絶の一言。
 そして後半1/3は、南極に生き残った1万人のサバイバルが描かれます。進んで死ぬ気もないけれど、文字通り命がけでやらなければ人類が今度こそ完全に滅亡してしまうという物語に、最後の最後まで目を離せません。

【復活の日】【小松左京】【生頼範義】【南極】【細菌戦】【中性子爆弾】【流行性感冒】【火炎放射器】【アマチュア無線】
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