付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

私的年間ベスト2011

2011-12-31 | その他フィクション
 本を読むという行為をひとことで言い表すのなら、「一期一会」というよりは「サケの放流」でしょう。面白そうと思って手に取った本でも、本当に面白く、いつまでも何度でも読み直せる本は稀少です。
 1冊でも多くの“自分の好きな本”に出会うために、いろんなジャンルのいろんな本を読んでいるわけです(ラノベのレーベル作品が多くなってきましたけどね)。

『神明解ろーどぐらす』 比嘉智康
 本当に“下校を愉しむ”ことだけが目的の高校生たちの物語。学校の門を出て、寄り道しながら、友達とおしゃべりしながら家に帰るまでの愉しさを徹底的に追求した全5作。今年完結。
 自ら選択してハーレムを築き上げ、それを守るのに命をかけた男の物語……とまとめるとなんだかなーという雰囲気になりますが、ゆるい話だけれど、主人公は熱いです。いろいろ逃げて話を長引かせるだけの主人公が多い中、鈍感だけれど、常に正面から仲間と向かい合う姿はまさしくヒーローです。
 書店の売上では既にランキング外なのが納得いかない名作。


『はたらく魔王さま!』 和ヶ原聡司
 世界征服を目前にして勇者に敗北し、異世界に逃亡した魔王サタンと、彼に付き従う悪魔大元帥たちが、六畳一間のアパートで捲土重来を期して日々を小市民的に暮らしていく物語。壮大な野望と超絶な能力を秘めながら、地道にあしもとを固めていく話は大好き。今年は3巻まで出ました。
 世界の支配からバイトの管理までマクロもミクロも網羅している魔王というのは、支配者として恐るべき存在だと思います。


『犬とハサミは使いよう』 更伊俊介
 強盗に殺されたものの犬になって甦ってしまった読書狂の高校生と、書くことが好きで好きで堪らないS趣味作家の共同生活もの。読まずに死ねるか、犬の生活篇。
 これもあまり外部のキャラが絡まずに、作家と犬の会話だけで続いている部分は面白い。他の人が絡むと、それが普通の人だと浮きすぎるし、同レベルの変態になるとイヤすぎです。


『丘ルトロジック』 耳目口司
 世界を征服するために、まずこの町のオカルト現象をすべて掌握して支配してしまおうという高校生たちの物語。
 主人公たちが正義の、あるいは善意の集団ではなく、一見して普通に見えるけれど実は異常者の集団というのが、なかなかスリリング。よくこんな話の企画が通ったなあと思います。みんな変態か犯罪者かその両方なんだもの。


『ブラック・ラグーン 罪深き魔術師の哀歌』 虚淵玄
 悪徳と暴力の街、ロアナプラに大富豪令嬢が迷い込んできた。この世間知らずの小娘にロットン“ザ・ウィザード”がかかわった瞬間から、街の殺し屋からチャイニーズ・マフィアまで巻き込んだ大騒動が始まって死屍累々。シスター・エダの腹はまっ黒。
 原作コミックのイメージままで繰り広げられる、もう1つの物語。



『それがどうしたっ』 赤井紅介
 長らく音信不通だった民俗学者の父親が連れてきた少女は悪魔だった……。
 美少女キャラの話だけれど、本質は「萌えオバQ」なんだと思います。大食らいで愛嬌のある居候が、文化的相克を乗り越え、周囲に幸せを運んでくる青春ホームコメディ。3巻完結。


『物理の先生にあやまれっ!』 朝倉サクヤ
 世界中に突如出現した7体の巨大ロボットを駆る少年少女たちの戦い。
 基本設定だけ聞くと横山光輝などの絵が脳裏に浮かんでくるけれど、実際は巨大ロボットは視覚で認識できないことが多く、ロボットものなのにロボット絵がほぼ皆無。各国のロボット操縦士もなぜか美少女ばかりで、どたばたハーレムものになるかと思いきや、2巻打ち切りでとんでもないハーレムエンドになっちまった怪作。


『暴風ガールズファイト』 佐々原史緒 
 刊行は数年前だけれど読んだのは今年なので、是非にも。
 ラクロスなんて日本ではマイナーな競技をしっかり描いた、涙あり、笑いありの熱血スポーツ小説。
 主人公が熱血バカの方ではなく、一歩引いてる醒めた優等生タイプの方という構図は、『はやて×ブレード』的だし、その優等生タイプが切れると誰より怖いところも同じ。サブキャラも良い感じにそろってます。


『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』 渡航
 友達のいない少年少女が「奉仕部」という場を与えられ、他の生徒の悩みを解決しながら自分自身の居場所をさぐっていく話で、『僕は友達が少ない』と似ているけれど、より外向きな話。


「アイドライジング!」 広沢サカキ
 近未来のアイドルはさまざまな企業が作りだしたバトルスーツに身を包んで戦うのだ!……という「スター誕生」ものに「熱血根性格闘技マンガ」の要素を足した快作。こうやって読むと、アイドル・ストーリーと格闘マンガのフォーマットは似通ってるんだなということが認識できます。


「“葵”~ヒカルが地球にいたころ……」 野村美月
 「源氏物語」と「ゴースト」をモチーフにした学園青春ミステリ。
 プレイボーイな少年の幽霊に取り憑かれ、彼の悔いを晴らすのを代行することになる、見た目不良少年の奮闘記。光の君にも悔いが残っているけれど、残された少女たちの方にも心残りやら何やらがあり、それを本来第三者である是光が獅子奮迅で解決に導いていく物語。今年はシリーズ2冊目まで。


「憑き物おとします」 佐々木禎子
 幽霊が誰の目にも見えるようになった時代の、除霊や霊障に対応する保険会社のエージェントの物語。
 調子っぱずれの凄腕の死神とか、ゴスロリ守護天使とか、脇役が良い感じで、保険会社のシビアな業務とのアンバランスが絶妙で一気に読了。
 そしてやっぱり、この話でも居候は押し入れが定位置。押し入れに居候するキャラの分類をしてみたら面白いかも。


「百合×薔薇」 伊藤ヒロ
 超能力を持つ少女ばかりが集められた女子校に、性別を偽って転入した少年の天下取り物語。
 異能バトル+ソロリティ+男の娘の三大伽をこういう形で処理してしまうかと納得。その裏で、能力がないのに能力があると偽った少女のコンゲーム的なストーリーも走っていて、今後が楽しみ。


「いとみち」 越谷オサム
 本州最北端の青森市内のメイド喫茶でバイトすることになった、訛りが酷くて人見知りで、背が小さくて胸が薄くて、ドジで頑固者で、津軽三味線が得意な女の子の物語。メイドとして、三味線奏者として成長していく姿を見守る話です。
 バイト小説としてイチオシ。登場人物は誰も彼も一癖も二癖もあるけれど、基本的に仕事に対しては真面目……という点は大事です。ふざけた仕事ぶりでも可愛くて運が良いから大繁盛!なんて話はポポポイのポイッです。


「夏のくじら」 大崎梢
 土佐の大学に進学した主人公が、よさこい祭りにかかわっていく中で思い出の中に消えたはずの女性の足跡を追いかけていく青春ストーリー。
 1つのチームを作るにはどれくらいの予算が必要で、そのためには何人集めなくてはいけなくて、集めるためにはどうしたらいいか……というところまで書き込んだ「メイキング・オブ・よさこい」小説。
 個人的にはもう少し笑えた方が良いかな。


「約束の方舟」 瀬尾つかさ
 恒星間移民船の中で繰り広げられる、異種族との対立と世代間の相剋の物語。
 少年たちは保守的な大人たちと対立することで、保守vs革新、体制派vs反体制派の構図にはまり込んでしまって気の毒な感じ。
 一方、メインヒロインが自由奔放すぎて目立たないかもしれないけれど、少女たちはみんな純粋に自分たちのやりたいことを追いかけていく中で、既存の枠をぽんと飛び越えているようで羨ましいくらい。でも、メインヒロインはちょっと奔放すぎ。


「海軍士官クリス・ロングナイフ」 マイク・シェパード
 胸の大きさだけが残念なヒロインが戦うミリタリーSF。
 海軍士官の話だけれど、地上で泥にまみれて海兵隊と人質救出作戦に従事したり物資輸送で川下りしたり宇宙ドックを吹き飛ばしたり寄せ集め艦隊を指揮したりしてます。
 とりあえず3部作は完結。話ばかりで姿を見せない異星人とか、敵対する財閥との決着とか、謎の万能メイドの正体とか、回収されていない伏線も多いので今後にも期待です。


「俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件」 七月隆文
 箱入り娘に育てすぎ、卒業した生徒が片っ端から引き篭もりのネトゲ廃人になってしまった名門女子校。卒業前にソフトランディングさせようと、庶民にして男である、平凡な高校生が拉致されて……。
 平均的な男子高校生が、純粋培養のお嬢さまたちとのファースト・コンタクトを試みる話。


「生徒会探偵キリカ」 杉井光
 超巨大学園の生徒会会計は、事件を1件1800円(前払いなら1500円)で解決する探偵になるのだ!……という話。辣腕会計は名探偵で謎を解決し、使いっ走りの庶務はその謎解きをもとに事件を解決するという二人三脚な探偵ものです。謎解きがそれだけで事件の解決になるとは限らないのです。


「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」 ゲイル・キャリガー
 人間以外の存在とのロマンスを描いたパラノーマル・ロマンスと、レトロなテイストの超発明が存在する世界の物語スチーム・パンクを足してしまい、ヒロインはパラソル片手に吸血鬼や人狼を蹂躙していくというお話。
 今年スタートして年内に3冊翻訳刊行と良いペース。ユーモアと怪奇と謎とロマンスの詰まった冒険活劇ですが、映像化するならルーカスフィルムかジブリだけれど、コミック化するなら高橋葉介だろうと根拠もなく確信しています。



 単なるバカが主役の話は嫌いだけれど、他人の気持ちを考えられるバカだったらOKかなというのが今年の感想。前年にスタートした『変態王子と笑わない猫』も好調。
 『わたしと男子と思春期妄想の彼女たち』は1巻は面白かったけれど、2巻以後自分の期待したのとは別の方向に行ってしまいました。それはそれで悪くないけれど、好みではないということで。

 それで総括としては、昨年は自分としては繰り返し読める面白い話が少なかったけれど、今年は当たり年。
 来年も良い年でありますように。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「さよなら小松左京」 小松左京

2011-12-31 | その他SF(スコシフシギとかも)
 2011年7月26日に死去した作家・小松左京の追悼本。
 本人の創作ノートやインタビュー記事、単行本未収録の短編小説「鬼の惑星」、作家デビュー前に執筆していた漫才台本「いとしこいしの新聞展望」などを再録すると共に、友人や関係者70余人による証言や追悼文・アンケート、ミニ事典等を収録した読み応えある1冊で、イベント会場で手塚治虫と対談したときの音声データがCDでおまけについています。

 小説『日本沈没』の大ブームや映画化は知っていたし、大阪万博にも足を運んだけれど、小松左京という作家を知ったのは中学時代に友人たちと筒井康隆や星新一などの作品と共に貸し借りしていた短編集がたぶん最初。
 その後、『エスパイ』や『復活の日』を読み、『さよならジュピター』にわくわくし、とりみきのコミックに登場する姿ににやりとし、『首都消失』は新聞連載で読み、SF大会で「三浦友和の前バリ!」と嬉しそうに叫んでいた姿が脳裏に焼きついて……これは忘れたい記憶。
 さんざんに日本や地球に大災厄をふりまき続けた小松左京ですが、誰よりも日本という国を愛していたのだなというのが、いろいろな人たちの認識のようです。大好きだからこそ、他の人にもその大切さを知ってもらいたいという一面があったのでしょうか。擬似的な「失って、初めて分かる大切さ」。
 あとは、とにかく膨大な仕事量が印象的です。日本SFのブルドーザーといわれるのも納得。シンポジウムの司会をやりながら、メモをとるフリをして原稿を書いていたとか、なんなんでしょう?

【完全読本】【追悼】【さよなら小松左京】【小松左京】【日本沈没】【筒井康隆】【石毛直道】【萩尾望都】【大阪万博】【吾妻ひでお】【とりみき】【“日本のSF”をめぐってミスターXへの公開状】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「昨日は彼女も恋してた」 入間人間

2011-12-30 | 時間SF・次元・平行宇宙
「後退は悪いことだろうか。前進だけが正解だろうか。
 大事なことは進む方向よりも、目的地に着くこと」


 小さな離島に住む少年と少女は、道ですれ違うのもイヤなくらいに仲が悪い。そんな2人が、失敗ばかりの科学者の松平さんの助手として、何番目かのタイムマシンの実験につきあうはめになった。
 オンボロ軽トラを改造したタイムマシンに、今度もやっぱり失敗だと確信した2人だが、予想外に実験は成功。気がつけば2人は9年間前の世界にいた。
 祖母がまだ生きていて、少女が交通事故に遭って車いすに乗る前の時代。そして、まだ2人が仲の良い小学生だった時代だ。
 そして、タイムトラベルは簡単に帰れなくなるのがお約束で、“今”の松平さんに未来の自分が作ったタイムマシンの修理を頼むが、もう10日ほどすると10月の21日になる。その日、2人は決定的な仲違いをするのだ……。

 いきなり衝撃的なラストで涙目。
 『明日も彼女は恋をする』に続くって、そりゃどういうことだ?(2012/01/05 改稿)

【昨日は彼女も恋してた】【入間人間】【左】【でかい口】【デロリアン】【自転車レース】【デロリアン】【灯台】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「僕と彼女のゲーム戦争2」 師走トオル

2011-12-29 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「ゲームは面白いのが一番だ」
 ゲームのメンツは上手下手で選ぶより、一緒にプレイして楽しい相手を選ぶべきではないかと天道しのぶ。

 名門女子校の生徒を男性に慣れさせるという目的で編入させられた岸嶺健吾だが、なかば無理やり入部させられたゲーム部こと現代遊戯部にも慣れてきた。
 しかし、天道部長と健吾、それに顧問の瀬名の3人ではゲーム大会に団体登録できないと、急遽ゲームをやり込んでいると思しき女子生徒を拉致するはめに。
 けれども、その拉致されて怒り狂っていた金髪ロリ少女こと杉鹿まどかのために、現代遊戯部は傭兵となった“宵闇の魔術師”のチームと戦うことになる……。

 前回と同じく、クライマックスシーンは口絵と挿絵の2箇所でアピールされています。うんうん。

【僕と彼女のゲーム戦争2】【杉鹿まどかのFPS講座】【師走トオル】【八宝備仁】【ロストプラネット2】【HOME FRONT】【Halo:Reach】【女性執事】【メイド】【接待】【灼眼のシャナ】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「くずばこに箒星」 石原宙

2011-12-28 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「ポイ捨てをする人はね、ごみと一緒に何か大切なものも捨ててるの」
 水川小花の言葉。

 グレードチェア制度という序列を活かした独特の教育システムを持ち、専門大学さえしのぐ科学技術の桃源郷である了星学園は、廃業した山奥の遊園地跡にある。
 2ndチェアである福山英知は、主席の生徒会長と取り引きし、おそうじ部への潜入調査をすることになったが、おそうじ部は学園の屑と揶揄される変わり者の集団。その一員となった英知の評価ランキングは見る間にぐんぐん降下し始めて……。

 成績だけでなく、生徒相互の人気投票的なものも含めてランキングがつき、それによって校内での優遇措置が変わるというグレードチェア制度……というだけなら他にもありそうな話だけれど、この作品では上位者に与えられる椅子が本当にびっくりドッキリメカになっているというのがポイント。万能椅子ってやつかな?(ナゾーかゴリのやつね)
 総じて、異名がつくようなヤツにろくなのはいないけれど、よく知り合ってみればそんなに悪くもないのかなという話。

「マイナスにマイナスをかけたらプラスになる。穴があるならさらに掘れ。間違って埋めようものなら、出来上がるのは只の凡人だ」
 福山英知の言葉。欠点なんて克服するものではなく、長所にするべきものなのだ。

「未来予測は簡単よ。どんな未来だって自分の力でそれを実現すればいいだけ」
 福山昏(ふくやま・くらん)の言葉。

 いろいろツッコミどころはあるけれど、変態的にペシミスティックなヒロインの言動になれてしまえば愉しめました。

【くずばこに箒星】【石原宙】【月神るな】【スーパーダッシュ文庫】【星座】【超記憶症候群】【瞬間記憶】【テロ】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ハレーション・ゴースト」 笹本祐一

2011-12-28 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 笹本祐一の『ハレーション・ゴースト』も好きな作品。
 『妖精作戦』シリーズの2作目なのだけれど、これだけはストーリー的に独立していて……内容を簡単に説明するなら「人間の想いって強力で、パンドラの箱だって開いちゃうんだよね。で、学園祭準備期間の学校に出没する怪異が次第に世界規模で広がっていくんだけど……」という話。で、もう少し詳しく説明しようとすると、黒マントの怪人が少女をさらい、鬼娘が空を飛んで、雪女のせいで寮内で遭難しかけ、無数の目を赤く光らせた巨大なイモムシの群れが暴走し、金色の三つ首龍が大暴れ……。
 これはこれで面白くて好きな話で、自分としては『妖精作戦』と2冊で完結しててもいいのになと思った作品。
 このシリーズは「地球を守る正義の組織が、エージェントとして超能力少女をスカウトしようとするのだけれど、やり方が強引すぎるので、地球の平和より個人の幸福だろ!?とクラスメイトの高校生たちが一肌脱いで大暴れ」というところが基本線で、「地球を守る」=「正義」=「主人公」という構図を崩した時点で革新的。それはへたすれば文明批評とかペシミスティックな展開になりかねないんだけれど、暴走する高校生の元気さで感じさせないところが良し。活劇っすよ、活劇☆
 でも、それをストーリーとして完結させようとすると、「じゃあ、地球は守られなくて良いの!?」という疑問を結局は避けずには通れないので、辛いとこです。がんばれ、少年!! がんばれ、探偵!
 んでもって、ネタが生ものすぎて、そろそろ通用しにくくなっているのも難だよねえ。ネタ抜きでもいい話なんだけれどもさ。(2007-09-25)

 創元文庫版の2冊目。この人のイラストは好きだけれど、妖精作戦に関しては今ひとつ。
 巻末に小川一水の解説がついて、それが元ネタリストになっていて、それだけでも買った甲斐はあったというもの。ただ、ジャバウォッキーについては、プラハの映画『アリス』ではなく、プラハの映画『アリス』に萌えた和田慎二のコミックの二重ネタだと思っていたのだけれど、あっちは入っていないのかしらね。

【ハレーション・ゴースト】【笹本祐一】【妖精作戦PARTII】【D.K】【御米椎】【夢】【ナウシカ】【ゴジラ】【雪女】【ラムちゃん】【王蟲】【ドラキュラ】【自主製作映画】【パンドラ】【想念】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「魔法使いは味噌を喰え!」 澄守彩

2011-12-27 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 第一次大戦時、マジエール公国に侵入したドイツ軍を迎え撃ち、撃退したのは「剣持たぬ騎士」と呼ばれた12人の魔法使いだった。
 これによって魔法使いの存在が世界に知れ渡り、魔法が普及し始め、第二次大戦では日本が魔法抑制物質(MISO)を戦線に投入して魔法の使えない戦場を生み出し、そして大国の物量攻勢に敗北してン十年。
 魔法学校に通う高校生、八丁屋将太の家に窓から飛び込んできたのは、マジエールのプリンセス・アルテミシアだった……。

 魔法の国の王女姉妹と、MISOの影響をキャンセルできる少年の物語。

 この作品の魔法は、「心を1つにみんなでフルボッコ!」とルビは別についてますけど、具体的な内容の呪文になってます。すると、精霊魔法なのでしょうか。『コクーン・ワールド』みたいに魔法使いは性格が卑屈になるとか、早口な方が強いとかあるのかしらね。
 ちゃんと最後にタイトルどおりのオチになっていて拍手。でも、どこかでセレス王女の歌と絡めた魔法を見たかった気もします。

【魔法使いは味噌を喰え!】【澄守彩】【シロウ】【講談社ラノベ文庫】【正義の魔法少女】【だが断る!】【控えめな女の子】【ジャンピング土下座】【つまらない物】【真界マジエール】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「鬼やらい~一鬼夜行」 小松エメル

2011-12-26 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「あたしは自分の見たものだけを信じて生きている」
 八百屋の一人娘のさつきの言葉。誰よりも男らしい少女。

 顔が鬼より怖いと付喪神たちにも評判の喜蔵に得意客ができた。
 ふらりとやってきては古道具をポンと買い、喜蔵を牛鍋屋や蕎麦屋の食事に誘ってくる嘉門だ。二枚目で金払いも良く言葉も巧みな嘉門に町の女たちは夢中になる。
 そんな嘉門が自分の妹を気に入っているようなのが気に入らない喜蔵だが……。

 文明開化の東京を舞台に、「飯は誰かと一緒に食べた方が美味い」という話。
 そして、自分は後悔することが多かったから、人間も妖怪もいつ死んでしまうか分からないから、悔いのない生き方をしなくちゃいかんと説教たれる硯石がステキ。今回は硯石と百目鬼の話ですね。

【一鬼夜行】【小松エメル】【さやか】【ポプラ文庫ピュアフル】【百目鬼】【愛宕山】【西瓜】【絵の具】【医僧】【役不足の誤用】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「いわゆる天使の文化祭」 似鳥鶏

2011-12-25 | ミステリー・推理小説
「まったく、女子というのはどうしてあんなに男子の女装を喜ぶのか不思議でしょうがない。男子は女子の男装をあんなに喜んだりしないのに」
 葉山くんの嘆き。

 「にわか高校生探偵団」シリーズの第4弾。
 今回は美術部の葉山くんと吹奏楽部の蜷川奏ちゃん2人の視点で、代わる代わる物語が語られます。いわゆる2人探偵ストーリー。というか、今回もいつの誰のことかも分からない挿話が入っても最後にきれいにまとまるという構成。このパターンに弱いのです。

 文化祭の準備で大騒ぎの市立高校に出現した、謎の天使の絵を描いた貼り紙。
 同じ天使がさまざまなバリエーションで、各教室や各クラブの部室の前に張り出されている。誰が、いつ、なんのために、こんなことをしているのか?
 なんとなく気になるからと調査を始めた葉山くんだったが、いつしか文化祭が一部中止になるか否かの問題にまでなっていた……。

 話のキーとなる<天使>が、なんというか、羽の生えたエリザベスなんだよなあ、銀魂の……。
 冒頭の慌ただしい文化祭の準備光景にわくわくしてしまいます。
 どんなことでも準備段階でのワクワク感が描けている作品は傑作です。学校ぐるみで年々エスカレートしていく市立の文化祭がステキすぎ。リアル系文化祭の最右翼っす。学校を舞台にした作品なら文化祭イベントが起きるのはお約束だけれど、読んでいて騒々しい愉しさまで伝わってくるものは、そんなに多くないのです。自分の基準は『ビューティフルドリーマー』と『ハレーション・ゴースト』なんですけどね。
 そういう視点で、このどこにでもありそうながら、近くにあったら何が何でも観に行きたいと思ってしまう市立高校の文化祭は素晴らしいと思います。
 ミステリとしても上質。ちょい役ながら翠ちゃんの安楽椅子探偵ぶりもさすがですが、伊神さんは格が違いました。
 この本だけ読むと伊神さんと翠ちゃんの正体はまったく不明ですが、それでも学園ミステリとして十分に愉しめると思います。

【いわゆる天使の文化祭】【Kilroy was here】【似鳥鶏】【toi8】【文化祭】【アンドレ】【鋼の錬金術師】【動物のお医者さん】【ピッキング】【オレオレ詐欺】【アルパカ】【天井に血まみれの女】
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「この人を見よ」 マイクル・ムアコック

2011-12-24 | 時間SF・次元・平行宇宙
「人は誰でも救世主コンプレックスを持っているのよ」
 モニカの言葉。

 神秘主義者カール・グロガウアーはキリストの生涯に興味を持ち、未完成のタイムマシンで過去へと旅立った。
 だが、そこで見たキリストは、とても救世主となるような人物ではなかった……。

【この人を見よ】【マイクル・ムアコック】【キリスト】【自我】【信仰】【時間改変】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「カナクのキセキ3」 上総朋大

2011-12-23 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「何が一番ダメのか、それは停滞することだよネウちゃん。前にも行かず、後ろにも下がらず、何もしないでただじっとしている。それこそが一番ダメなんだ」
 動かないと水も人も腐っていくだけだと、宿屋のボルネの言葉。

 魔王となってしまったカナクを追いかける、ダークエルフの神官ネウの物語。彼女はカナクを救えるのか、それとも殺さなくてはいけないのか。それとも、殺すことだけが救うことなのか。もしくは恋もできない世界なんて楽園じゃないと、世界を滅ぼしてしまおうとする話。
 時代も登場人物も違う2つのストーリーが平行して進み、最後に合流して真相が明らかになる構成はこれまでと同じ。そして、1巻、2巻の物語の結末を受けて、4巻へと引き継いでいきます。

【カナクのキセキ】【上総朋大】【さらちよみ】【ラブストーリー】【地下空洞】【黒夢の魔王】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「パラダイスレジデンス(1)」 野梨原花南

2011-12-22 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「生きるって、いちいち哲学よ。選択科目に、哲学があるなら取ることを勧めるわ。ないならニーチェでも読んで。大げさな言い回しに呆れたらいいわ。おもしろいわよ」
 ミンチン先生こと、寮監の大湊敏子の言葉。

 橘花学園に入学し、オンボロな第一寮で暮らすことになった少女たちの第一日……。

 藤島康介のコミックをノベライズ化した学園小説で、1巻は三沢寿々花の入寮から初日の歓迎会後の夜の一幕まで。本当に1日分で1冊終わってしまった。こういう形で高校生活の様子を淡々と追っていくのも良いですね。大事件は起こらないけれど、小さなイベントを積み重ねることで、集まってくる少女たちの姿を浮かび上がらせていきます。良いところも悪いところも、強いところも弱いところも。
 そしてアニメ版『アルプスの少女ハイジ』で、昔はいちばん苦手だったロッテンマイヤーさんに今ではいちばん感情移入できてしまうように、この話でもいろいろ無邪気な少女たちよりも、あれこれあって世の中の酸いも甘いも噛み分けているようなミンチン先生がお気に入りです。

【パラダイスレジデンス】【野梨原花南】【藤島康介】【講談社ラノベ文庫】【学生寮】【白癬菌】【新人類】【浴室】【ハムスターの越冬】【乳ガン】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「クロノリス~時の碑」 ロバート・チャールズ・ウィルスン

2011-12-21 | 時間SF・次元・平行宇宙
「少しばかりの不安は、身体にいいんだよ」
 麻薬密売人ヒッチ・ベイリーの言葉。

 2021年、タイの山中に突如出現した巨大な塔は、20年先の未来から送り込まれた独裁者の戦勝モニュメントだった。
 クロノリスと呼ばれるようになった未来からのモノリスは1柱にとどまらず、その出現時のエネルギーで次々と都市を破壊していく……。

 妻子を連れてタイでグダグダしていただけのダメ男が、いつの間にかクロノリス事件に巻き込まれ、激変していく世界の中でキーパースンとなっていった過程を、未来からの回想という形で綴った何十年かの物語。
 その時、その場にいたから重要人物となったわけではなく、将来に重要な役割を果たすことになるからそこにいたのだ……とか、死んだ娘はいつの出来事に対して御礼を言ったのか……とか、因果関係が次第に混沌とし始め、なにが鶏で卵かわからなくなっていく様子が面白いのです。けれど、それまでの序盤がなんとなく読みづらく、買って半年ほど積ん読していたけれど、読み始めたら一気に読了。

【クロノリス】【時の碑】【ロバート・チャールズ・ウィルスン】【創元SF文庫】【タウ粒子】【バタフライ効果】【タイムパラドックス】【クリスマス・キャロル】【経済危機】【出現予知】【星間旅行】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「タムール記(2) 炎の天蓋」 デイヴィッド・エディングス

2011-12-20 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「権力という不自由なものを容認できるのは、友人にはほうびを与え、敵を罰することができるからですよ」
「すぐれた政治家は人間のもっとも悪い一面をつねにさがしている」

 タムール帝国外務大臣オスカンの言葉。

 タムール帝国では伝説の英雄や昔話の怪物が出没し、人心を惑わせている。太古から蘇った軍勢やトロールの襲撃をくぐり抜け、タムール帝国の都マセリオンに到着したスパーホーク一行は皇帝サラビアンと対面する。
 暗愚を装っていたサラビアンは政治から遠ざけられていたが、ここでも政府転覆の陰謀は進んでいた……。

「学者は往々にして情報の宝庫ですし、政府は学者の発見を無視する傾向がありますからな」
 元パンディオン騎士団長ヴァニオンの言葉。

 もう夫婦そろってエディングスの小説が大好きで、旧版を揃えただけでは飽きたらず、古書店や古本屋で安価で売られているのを発見すれば買いあさり、ベルガリアード物語やマロリオン物語など、中古美品で何セットもそろえては普段用の予備にしたり、贈答に使ったりしてました。
 それが角川書店版も含めてハヤカワ文庫で、今向きのイラストで再版されるようになって万々歳。ウスダヒロのイラストはワールドコンで複製画を購入して額装しましたよ。

 どこが良いかというと、光と闇、善と悪の戦いみたいな壮大な物語を、さまざまな国や種族の運命を呑み込みながら展開しつつ、実際に展開される物語は登場人物たちの軽妙かつ含蓄のある会話のやりとりで彩られてるってところでしょうか。ワクワクして、なおかつ笑えるって部分もあるのが重要。

「あんたがたスティリクム人はよくめそめそする。過去数千年にうけた虐待を慎重にためこんでおいて、暗くてくさいすみっこにすわり、その全部を吐きもどしたり、口いっぱいの吐瀉物みたいにくりかえしかみしめたりするひねくれた喜びが大好きなんだ。自分たちの悩みをなんでもかんでもエレネ人のせいにしようとする」
「おれは自分が生まれる千年前に起きたことよりも、自分が平然とおかした罪のほうによっぽど負い目を感じるね」

 千人議会にて、泥棒にして人殺しなストラゲンの言葉より。

 外交の駆け引きで、譲歩を引き出したい相手に対してよくぞここまで言うなという感じ。単にユーモアがあるだけでなく万事に於いてシビアだよね。

「政治家が真実を言うなんて、だれも思ってやしません」
 さんざん嘘八百の酷いことを言ったことを責められた、ストラゲンの弁明。

【タムール記2】【炎の天蓋】【デイヴィッド・エディングス】【ウスダヒロ】【村山潤一】【ハヤカワ文庫FT】【偏見】【政治的演説】【篭城】【組合の縄張り】【生存圏】【松脂】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「キミはぼっちじゃない!」 小岩井蓮二

2011-12-20 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 突然、金髪幼女の両親にされてしまった悠大としおりの高校生1年生の2人。でも両家の親も近所の人も2人の子供と言い張るし、戸籍も3人が家族となっていた……。

 主人公がバカな話。いや、登場人物はみんなバカでした……。
 新人作品だけれど、テンポが今一つ。「ぼっちじゃない」じゃないというけど、そもそも主人公がそんなに孤独という描写はないし、最後で盛り上がるほど娘がかわいいとか子育てが大変という描写もありません。いろいろキャラを配置しすぎて、誰も彼も役割が中途半端に終わった感があります。
 イラストも巧い人の絵を真似しようとしてるんだけど、基礎力がないので、出来上がりがアンバランス。 

【キミはぼっちじゃない!】【小岩井蓮二】【鳴瀬ひろふみ】【MF文庫J】【Mコレクター】【教室の中心でロリを叫ぶ】【なう】【平行世界】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする