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付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「STAR TREK LIVES!」 ジャクリン・リヒテンバーグ他

2009-05-31 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
『自分がどんなにこのテレビ番組を熱狂的に愛しているか理解されず、孤独に生きているスタートレック・ファンに捧ぐ。「君は独りじゃないよ」』

 『スタートレック』も劇場新作が公開されるということで、懐かしいなあと思いつつ矢継ぎ早に刊行されたTOSを中心とした旧作ムックに読みふけっているうちに、「そういや、うちにも1冊ペーパーバックみたいなのがあったなあ……」と思い出して掘り出してきました。
 直訳したら『スタトレ人生!』とでもなるのかな。あるいは『毎日スタートレック』?

 中学1年の夏に羽田空港の書店にて購入。買ってはみたもののまともに読むこともできず、表紙を眺めていただけでした。だいたい、誰が書いたか、何が書いてあるかもよく判ってなかった。
 便利なものだよ、インターネット。執筆陣の名前がみんな引っかかってくるのが笑える。ジャクリン・リヒテンバーグ、サンドラ・マーシャク、ジョアン・ウィンストン……って、みんないわゆるトレッキーのBNFで、二次創作を書きまくったりイベント主催したり、あげくの果てにはプロになっちゃったような人もいるみたいで、名前からすると3人とも女性だよね。濃すぎる。
 テレビシリーズが終わりって5年くらいで、最初の劇場版『スタートレック』が公開される4年前の発行。
 中坊が買うような本じゃなかったなー。今さら洋書を読む気力も時間もないし、目次だけ紹介しておきましょう。まともに英文和訳するのは久しぶりなので意訳・抄訳・誤訳はご容赦を。

序文……ジーン・ロッデンベリー

序:神の領域 /スミソニアン博物館のスタートレック~スタトレの精神は現実世界にいかなる影響を与えたのかしら?

1:出会い /ファンはスタトレをみつけたし、スタトレも私たちをみつけてくれた。この出逢いは衝撃的。見開きページに裸の男性と血統書付きのトリブル……ファンってのは頭がおかしいのかしら?

2:大人向け /スタートレックは大人向けのテレビ番組の先駆けなの。……大人の鑑賞に堪える作品 vs 子供だましのシロモノ……安全第一主義から脱却し新しいテレビのありかたを目ざしたってところがスタートレックの輝ける功績よ。

3:「私は電話に出るべきじゃなかったわ」 /初めてのスタートレック・コンベンションがニューヨークで開催されたけれど、この歴史的な大会で広報部長になったジョアン・ウィンストンの七転八倒の奮戦。

4:スポックのカリスマ /それは驚くべきものよ……スポックとカークの魅力……スポックの精神分析とかセックスとか未来ショック、混血、カークとスポックの関係……レナード・ニモイの独特な思考……そしてジーン・ロッデンベリーの影響も大きいわ。

5:楽観主義 /スタートレックのスタッフが楽観主義について語ってくれた。作品に込められた楽観主義は、セサミストリートみたいに社会に広く影響を与えたかも……バルカンIDIC(バルカン哲学)はロッデンベリー自身の哲学でもある楽観主義のシンボルだった。

6:黄金のドロップ /目標を設定し達成するための原動力としてのアート……ジーン・ロッデンベリー、ウィリアム・シャトナー、レナード・ニモイ、ドロシー・フォンタナ、その他クリエイターへのびっくりインタビュー……幸福の旅路は存在していたわ。

7:美というのは表面的なものかもしれないけれど、めちゃくちゃになった肝臓は栄光の6日間に導くことができる /ジョアン・ウィンストンのファンとしての夢がかない、スタートレックの撮影セットで過ごした日々。

8:彼らは今何をしてるの? /スタートレックに参加した人たちのその後、再開への希望を語ります。

9:自分たちでやっちゃおう~スタトレ二次創作 /なんでファンが書くかって? なんでこんなに女性同人作家が多いんだって?……書きたいことがいっぱいあるのよ。……スタートレックで作家になってみようっ。

 ……自分で訳してまで読まなくて良いなという気持ちになってきました。中学時分に読まなくて良かった……。日本の同人誌でもこんな構成の冊子をよく見た気がします。『海のトリトン』とか『ボルテスV』とか『未来少年コナン』とかで、作品分析とかスタッフインタビューとかやってましたよね。

【スタトレ人生!】【ジャクリン・リヒテンバーグ】【サンドラ・マーシャク】【ジョアン・ウィンストン】【宇宙大作戦】
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「イスタンブールの毒蛇」 ジェイソン・グッドウィン

2009-05-30 | ミステリー・推理小説
「友情というのは僥倖よ、ヤシム。それに人生は短いわ」
 母后エイメ・デュブク・ド・リヴェリーの助言。

 ヤシムの知り合いの八百屋が半死半生の目に遭わされた。
 ヤシムの行きつけの古本屋が殺された。
 ヤシムの家に身を寄せていたフランス人考古学者も殺された。
 街で何が起こっているのか? ギリシア独立戦争末期に端を発した事件の火種が、このスルタン崩御まで幾何もなかろう19世紀のイスタンブールに飛び火したというのか。
 心ならずも降りかかりそうになっているフランス人殺しの嫌疑を払い除けるため、宦官ヤシムは事件の真相を探ろうとするが……。

「敵がいないのは腑抜けだけよ。ひとに憎まれるには、それ相応の気概がないとね。味方を持ち、危険を冒し--他の者は完膚なきまでに叩き潰すのよ!」
 苦境に陥ったヤシムに、自分だってお行儀よくして今の地位になったわけではないと豪語する母后。

 オスマントルコを舞台に白人宦官ヤシムの活躍を描く歴史ミステリのシリーズ第2弾。歴史ミステリといっても、「歴史の謎を解く」のではなく、「歴史小説+推理小説」という方です。1冊で2度美味しい。いや、登場する料理の数々が実に美味しそうなので3度美味しいのかも。
 なんといってもフランス料理・中国料理と並んで「世界三大料理」のひとつに数え上げられるのがトルコ料理。『味の決め手は火加減ではない。包丁の切れ味いかんにかかっているのだ』というくらい主人公ヤシムの趣味が料理ということもあって、各所で描写される料理の美味しそうなこと。皮目をかりっと焼いた鯖料理のウシュクル・ドルマス、子羊肉で作ったカルヌヤリク、ズッキーニの花詰め、豆サラダ、トライプスープ、トラトルスープ、おなじみケバブ、炙り肉団子、薄焼きパン……巻末に写真入りの料理ガイド付き。

【イスタンブールの毒蛇】【ジェイソン・グッドウィン】【脳内戦場】【バイロン卿】【聖遺物】【地下水道】【女は怖い】
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「東征の艦隊~戦艦「大和」西海岸強襲」 内田弘樹

2009-05-29 | 架空戦記・仮想戦史
 『東征の艦隊~戦艦「大和」ハワイ侵攻』の続編。

 ハワイ攻略に成功した聯合艦隊だったが、日本の国力にさほど余裕がないことも、アメリカの国力が強大で余力が充分に残っていることも解っていた。しかし、日本はハワイで勝ってしまった。もはや、戦争が終わるまで勝ち続けない限り、復讐に燃えるアメリカ軍によって日本の国土すべてが焦土と化すことは明白だった。
 ならば、アメリカが反撃に出る前に決着をつけねばならない。
 聯合艦隊はすべての艦艇、すべての部隊、すべての弾薬燃料を使い果たす覚悟で神武作戦を開始した……。

「俺たちにも守るべき祖国がある。帰るべき故郷がある。戻るべき場所がある。愛する人々がいる。
「それを守るためならば、誰にでも悪意のない正義はあるはずだ」

 第1001降下猟兵大隊、檜山達也大尉の言葉。

 単に「戦艦大和でアメリカ本土を艦砲射撃したい」という妄想実現だけに終わらないところがポイント。日本が始めた戦いは愚かで、正しくもなく、それでも勝たなくてはいけないし……という状況で激突する日米の益荒男たちの物語。戦艦同士の遠慮会釈ない殴り合いに、日本潜水艦隊による通商破壊戦、日系部隊と海軍特殊部隊のアメリカ本土での攻防戦、おまけに航空部隊による雷撃戦と、やりたいことを全部やりつくしたような1冊でした。

【東征の艦隊】【戦艦「大和」西海岸強襲】【内田弘樹】【駆逐艦キーリング】【鷲は舞い降りた】【ナバロンの要塞】
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「銀河乞食軍団」 野田昌宏

2009-05-28 | 宇宙・スペースオペラ
 合本での復刻や鷹見一幸による前日譚『銀河乞食軍団 黎明篇』の刊行も決まってめでたい『銀河乞食軍団』。

 銀河辺境の小さな会社「星海企業」へ駆け込んできたのは少女パム。故郷のタンポポ村の父母と連絡がつかなくなったのだが、警察も軍も助けてくれるどころか口封じされかねないというのだ。
 この星海企業は別名「銀河乞食軍団」という、知る人ぞ知る義侠心に富んだエキスパートの集団で、弱きを助け強きをくじく何でも屋だ。
 この銀河乞食軍団が惑星<星涯>の軍隊や警察を相手に諜報戦を繰り広げ、どうやら軍の実験が失敗してタンポポ村が丸ごと別の次元に吹き飛ばされてしまったらしいと判明するのだが……。

 写真は第1部が完結したときに用意された記念ワインで、著者直筆サイン付き空瓶☆ サインの日付を見ると「1990.JUN.3」ですな。何故に我が家にあるのか忘れてしまったけれど、ローカル・リフレッシュ・コンベンションでの宴会後に希望者総当たりのジャンケン大会か何かで獲得したのか、誰かがもらったのを譲り受けたのか……なんとなくその場でサインをもらった記憶もあるけれどあてにならないからなー。20年近く前の徹夜の宴会あけの記憶なんて、模造記憶もいいとこだから。

【銀河乞食軍団】【野田昌宏】【ハヤカワ文庫】【タンポポ村】【おねじっ子】【クロパン大王】
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「ドラゴンズ・ワイルド」 ロバート・アスプリン

2009-05-28 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「女っていうのは、誰かに追われているときでも、いちばんきれいな自分でいたいのよ」
 自分たちが実はドラゴンだといわれても「どっちでもいい」と言い放つヴァレリー・マッキャンドルズの言葉。

 ポーカーだけが取り柄で適当にビジネススクールを卒業してみたものの就職が決まらないグリフェンは、相談に行ったマルコム伯父から自分たちはドラゴンで、中でもグリフェンと妹のヴァレリーは純血種ゆえに世界中の組織の監視対象になっていると教えられる。
 半信半疑のグリフェンだが、伯父が頼りにもならなければ信用もできないことははっきりし、ガールフレンドのマイにも怪しげな様子がありあり。紆余曲折あってヴァレリーとともに南部の街ニューオリンズへと向かうことになるのだが、そのヴァレリーを狙う影があった。
 ドラゴンといえば聖ジョージ。悪龍退治の聖人の名を借りたドラゴン専門の殺し屋が予告状を突きつけてきたのだ……。

 ニューオリンズのフレンチ・クォーター教区を舞台に、賭博組織に身を寄せることになった兄妹が出会うさまざまな事件をコミカルかつ真面目に描いたロー・ファンタジー。ひとことでいえば、バクチだけが取り柄だったC調就職浪人の太閤記。
 大学のポーカー仲間ジェロームや組織の元締めモーセ、市警風紀課のハリソン刑事など脇役も良い味出しているけれど、やはり要は純血種のヴァレリー、中国系のマイ、赤毛のフォックス・リサとどいつもこいつも怒らせると怖い女3人。そして、この3人そろって暴れ出したら街1つ消えてしまいそうな美女たちとなんとかつきあえるグリフィンはさすが主人公というところでしょうか。
 アスプリンはこのシリーズの2作目を書き上げた後に亡くなっているそうですが、別作者が3作目を引き継ぐということで、しばらく楽しみに追いかけたいと思います。

【ドラゴンズ・ワイルド】【ロバート・アスプリン】【小菅久実】【FBI】【中国マフィア】【ヴードゥー・クイーン】【ファンタスティック・フォー】【シカゴ大火】【ジェダイ】【動物使い】【女は怖い】【麻薬ディーラー】【グリ=グリ】【映画は劇場で観るもの】【話せばわかる/とは限らなかった】
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「少女ファイト(3)」 日本橋ヨヲコ

2009-05-27 | スポーツ・武道
「どうにもならない他人の気持ちはあきらめて、どうにかなる自分の気持ちだけ変えませんか」
 小田切学の言葉。物は言い様考え様。

【少女ファイト】【日本橋ヨヲコ】【バレーボール】
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「彷徨える艦隊2~特務戦隊フュリアス」 ジャック・キャンベル

2009-05-27 | ミリタリーSF・未来戦記
「過去の夢を断ち切るのは容易ではありません。たとえ、今も夢のままであろうとも」
 ビクトリア・リオーネ副大統領の言葉。

 満身創痍となった遠征艦隊をなんとか味方の星系まで連れて帰ろうと、敵支配星域を放浪するギアリー大佐の逆境譚の第2弾。

 制圧した星系の捕虜収容所から救出した捕虜の中にいたのはフランチェスコ・ファルコ大佐。ギアリー大佐が脱出カプセルで冷凍睡眠に入っている間に「神様」に祭り上げられていた人物としたら、ファルコ大佐は神格化された軍人であり、劣悪な条件の捕虜収容所の士気を維持してまとめ続けていた人物でもあった。
 そのファルコ大佐が艦隊の作戦方針においてギアリー大佐と対立し、39隻の艦隊をひきいて離脱してしまう……。

 あいかわらず、周囲から「見損なった」「裏切られた」と非難されまくりのギアリー大佐に思わず涙。やることやらずに文句ばかり言う人間に囲まれ、暴君にならず投げ出さずに指揮を執り続けるのはどれほど大変なことか。艦や士官を大量に失ったことによりロステク状態となった過去の戦闘ノウハウをいかに現代に蘇らせるか四苦八苦しています。頼りにしたい人工知能は、1世紀の間に変わってしまった書き方・話し方に適応してしまっているため質問をなかなか理解してくれず役立たず。なんでタイトルが『逆境艦隊』じゃないんだろう……?
 今回はハイパーネット・ゲートの危険性とその背後にいるかもしれない異星人に焦点があてられますが、主題はあくまで艦隊戦。ギアリー大佐が特に信頼した艦による特務戦隊を編成した結果がどう出るかという話で、なかなか燃える展開です。表紙は巡航戦艦<フュリアス>のクレシダ艦長でしょうか?
 しかし、宇宙戦闘で「機雷」「近距離ミサイル」「運動エネルギー弾」と来て「ブドウ弾」となるとちょっと拍子抜け。帆船の戦いかよ!? もっとも、史実のブドウ弾は対人用の散弾みたいなもの。こちらは戦艦の装甲破壊用で、ちゃんと理屈にあって効果があるんだから文句はつけられません。

【彷徨える艦隊2】【特務戦隊フュリアス】【ジャック・キャンベル】【寺田克也】【現地徴発】【ブドウ弾】【ゲート崩壊】
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「彩雲国物語 黄粱の夢」 雪乃紗衣

2009-05-26 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「何もかもさらけ出すことが、『心を許す』ということではないんだよ。この先、君はもっとたくさんの自分を見つけるだろう。たくさんの自分を見せられる相手をさがしなさい」
 黒狼から邵可への言葉。

 本編はかなり陰鬱というか、再び上昇するまでにどこまで沈んでいくのかという、昨今の経済情勢みたいな展開なので、ここらで外伝が入ってくるとホッとするな……と思っていたら、案外そうでもなかった中短編集。前の短編集『隣の百合は白』がコメディ色が強かったのとは正反対でした。

 今まで過去の出来事としか語られていなかった清苑の公子時代の物語。一挙一動を常に誰かに見られており、それが常に自分の生死に直結してしまう朝廷の陰謀劇と、その中で生きようとする第二公子・清苑の姿を描く『鈴蘭の咲く頃に』。
ここでも官吏の望む「朝廷」「王」の姿というものが指摘されていますが、こういう世界に飛び込む秀麗は大変だし、王になるのはもっと大変という話でした。よくきまり文句のように「愛憎のドラマ」とかいわれるけれど、こちらは正真正銘の愛憎劇です。
 2本目は、死に損なった2人の少年が出会う『空の青、風の呼ぶ声』。清苑と燕青の過去話で、人を頼ったり人に頼られることを知らず、ただ一振りの諸刃の剣のように生きてきた少年清苑が、家族を盗賊に惨殺され、復讐のために生きてきた少年・燕青と出会うことで仲間を手に入れ、そして失うまでの物語。今回はどれも出会いと別れがテーマの物語ばかりですね。
 さらに、秀麗の父母、邵可と薔君の宿命の出会いと求婚を描く『千一夜』と、その後日譚を描いたスケッチ『千一夜のそのあとに』を収録。こちらは官僚の跳梁跋扈ばかりが目立つ本作の中にちらほらかいま見える仙人譚にちょっと踏み込んでいます。今でもなかなかとらえどころのない邵可ですが、幼いときも若いときもとらえどころがなかったというか行動が予測不可能というか、しっかり状況を把握し計算してあらゆる可能性を考慮しつつ最終的には短絡的にも見える思いっきりの良い行動をとってしまいます。その思い切りの良さが魅力ですが……。

 どれも本編を知らなくても史劇の感覚で愉しめるし、知っていたらいたで本編での成長ぶりを思ってにやにやしながら読める作品ばかり。単発で読めて、朝廷での貴族や官僚の勢力争いの過酷さも若者口調でお気楽極楽な会話もあり、悲劇も喜劇も表裏一体に描かれていますから、今から『彩雲国物語』に手を出すには最適の中短編集だと思います。『彩雲国物語』の要素がみっちり詰まった1冊です。
 これを読んで面白いと思えば最初から読めばいいし、つまらなければこのシリーズには縁がなかったと思えばいいわけで、リトマス試験紙みたいな本ですね。

 その中でも、自分が面白かったのは『空の青、風の呼ぶ声』。こちらはどちらかというと武侠小説で、言ってしまえば梁山泊攻略みたいな物語。

【彩雲国物語】【黄粱の夢】【雪乃紗衣】【マジギレ】【呪殺】【セカイ】【梁山】【復讐】【八仙】
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「電波女と青春男2」 入間人間

2009-05-25 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「これからはね、鏡を毎日見る生活をしなさい。そうしたら貴女は、もっとたくさんの人に好きになって貰えるから」
 女々さんから娘への言葉。

 布団にぐるぐるくるまったままの電波系ダメ人間の生活から脱したように見えるものの、本人の対人能力に疑問が多々ある上に周囲も電波女としか見ないから、エリオの社会復帰は前途多難。
 その頃、街では野良犬や野良猫が消えるという事件が起きていた……。

 クラスメイトのミッキーが巧く効いているみたい。
 どっちかというと、言動がとんでもない登場人物ばかりなだけに、彼女のような“悪意はないけれど「君子危うきに近寄らず」”というキャラがいるので、話全体が飛んでいかずに済む。かといって、彼女みたいにあたりまえの行動をする人やバイトの面接担当者みたいな人ばかり出てきては重苦しい話になってしまうわけで、良い塩梅になってます。なんにせよ、社会復帰は遠いけれど、第一歩を踏み出したのは大きな前進。『この一歩は小さいが、引きこもりにとっては偉大な一歩である』ってか?

「馬鹿でも考えれば何か思いつくよ。馬鹿の考えは損得を抜きにすれば大抵正しい。何しろ単純だからねえ」
 駄菓子屋の田村さんの言葉。

 今回は章ごとに視点が変わっていますけれど、その切替が若干解りづらく、何回か誰の視点か迷いました。不満はそれくらい。
 ペットボトルロケットは、世に広まり始めた頃はけっこう打ち上げてました。真冬の田圃で水しぶきを浴びながら飛翔するロケットを何度も見送ったものです。やらなくなったのは、いつ頃からかなあ。
 普及し始め、学校教育に取り上げるところが出てきたあたりかな。
 ペットボトル・ロケットは、1つ1つ試行錯誤で最善の設定を見つける「科学の心」が面白さの要だったのに、教育っぽくなると途端に「空気を送り込む空気入れを押す回数」とか「羽の枚数と形状」とかレギュレーションで画一化して縛ろうというイベント主催者が出てきて、しらけたのでした。みんなで同じ形状、同じ設定で同じように飛ばすって、飛距離の差は工作精度と風向きの運だけじゃん。そんな社会主義ロケットなんかいらないよ!
 この話のロケットは思い思いに打ち上げられていて、最初の頃のワクワク感が伝わってきました。愉しいんだよね。

【電波女と青春男】【入間人間】【ブリキ】【耳をすませば】【キャトルミューティレーション】【ペットボトルロケット】【E.T.】
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「日本人の知らない日本語」 蛇蔵&海野凪子

2009-05-24 | エッセー・人文・科学
「みんな知りもしないで日本のことを悪く言うのはやめて!! 日本はみんなが思うような未開の国じゃないの」
 危険だからと来日を反対したスウェーデンの友人知人への反論の言葉。「武士には魂があって、一般人に手を出したりしないんだから!」と。

 日本語学校の先生となった著者が外国人学生と繰り広げるやりとりを通じて「日本語」について考えるコミックエッセイ。
 うちの父などは、お店で「1000円からお預かりします」などといわれると、それはどんな日本語だ?まともな言葉と思って使っているのか?とねちねち問い詰めちゃったりしますが、外国人が任侠映画や古い教科書で学んだ日本語もおかしいけれど、今の日本人の言葉もかなりおかしいよね……というあたり、日本語を教える側の苦労が伝わってきます。「その言葉は正しくないけれど、バイト先のマニュアルで指示されてるならそれに従っておこうね」くらいしか言えないですよね。
 日本のファミレスやコンビニの言葉使いがおかしくなったのは、大手広告代理店がそういう言葉遣いをするような接客マニュアルを作ったのが広まったからという話があるけれど、どうなんでしょうか。
 それはともかく、日本人でも普段気にしたことも無さそうな「モノの数え方」(イスは「脚」、パンティストッキングは「足」、では手袋は?)とか、日本と中国では同じ「鮪」という漢字をあてている魚が違うのは何故かとか、留学生の勘違いや教師の失敗談などを通じながら、日本の言葉や生活習慣を再確認できる面白い1冊。

【日本人の知らない日本語】【蛇蔵】【海野凪子】【日本語再発見】【敬語】【日本のルール】
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「“文学少女”と神に臨む作家」 野村美月

2009-05-23 | 本屋・図書館・愛書家
「読者は作家を裏切るのよ。読者の喜ぶ顔を見たいと思っても、勝手な要求ばかりする。こちらの想いが伝わらない。勝手に憧れて、勝手に失望して、勝手に憎悪する。ある日突然、手のひらを返したように冷淡になる。そのうち忘れてしまう。そして、別の作家を見つけるのよ」
 朝倉美羽の言葉。

 文学少女の最終章は、遠子先輩の卒業を前にさまざまな事態が一斉に動き出し収束していきます。

 大学入試を控えた遠子と心葉が会う機会は少なくなり、書くことを捨てた心葉は、遠子に井上ミウは2作目を書くべきだと告げられると裏切られたように感じます。そして心葉と琴吹ななせはつきあい始め、流人が、竹田が、麻貴が、それぞれの思惑で動きだします。
 人は変われるのか変われないのか。
 そして、最後に提示される謎は、遠子の両親の死について。
 当事者である遠子ではなく、井上心葉が死者の代弁者となり、彼らの物語を想像し始めます……。

 シリーズ全体で評価しないといけない作品でした。遠子と心葉のほんわかしたやりとりに誤魔化されがちですが、それぞれの巻では個々のキャラクターの描写が不足していたり、謎が完全に解決されていないかとか、解決されていても後味が悪すぎるとか、いろいろ物足りない部分や何かしら引っかかりが残っていて、誰も気持ちの整理はついていても全然幸せになっていないものばかり。それがすべて「めでたし!」といえる形で決着がついてしまったのは流石は最終章。読み終えてすっきり晴れ晴れとした気分になれました。
 人間失格コンビともいうべき”竹田千愛と流人についても「めでたし!」といえるかどうか疑問な部分は残りますが、大きく欠けた部分がある者同士うまく収まったというところかもしれません。

【“文学少女”と神に臨む作家】【野村美月】【狭き門】【ぺたんこ】【ヘタレ】【毒薬の小瓶】【シュークリーム】
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「世界を食いつくせ!」 アンソニー・ボーデイン

2009-05-22 | 食・料理
「もっと飲まないと、祖国と同胞に対する裏切り者とみなされるわよ!」
 ロシアのレストランの美人ウェイトレスは、客のウォッカ消費量が少ないと厳しくチェックする。

 著者はNY超有名店の破天荒シェフ。自分が「食」に目覚めた幼少時代から酒と女とドラッグにのめり込んで店を点々とした修行時代を綴った『キッチン・コンフィデンシャル』がベストセラーになったものだから、売れているうちに利用できるものは利用しようとテレビ局とタイアップして「究極の食」を求めて世界を巡る旅に!(オーナーは引き留めてくれなかったし)
 美食家の垂涎の的であるオート・キュイジーヌに舌鼓を打ったかと思えば、片田舎の売れ残りの定食でもだえ苦しむ山あり谷ありの世界旅行(鼻持ちならないテレビクルー付)。豚のに立ち会い食材の製造過程を目の当たりにしたポルトガル、幼少時代を弟と共に追体験しようとして失敗したノルマンディー、ベトナム戦争の痕に悪酔いするサイゴン、クメールルーシュの影響力がいまだ色濃いカンボジア、女性陣に引きずられバーを梯子して美味い酒とつまみに酔いしれたバスクと世界各国を訪問します。
 前作を読んで、どんなところにでも行ってどんなモノでも食べられる人だと思っていたら、さすがにネバネバ系はお手上げだったらしく、トーキョーでは納豆や山芋に苦戦することになりますが、あれやこれが食べられるのにこっちはダメというあたりが食の不思議です。

 毒舌ぶりもあいかわらず。サラダバーは出すのは(コストが下がるから)好きだが食べるのは(雑菌だらけだから)キライだとか、クリスマスメニューにトナカイを出せば子供は泣き喚くぞと嬉しそうに語ったり。
 ただ、それが嫌味になりすぎないのは、本人はちゃらんぽらんで好き勝手やっているように見えながらも偽善を嫌い、政治家や役人の権威を小馬鹿にして、美味いものは美味いと讃え、不味いものには罵声を浴びせ、愉しいときには笑い、苦しいときには泣き、正直だってところがはっきりしているからでしょうね。そのあたり、椎名誠の著作から受ける印象と似ています。
 EUへの非難もかなり目立ちます。言及箇所そのものは多くありませんが、EUの無理矢理な規制が中小企業を苦しめ、伝統的な食材を排斥し、食文化をダメにしていると厳しいです。EUは小企業憲章を採択するなど、マイスターの昔から職人を大事にしているというイメージがあっただけにこれは意外でした。(2009/05/22)



 ディスカバリー・チャンネルでの著者プロフィールによると、ボーディンは「ベストセラー作家、グルメ、美味を求める冒険家、愛飲家、喫煙者、快楽主義者……」とリストは続きますが「シェフ」って書いてないんですが?(2009/05/22)

【世界を食いつくせ!】【キッチン・コンフィデンシャル・ワールド・エディション】【アンソニー・ボーデイン】【新しいロシア人】【EU】
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「オオカミさんととっても乙女な分福茶釜」 沖田雅

2009-05-21 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「かわいいは正義って言うだろう? だから、かわいくない僕らは悪で、絶対に正義には勝てないんだ? だから、逆らっても無駄で、僕らはただただ嵐が過ぎ去るのを待つかのように耐えるしかないんだね? 嵐は去るものだし?」
 頭取さんのポジティブな後ろ向き発言。

 おとぎ話をモチーフに、御伽学園内で繰り広げられる人助けコメディ(だと思う)の最新刊は1冊まるまる文化祭がテーマ。
 模擬店で売上勝負したり美人コンテストとかあったり障害物競走で生着替えとかどこかで見たようなゲーム満載のイベントがあったり。その中で過去のゲストキャラの総ざらえというか「あの人は今!?」みたいな出番を作りつつ、基本的には「ちょっと近寄りがたい怖い人」だと思われていたオオカミさんが、周囲からツンデレ娘とはっきり認識され、いじり回されるようになるまでを描いてます。名前も出てこないクラスメートからまで、いいようにいじられてますね。
 一方、乳酸菌絡みのアピールは、『先輩とぼく』におけるタッキーのアジ演説を彷彿としてしまって、「ああ、沖田雅の作品だなあ」とあらためて実感してしまいました。身も蓋もないダメダメ人間な論法が持ち味です。

【オオカミさんととっても乙女な分福茶釜】【沖田雅】【大文化祭】【ツンデレ】【乳酸菌】【女子高生なまにぎり】
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「鉄のエルフ(2)~赤い星」 クリス・エヴァンズ

2009-05-20 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「みんなが自分と意見の違う相手を殺しだしたら、この世から人がいなくなってしまいます」
 一兵卒アルウィン・レンウォーの言葉。2008年の作品。

 帝国陸軍<鉄のエルフ隊>は、<星>を探して辺境ルーグル・ジョルに到着するが既に<影の女王>によって砦は壊滅しており、そこにさらにエルフキナの反乱軍が押し寄せるのだが……。

 いきなり表紙が6頭身の少女マンガキャラで、「どういう展開なんだ!?」と愕然としたペリカン最強伝説。いや、もともと1冊を日本語版で2分冊したので、話の毛色は変わっていませんでしたが、「新感覚ミリタリー・ファンタジイ」という意見には賛成しかねます。つまらなくはないけれど「ミリタリー」じゃないよね。それをいうならフィーストの『リフトウォー』の方が遙かにミリタリー・ファンタジイ。
 テクノロジー的にナポレオン戦争というのはわかるのだけれど、どちらかというと3人パーティーの冒険者が300人規模になったくらいの話なので、ファンタジイは好きだけれどミリタリーはちょっと……という人でも安心して冒険を楽しむことができます。

 ミリタリー的には、あちらこちらの部隊から押しつけられたダメ兵士の群のはずなのに、いつの間にきちんとした方陣組んで戦えるようになったのか。砦の司令部と前線の主力の間の連絡手段はどうなっているのか。このあたり、普通の戦記ものなら下士官のオニっぷりがふんだんに発揮されたり、指揮官のカリスマぶりが披露されたりするもんですが、この話はそういうシーンに割く分の紙幅を魔法に関する話や個人的な話とかに使ってしまうので、ミリタリー的な熱さとか軍略の精緻さが物足りないですね。
 ナポレオン戦争当時のレベルといえばその通りなんだけれど、部隊間の連絡に伝令くらいしか手段が無さそうなのに、常に前線に出て指揮を執りたがる士官というのは指揮官としてどうなんだろう?

 ファンタジー話としては、木々との結びつきを重んじるエルフの生まれでありながら、結びつくべき木を持たず森を嫌う主人公の鬱屈具合が面白いけれど、それが今後いかにストーリーに結びつくかが注目点かな。エルフキナの商人の娘とも一目惚れしたようだけれどそんな風にも見えず、今はただ周囲が「あなたたち両思いなのよ」と勝手に囃し立てているだけな気がします。2人とも自分の感情と使命に折り合いをつけないといけない立場なので仕方がありませんが、もう少しツンデレの見せ方を勉強すべきだと思いました。

【鉄のエルフ】【赤い星】【クリス・エヴァンズ】【方陣】【指揮官は兵士と共に前線で戦うもの】
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「新・特捜司法官S-A(8)」 麻城ゆう

2009-05-19 | 超能力・超人・サイボーグ
 ウィングス文庫の背表紙装幀が一変していて書店の書架で探すのに苦労しました。こういうシリーズ途中での変更って嫌いなんだけど、最近各社変えすぎです。

 暴徒と化した群衆によってネオヒューマンが殺される事件が相次ぎ、人類によるネオヒューマン殺しを「卑属殺人」として厳罰化する法律が成立してしまう。これは人類とネオヒューマンにとってどういう意味を持つのか?
 一連の事件から、ネオヒューマン殺しは反ネオヒューマン派の仕業ではなく、ネオヒューマン有利に社会を動かそうとする陰謀の一環ではないかという結論に至る秋津たちだが、その黒幕と思われる謎の組織『九尾の蜥蝪』についてはまったくつかめていなかった……。

 新たなグループが誕生し、感情よりも論理、個より全を優先するネオヒューマンの特異性がさらに強調された巻です。ネオヒューマン全体のためになるなら仲間の死も当然と受け入れる、自分を殺すこともいとわない。人の変革がどちらへ向かうことになるのか、その鍵を握るのはただの人間に過ぎない秋津秀です。
 雑誌連載分の『卑属殺人』と書き下ろし短編『バーリー警部の事件簿』が収録されています。いつものようにするするっと読めて若干物足りない気もしますが、連続ドラマの1時間分と思えば、これくらいの進展でしょうか。安心して読めるシリーズです。

【新・特捜司法官S-A】【ジョーカー外伝】【麻城ゆう】【道原かつみ】【進化】【新人類】
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