【 迷惑 】
おかぁはんの店の裏通りから 車の止まる音がして、クラクションが短く一度
暫くして、開け放たれていた裏口から おかぁはんの顔が。
「あんたぁ 若社長はんにアンジョウ言うといたからなぁ 」
自分 おかぁはんと入れ違いに 外に。
出掛けに 「 ぅんっ おぉきに 」 っと。
路地裏道 真夜中暗さが宵の口のケバさ 隠していました。
其処に、ヘッドライトの灯りを消し停車している 独逸製高級セダン
夜の暗さの中でもボディの輝き、艶めいていました。
場末の路地裏に
獰猛な獣が蹲る様に、場違いな感じっで 停まっていました。
自分近づくと 運転席のブラックフイルム貼られた窓
微かなモーター音と共に下がります。
自分、窓から首ぃ突っ込む様にして 小声で言いました。
「たいしょお(大将) こないなぁ晩い時間に無理言うてぇ すいません
カンニンっでっせ 」
「気にすなっ あいつにはよぉ世話になってるさかいになっ ええっ 」
酒屋の若大将 囁き喋りの息に酒臭さがでした。
「おぉきにですっ 」
パジャマ姿の酒類問屋の若大将 助手席から鰐革手提げ鞄取りあげ
中かを手探りで某ブランド物のキーホルダー 指に引っ掛け取り出し
鍵を外して此方に差し出しました、倉庫のシャッターの鍵を
自分受け取りましたっ 摑まれました!っ 手首をっ!
蒼白い顔の若旦那 受ける印象からは想像出来ない様な力で、
自分の手首 強く握ってきました。
「真二はんにぃゆうてなっ 我慢しぃやぁって 」
自分の手首っ 無理やり上下に揺すられっ でした。
「はい 伝えますわぁ 」
嘘ぉ 言いました
「はよう往ったりぃ 」
「ホンマにおぉきにでっせぇ 」
「あっ!シャッターなっ電動やけどなっチョッと重いけどガンバって自分で開けやっ
電気入れると大きな軋みぃするさかいにな 近所のんが間違ぁて警察に泥棒やって
言うさかいにな 手で開けた方がええでっ 」
「はいっ そぉしますぅ ホンマにおぉきにぃ~! 」
車っ 灯りを消したまま静かに裏通りを表道まで
ブレーキランプが一瞬 輝き 右に曲がって視えなくなりなった。
「おかぁはんっ 今度真二から連絡あったら 倉庫で待ってるゆうてなぁ 」
「 うんっ、ちゃんと言うとくっ・・・・・こぉちゃん、ごめんなぁ 」
「ぇえよぉ 忘れんとゆうてなぁ 」
自分っ 酔っ払いたかったです。
けどぉ、街のアッチコッチから聞こえるパトカーの狂った様な 甲高い鳴き声
其れが 自分を追い立てる様に聴こえ 今宵始まる出来事への想いが
自分の背中を 押しました。
『 今夜ぁ なんで皆はんワイの事ぉ 名前で呼ぶねんっ ックッソォ! 』
叫びたいのを堪えて 夜の空 振り仰げば
月ぃ 銀色でした。
今夜 自分の心ぉ メッキリ老けてました
此の少し前 酒類問屋の大旦那におかぁはん、夜分に無理な事を電話で言ってます。
『今までの付き合いやろぉ・・・・・うちの真ちゃんなぁ・・・・ほんでなっ
どっかに匿えるとこぉないやろかぁ・・・・ 』
自分 茶碗酒ぇ呷りたいのを我慢しぃ 聞き耳立てていました。
押し殺した囁き声で 「ぇ! 息子はん 来てくれますんかぁ! 」 って、おかぁはん。
自分っ 茶碗酒呷りながら
『ぁ!っ また迷惑が生まれるなぁ・・・ 』 っと。 でした