巴里の中心で、ワンとさけぶ

笑いながら一気に読んでください! 愛犬・ラブラドールとのドタバタ巴里暮らし

さよなら、プランセス

2006年06月01日 14時11分10秒 | Weblog
 今から12年前、コリーとシェパードのミックスの子犬が、パリに住むベルナールおじさんとマリークロードおばさんの家にやってきました。当時ご夫婦は、ひどいペットロスに陥っていました。18歳まで長生きしたミックス犬が天寿をまっとうしてしまったからです。涙とため息ばかりの日々……。それを見るに見兼ねた南仏の親類が、オテンバな子犬を強引に送り込んできたってわけです。子犬はプランセス(英語だとプリンセス)と名付けられました。
 翌日からベルナールさんとマリークロードさんに笑顔が戻り、そして散歩コースにあるドッグランへと通いはじめたんです。プランセスはボール遊びの天才です。サッカーのPKみたいに、ベルナールさんがフェイントをかけながらボールを蹴る、と瞬間にキーパー役のプランセスがボールの飛ぶ方向を読み、走って飛んでボールをキャッチ! その姿には「オオー!」「すばらしい!」公園を散歩中の人々からも思わず声がかかるほど。
 そして時は流れて、プランセスが9歳になったとき、3ヶ月のラブラドールがドッグランデビューし、せっかくの好プレーをじゃまするようになってしまいました。プランセスはしつこくつきまとうチビラブに手を焼いて、唸ったりあま噛みをして叱るんですが、それでもチビラブは犬の道を教えてくれるのは彼女しかいないと勝手に決めたようで、いっつもピタッリ! この困ったチビラブがウチのジュエルだったんです。
 それでも名コーチのベルナールさん、名プレイヤーのプランセスの指導の甲斐あって、数ヶ月後にはジュエルも迷キーパーとしてプレーに参加。それからは毎日毎日、いっしょに遊びました。そうプランセスとジュエルは師弟関係になったんです。10歳になっても、11歳になってもダッシュで走れるプランセスは常に注目の的、それに「犬はな、走ってれば病気になんかならないもんさ」とベルナールさんはいつも言ってました。
 が、まさかの脳卒中がプランセスを襲いました。家族との夕食後、団らんのひととき、プランセスは突然パタンと倒れたそうです。ベテラン看護婦のマリークロードさんはその様子をみて、「ああ、これはあと一時間……」と思ったのだそうです。そういうときの症状は人間も犬も同じなんだそう。ご夫妻は動揺しながらも、それでも、慌てて動物病院へ駆け込むこともなく、プランセスを引き連れ回すこともなく、倒れた場所に静かに寝かせ、ふたりでやさしく撫で続けたそうです。そして一時間後、プランセスは天国へと旅立ちました。12歳のお誕生日を迎えることはできませんでした。
 ベルナールさんとマリークロードさんは今、再びペットロスに苦しんでいます。そして事情がわからないジュエルはドッグランで、プランセスが歩いてくる方角ばかりを見て、待ってるんです。
 とっても悲しいことだけど、でも、私たちは待ってます。ご夫妻が新しい子犬を連れて笑顔でやってくる日を。そしたら、今度は、プランセス直伝のボール芸をジュエルが教えてあげますから……。