国連の女子差別撤廃委員会が、おかしなことになっています。
国連総会は、1979年、女子差別撤廃条約を採択し、この条約は
1981年に発効しました。
女子差別撤廃委員会は、この条約がどう遵守されているかなどを
チェックするために設けられた組織で、世界各国から23人の委員
が選ばれれています。委員は、 任期4年で、2年ごとに半数が改
選されます。2010年時点での構成は、弁護5人、政府関係者(外
交官など)8人、学者6人、女性団体・NGO代表が3人ですが、
現在は、少し変化しているかもしれません。
委員会はジュネーブにあり、毎年、2月、7月、10月ごろに、
委員会を開きます。
今回は、2月の会合の話です。
2月の委員会の会合は、おかしな話が、相次ぎました。
委員会は、3月7日に報告書を出しました。
その中で、慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意について、次の
ように批判しました。
すなわち、
・慰安婦問題は未解決の多くの課題が残され、遺憾である。
・日韓合意は、犠牲者(元慰安婦)の立場に立ったものではない。
・元慰安婦に、補償、賠償、公式謝罪、名誉回復のための措置な
どを含む十分かつ有効な救済を実施するよう勧告する。
・教科書でも、慰安婦問題を適切に記載して、学生や社会に周知
させるよう求める。
ーーなどというのです。
これは、日本の新聞各紙が伝えています。
第二は、日本に対する見解の中で、日本の皇室典範が、皇位を継
げるのは男系男子のみとし、女性天皇を認めていないことを問題視
し、その見直しを求めようとしたことです。
不思議なことに、2月に日本についての審査会合が開かれたとき
には、皇室典範は、全く問題にもされなかったということです。
これは、日本政府が抗議し、最終的には、その部分が削除されま
した。
これも、新聞各紙が伝えました。
第三に、これは、女子差別撤廃委ではないのですが、国連の子供
の売買、児童売春、児童ポルノに関する特別報告というものがあり、
対日報告書の中で、次のように記しました。
すなわち、
・JK(女子高生)ビジネスは、日本の女子中高生の間で、まれ
なことではない。
ーーというのです。
この3つ、いずれも、日本に対し、ある種の偏見に満ちた指摘あ
るいは批判となっています。
客観的な調査や分析に基づく批判であれば、冷静に受け入れる必
要があります。
しかし、この3つの指摘は、非常に意図的なものを感じます。
客観的でもないし、そう断じる根拠も示していない。
偏った見方だというほかありません。
まず、第一の批判を見てみましょう。
慰安婦問題についての日韓合意は、日本と韓国という国同士、政
府同士の合意です。
条約でこそありませんが、安部首相と朴槿恵大統領、つまり、国
のトップ同士が、合意したものです。
それを、国連の一委員会が批判するというのは、国連の枠を超え
た行為で、あってはならないことです。
国連が、どこかの国に対し、批判するのであれば、それは、国連
自身の相当な覚悟がいります。たとえば、北朝鮮に対し、今回は制
裁決議でしたが、その前に非難決議をしたことがあります。そのと
きは、安保理で、中国が難色を示し、なかなか、決議ができません
でした。仮にも、一国に対して非難あるいは批判をするというのは、
そのぐらい難しいものなのです。
ところが、日本に対する批判を、女子差別撤廃委員会という国連
の一委員会が、すっと出してしまう。
一委員会といっても、国連です。
それなら、北朝鮮への非難決議も、国連のどこかの委員会で出せ
ば簡単だということになります。
さらにまた、女子差別撤廃委は、日韓合意を、「被害者の立場に
立っていない」と決めつけています。
そんなことを、当事者ではない委員会が、どうしてそうも簡単に
言えてしまうのでしょう。
そんなことを言い始めたら、世界のあらゆる合意を、同じように、
「被害者の立場に立っていない」といって、批判することができま
す。つい先日には、シリア内紛で、停戦合意が成立したばかりです。
この合意も「被害者の立場に立っていない」と批判すれば、簡単に
批判できます。
同じように、世界各地で地域紛争が起き、各国の努力でようやっ
と停戦合意にこぎつける、ということがよくあります。その合意で
も、この委員会の論法を使えば「被害者の立場に立っていない」と
批判することが出来ます。
「被害者の立場に立っていない」という言い方は、非常にあいま
いな言い方で、また、反論しにくい言い方です。そして、あらゆる
合意に使える「便利」な言い方です。
国連の正式な機関(女子差別撤廃委)ともあろうものが、そんな
言い方をするのが、そもそも、間違っているのです。がするという
被害者の立場に立っていないという批判は、韓国国内の市民団体
の言い分そのものです。女子差別撤廃委の批判は、韓国の市民団体
の言い分を色濃く反映したものとしか言いようがありません。
教科書に載せろというのも、国連の機関としては、これはまたな
んとも、乱暴な言い方です。
国連が、主権国家の教科書に口出しするというのは、聞いたこと
がありません。
岸田外相は、この委員会報告に対し、「日本政府の説明を反映し
たものとは思えない」と批判し、「慰安婦問題についての日韓合意
は、アメリカやイギリスなど多くの国が歓迎し、国連も潘基文事務
総長が歓迎の意を表した」と反論しました。
国連事務総長が歓迎しているのに、委員会が批判する。これは、
現在の国連で、委員会という組織が、非常に不透明に運営されてい
るのではないかという疑問を提起させます。
第二の皇室典範の問題は、いわゆる、ためにする議論の典型でし
ょう。
だいたい、皇室典範というものを、国連の一委員会が、知ってい
るはずがないでしょう。委員会のメンバーのだれかが入れ知恵をし
たのだろうと思います。ふつう、皇室典範というものが存在するこ
と自体、外国の人は、誰も知らないでしょう。
しかし、天皇というのは、日本の国家元首です。日本の国家元首
は、首相ではなく、天皇です。
主権国の国家元首の選び方に対し、国連が、口をはさむ。そんな
失礼なことはないでしょう。もし、国連が国家元首の選び方に口を
はさむのであれば、それは、やはり、相当な覚悟がいります。
これは、産経新聞によれば、中国系のメンバーが提案したのでは
ないかということですが、そうだとすれば、反日の一環ということ
になります。
中国人でも、皇室典範を知っている人は少ないでしょう。ですか
ら、それを考えると、中国系のメンバーが提案したものだとしても、
そのメンバーに話を持ち込んだ日本人がいたという推理も成り立つ
ところです。
この話は、菅官房長官が9日の会見で、「皇位継承のあり方は、
女子に対する差別を目的としたものではなく、委員会が皇室典範を
取り上げるのは全く適当ではない」と抗議しました。
三番目のJKビジネスですが、国連の報告は、日本でのJKビジ
ネスはまれではない、と指摘しています。
日本人なら、えっ? というところです。
失礼でしょう。
そんなことを報告するなら、まれではないという根拠を示さなけ
ればなりません。しかし、その根拠はどうも、示されていないよう
です。
思いあたるのは、昨年、国連の関係者(女性)が、日本に来て、
日本プレスクラブでスピーチしたことです。彼女は、プレスクラブ
で「日本の女子高生は、13%が、援助交際をしている」と話し、
猛烈な批判を受けました。日本政府も抗議をし、後日、この発言は
取り消されました。
なんでこんなことを言ったかというと、彼女は、スピーチの前に、
女子高生の援助交際を批判している市民団体に行き、そこで、話を
聞いていたのです。たぶん、そのときに、日本の女子高生が、普通
に、援助交際をしているという話を聞いたのでしょう。
もし、彼女が、アメリカで同じようなスピーチをしたら、アメリ
カ人は激怒するでしょう。
国連の委員会は、国連総会とは別のところで活動しているだけに、
委員会報告は、恣意的なものになりやすいのだと思います。
今回の3つの報告は、極めて意図的な内容というほかありません。
それは、日本のイメージを国際的に落とそうというのが狙いなの
ではないかと思わざるをえないのです。
日本政府は、これまで長い間、そういうのは誤解に基づくものだ
から、放っておけば、みんな分かってくれるという立場を取り、こ
ういうときに、ほとんど、反論もせず、放置してきました。
そのツケが、いま、回ってきていると思います。
遅まきながら、今回のように、政府レベルで、きっちりと反論し、
抗議するというのは、新しい一歩でしょう。
「雄弁は銀、沈黙は金」という格言は、国際社会では、まったく
通用しません。
国際社会では、雄弁こそ金です。
日本は、モノを言わなければなりません。
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