いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

タイの洪水・・・水没の危機にあるのは、実は、日本経済ではないでしょうか。

2011年10月20日 14時42分27秒 | 日記

 タイの洪水には驚きました。



 都市や工業地帯が、まるまる水没してしまうことに、も
ちろん、まず驚きましたが、日本の企業がこれほどまでに
タイに進出していることには、それ以上に驚きました。


  タイに進出と書きましたが、製造業の生産拠点を、日本
からタイに移転したということです。
 なにしろ、タイで作っている日本車は、150万台に達
するそうです。「日本車」と書きましたが、日本の企業の
車というだけのことであって、実際は「タイ車」ですね。

 自動車だけではありません。
 もちろん、自動車の部品メーカーもどっと出ています。
テレビのインタビューで、タイにある日系の自動車部品メ
ーカーの役員が「洪水で、部品の生産がストップしていま
す」と答えていました。インタビュアーに「部品は、どこ
に出荷していたのですか?」と聞かれ、この役員は「ホン
ダです」と答えていました。もちろん、タイのホンダのこ
とです

自動車の生産が、タイの国内で完結しているわけです。
もちろん、多く電機メーカーも、生産拠点というか、工
場を、タイに移転しています。洪水で水没した工業団地の
映像を見ると、パナソニックの文字が見えます。

水没した工業団地は、1つや2つではありません。
5、6か所の工業団地が水没しています。
そのすべてに、日本企業の工場があるのです。

かつて、北海道の苫小牧に、苫東工業地帯というものが
計画されました。しかし、工業団地の土地の造成はしたも
のの、日本企業はほとんとそこに工場を作らず、計画はい
つの間にか消えてしまいました。
日本国内には、あちこちに、同じような工業団地があり
ます。そして、同じように、計画倒れになっています。

それなのに、タイには、5つも6つも工業団地があって、
そのすべてに、日本企業が進出しているのです。

もちろん、理由はあります。
ステレオタイプに、簡単にいえば、国際化、グローバル
化ということになります。タイで作った自動車や電機製品
は、タイから東南アジアに輸出されます。東南アジアに輸
出するなら、東南アジアで生産したほうが、輸送コストも
かからず、都合がいいというわけです。

さらには、賃金の安さでしょう。
日本の賃金は、世界的に見て、かなり高い賃金というこ
とになっています。

そして、その根底にあるのは、円高です。
生産に与える円高の影響は、いくつかのパターンがあり
ます。
ひとつは、円高によってドルベースにした輸出価格が高
くなってしまい、海外の企業との価格競争に負けることです。
1ドル200円のころには、200円の製品を輸出す
るとき、値段は1ドルですみます。ところが、1ドル10
0円の円高になると、200円の製品を輸出するとき、値
段は2ドルに跳ね上がってしまうのです。日本企業は、同
じ200円で製品を売っているつもりなのですが、ドル建
てになると、1ドルから2ドルへ、製品の値段が2倍にも
高くなってしまう。2倍になった商品は、だれも買ってく
れません。
そうやって、韓国企業や中国企業に負けていくわけです。

 もう、日本でモノを作っても、勝負にならない。
 海外に工場を移転し、海外で生産するしかなくなって
きたのです。
  
 円高の影響のもうひとつのパターンは、たとえば、日本
国内の賃金です。
 日本国内の工場で働くと時給1000円だとしましょう。
 あくまで仮の数字です。
 1ドル200円だと、時給は5ドルです。
 ところが、1ドル100円になると、時給はなんと1
0ドルに跳ね上がります。
 日本の国内の賃金水準は、なにもしていないのに、国
際比較をすると、円高によって、勝手に2倍に跳ね上がる
わけです。
 そうやって、いま、日本の賃金水準は、世界的にトップ
クラスの高い水準になってしまっています。

 これは為替のマジックです。
 日本国内で円で時給をもらっている派遣さんは、
「こんな給料じゃ生活できないよ」
と思っている。
 しかし、それをドルベースでみると、世界的には非常に
高い時給になっている。
 雇用する日本企業にしてみると、ドルで支払うなら、タ
イのほうが思い切り安くなる。それなら、タイに工場を作
ってタイで労働者を雇おうかということになるのです。

いま、ここで書いてきたような状況は、大変異常な状況
です。
日本企業は、日本にいないで、どんどんタイに出て行っ
ていたのです。
タイだけではありません。
中国にはもっと出て行っています。
ベトナムにも工場を作っています。
マレーシアもかなり多いですね。

これを国際化、グローバル化といえば恰好はいいのです
が、誤解を恐れずにいえば、これは
 「失業の輸入」
です。

海外に工場を作るというのは、海外で雇用の機会を作る
ということです。それは、本来なら、日本にあるべき雇用
の機会を、海外に出しているわけです。
言い換えれば、海外進出は、
   「雇用の輸出」であり、
   「失業の輸入」
なのです。

 私たちが、いま、タイの洪水で改めて目の当りにしてい
るのは、そういうことです。

 あのタイの水没した工業団地にある日本の企業が、いま、
すべて、日本国内にあれば、日本には、雇用の機会が実に
豊富にあることになります。
 あの水没した日本企業の工場が日本国内にあれば、日本
の新卒の大学生が、就職の内定をもらえず、駆け回るなど
ということをせずにすんだのです。

 これが、生産の空洞化です。
 日本経済は、すでに空洞化している。
 タイの洪水の映像を見て、そう思わざるをえません。

 ここまで、タイに日本企業が生産拠点を移転した原因と
理由は、その根っこにあるものは、
       円高
 です。

 1ドル=120円ぐらいなら、日本企業は、ここまで海
外移転をせずにすんだでしょう。
 しかし、76円台というのは、もういけません。
 円高を放置した責任は大きいのです。

 企業は、タイに工場を作り、タイから各国に輸出する。
だから、企業は、それなりに利益を確保できる。
 しかし、日本という国は、いつ終わるともしれない経済
の低迷にあえぐ。
 
 何回か、このブログで書きましたが、これは、
   「国破れて 企業あり」
 です。
 タイで作った自動車を日本車といえるのか?という話
です。

 いまここに書いたストーリーは、あえて、一方的な見方
に立っています。
 反論はいくらでもできます。
 たとえば、いや、日本企業がタイに進出したことによっ
て、タイ経済は豊かになり、タイの人々の生活水準は上が
ったはずだーーという反論が当然あるでしょう。
 それが、たぶん、いちばん有力な反論です。

 あるいは、いや、日本企業が海外に出るのは、経済の国
際化であり、グローバル化であって、そんなことは当然だ
という議論も当然あるでしょう。
 
 しかし、問題は、日本国内の失業率をこんなに高くし、
長い長い経済低迷にあえぎ、長い長いデフレに苦しみ、
それなのに、そんな国内を放っておいてまで、企業は海外
に出て行っていいのか? ということです。

 その原因を作ったのが円高であることは間違いありま
せん。
 そして、その円高に何も手を打たずにきたのは、今の民
主だけではなく、長期的に政権を取っていた自民党にも、
大きな責任があります。そして、それを支えてきた日銀、
大蔵省、財務省の責任もまた大きい。

 タイの人々が洪水で苦しんでいるのはまことにお気の
毒に思います。
 早く洪水が収まればいいと願います。

 しかし、その映像を見ながら、ああやって、すっぽり
水没しているのは、実は日本経済ではないのかと、危機感
を持たざるを得ないのです。





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