いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

TPPが大筋合意しました・・・TPPを「平成の開国」と言って、こじらせたのは、民主党の菅直人首相です。

2015年10月07日 22時59分40秒 | 日記

 TPPは、Trans Pacific Partnership の略です。
文字通り読めば、太平洋を横切ったパートナーシップということになりま
す。
 日本語では、いろんな訳語があって、メディアでも、微妙に違います。
標準的には、環太平洋経済協定という言い方が多くなっています。
 
 何をするものかというと、日本語訳に「経済」が入っているのが、ミソで
す。すなわち、太平洋を取り囲む各国で、関税などのない自由な貿易圏
を作ろうというものです。
 問題は、その対象が、あらゆる産業分野に及ぶことです。
 一方では、自動車、電機などの工業分野があり、一方では、農業分野
があり、そのどちらも、自由貿易の対象にしようというものです。
 日本は、競争力のある工業分野は関税ゼロを歓迎します。しかし、コメ
や乳製品の農業、酪農は、関税を下げて自由貿易に近づけると、海外か
ら入ってくる農業製品や乳製品とは、太刀打ちできなくなるとして、反対
が多くなります。

 そのTPPが、アメリカのアトランタで開かれていた閣僚会合で、とうと
う、大筋合意しました。
 TPPには、日本、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナ
ム、ペルーなど、まさに環太平洋の国々が入っていますが、大きな国が
ひとつ、入っていません。
 中国です。

 TPPはアメリカ主導で交渉が進んできました。
 アメリカは、交渉開始の当初から、中国には声をかけていませんでし
た。
 TPPは、中国抜きの自由貿易圏を作るというイメージがはっきりしてい
ます。
 実際、TPPが大筋合意したのを受け、オバマ大統領は、
 「中国には貿易のルールを作らせない」
 と明言しています。

 大筋合意といっても、これが発効するには、各国がTPPを批准しない
といけません。
 日本も、次の国会で、TPPが論議され、批准するかどうか、議決するこ
とになります。

 さて、そこで、野党です。
 野党・民主党は、TPPに対し「慎重に考える」という言い方をしています。
 もしかすると、農業分野を守れと主張して、反対するかもしれません。

 しかし。
 ここからが、きょうのブログのポイントです。
 しかし、TPPをやろうと、全面的に持ち出したのは、もともと、民主党な
のです。
 民主党が総選挙で勝ち、自民党から政権を奪ったのは2009年夏のこと
です。
 首相は、初代が鳩山由紀夫首相です。
 次が菅直人首相です。
 この管首相が、2011年1月に、民主党政権の大きな目玉として打ち出
したのが、TPPだったのです。

 
 民主党は、とうとう自民党から政権を奪い、国民は大きな期待を持ちま
した。しかし、いざ政権を取ってみると、民主党は、ほとんどといっていい
ほど成果を出すことが出来ず、国民の期待は失望に変わりつつありまし
た。
 そううい状況で、管首相は、太平洋をぐるっと取り囲む国々で大きな自
由貿易圏を作るという構想、すなわち、TPPに、飛びついてしまったの
です。

管首相は、TPPを政策として打ち出したとき、
 「平成の開国」
 という言葉を使いました。

 これが、失敗のもとでした。

 「平成の開国」などという大げさな言葉を聞いて、みんな、びっくりして
しまったのです。
 びっくり、というより、当時の印象では、
 「ぎょっとした」
 という感じでした。

 TPPそのものは、自由な貿易を促進しようという構想ですから、決して
特別な話ではありません。
 自由な貿易を促進しようという国際的な取り組みは、まず、WTO(世界
貿易機構)が世界各国を網羅した組織としてあります。
 アジア太平洋地域では、TPPよりはるかに早く、1990年台から、
APEC(アジア太平洋経済協力)というものがあります。
 APECには、日本、アメリカをはじめ、東南アジア、北米、南米の国
で、太平洋に面した諸国が広く参加しています。

 そうです。
 「平成の開国」などという大げさな言葉を使う必要はなかったのです。
 ところが、首相が平成の開国などと言ったものだから、どの産業界も、
びっくりしてしまいました。
 それはそうでしょう。
 「平成の開国」ということは、それまでは、あまり開国していないようなイ
メージになってしまいます。
 「開国」という言葉には、鎖国の江戸時代を明治維新で変化させたよう
な語感があります。
平成の開国という言葉は、まるで、日本が何も自由化していないような
錯覚を、国民に生んでしまったのです。

 びっくりした産業界は、TPPの交渉現場に、続々と担当者を派遣し、
交渉の内容をキャッチしようとしました。
 農業団体は、コメがどうなるか、気が気ではありません。
 農業だけではありません。工業界だって、関税がどうなるのか、気にせ
ずにはいられません。
 そんなこんなで、TPPの交渉現場に、JA全中のスタッフや、自動車
会社、電機会社の社員が、大挙して押し寄せ、情報を取ろうと必死になり
ました。

 普通にしていれば冷静に淡々と交渉が進められたのに、「平成の開
国」などというとんでもない言葉、完全なミスとしか言いようのない言葉を、
ほかならぬ管首相が使ってしまったため、進むべき交渉も進まなくなって
しまいました。

 「平成の開国」という言葉で、TPPはこじれてしまったのです。
 管首相の責任は非常に大きい。
 そして、民主党の責任は大きいのです。

 TPPは、ようやく、大筋合意にこぎつけました。
 それなのに、ほかならぬTPPを始めた民主党が「慎重に対応する」な
どと言うのは、何を考えているのだろうというほか、ありません。
 いや、何も考えていないのではないでしょうか。

 このままでは、民主党は、ただ反対するだけの党になってしまいます。
 せっかく大筋合意したのですから、自由貿易をどう促進するのか、ちゃ
んと議論してもらいたい。
 「平成の開国」を言い始めた民主党には、それだけの責任があります。