いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

FIFAに対する捜査・・・なぜアメリカの司法当局が乗り出したのか。アメリカはどう絡むのでしょう。

2015年06月04日 10時58分50秒 | 日記

 FIFA(国際サッカー連盟)が大揺れに揺れています。
 幹部が次々に逮捕され、6月3日には、とうとう、ブラッター会長が辞
任すると、自ら発表してしまいました。ブラッター会長は、つい先日、選挙
で会長に選ばれたばかりです。
 ブラッター会長は、捜査の手が、自分に及びそうになったので、辞任
せざるをえなかったのではないかとされています。

 さて、ここで不思議なのが、「捜査」です。
 現在のところ、アメリカのFBI(連邦捜査局)とIRS(歳入庁)が捜査し
ていることになっています。実際にFBIがFIFAの幹部を何人か逮捕して
います。
 アメリカのほかには、スイスの捜査当局も捜査を進めているようです。
 この分では、欧州主要国の捜査当局も加わるのではないでしょうか。

 不思議というのは、アメリカのFBIは、いったい、どんな罪状でFIFA
幹部を逮捕したのか、あるいは、するのか、ということです。
 新聞やテレビのニュースをチェックする限り、「汚職」とか「組織不正」
という言葉が出てきます。あるいは「脱税」です。

 捜査の構図としは、
1)FIFA幹部が、ワールドカップを招致したい国からお金をもらった。
2)そのお金を、税務当局に申告しなかった。
ーーということになろうかと思います。

 しかし、汚職というのは、政府や自治体の職員つまり公務員が、お金
を受け取り、便宜を図ったというような場合のことをいいます。
 あくまで、政府や自治体など、公的組織の人間がお金をもらった場合、賄賂
というのです。
 これが、民間の企業、民間の組織であれば、どんなにお金をもらって
も、賄賂にはなりません。
 とくに民間企業では、よくあることで、リベートとか、キックバックなどと
いう言い方で、担当者にお金を渡したりします。もちろん、それが公正か
どうかというと、疑問なしとはいえないケースもあります。しかし、民間企業
と民間企業との間で、そうしたお金のやりとりをする場合は、賄賂にはなり
ません。汚職にもならないのです。

 FIFAは、政府の組織ではありません。
 FIFAの幹部は、決して公務員ではありません。
 しかも、逮捕された幹部は、別にアメリカに住んでいたわけでもありま
せん。

 その人を、アメリカの捜査当局であるFBIが逮捕するというのは、日本
では考えられない事態です。
 たとえば、警視庁や東京地検が、FIFAで裏金の受け渡しがあったこ
とをキャッチしたからといって、日本に住んでもいないFIFAの幹部を「汚
職」で逮捕するなどということは、ありえないでしょう。
いま、FBIがやっているのは、そういうことです。

 今回のFIFAに対する捜索、幹部の逮捕で、いまひとつ、不透明なの
は、その点です。
 どのメディアを見ても、どういう法理論、法体系で、FIFAに対する
捜査をしているのか、よく分かりません。

脱税で捜査、逮捕、というのなら、よく分かるのです。
アメリカ国内に住んでいて、アメリカ国内で所得を得ていて、脱税して
いたら、それは、捜査を受けて当然です。
アメリカは、犯罪を捜査する場合、よく、脱税を理由にします。
禁酒法時代のアメリカで有名なアル・カポネが逮捕されたのも、禁酒法
違反ではなく、脱税でした。

しかし、FIFAに対する捜査は、脱税も含まれているようですが、主な
柱は、汚職であり、組織不正ということのようです。

しかし、汚職という場合、さきほども述べたように、FIFAは、政府組織
ではありません。
汚職が成立するとすれば、いま報じられている中でいちばん分かりや
すいのは、南アフリカが誘致に際し、FIFAの副理事長に1000万ドル
(10億円)の賄賂を送ったというものです。
まあ、普通は、民間企業が、政府に、公共事業で便宜を図ってもらう見返り
として賄賂を送るという図式です。FIFAのは、南アフリカ政府側が賄賂
を送るいうことになりますので、方向が逆です。聞いたことがありません。
賄賂を使ってでもワールドカップを誘致したいというわけですね。

しかし、このケースにしても、南アフリカとFIFAの間での話です。
すでに逮捕されたFIFAの副理事長もアメリカ人ではありません。
結局のところ、アメリカはどこにも関係していませんん。
それなのに、アメリカの捜査機関FBIが動いているのです。

アメリカは、ときどき、こういうことをやります。
1980年代に、アメリカ司法当局は、パナマに乗り込み、ノリエガ大統
領を逮捕しました。ほとんど軍事侵攻みたいなものでしたが、あくまで、
ノリエガ大統領を逮捕するというのが狙いでした。
その罪状は、ノリエガ大統領はアメリカにおける麻薬取引に関わったと
いうことでした。アメリカの麻薬取締法を根拠にして、海外にいるよその
国の大統領を、その大統領の国にまで乗り込んで、逮捕したのです。
これはむちゃくちゃでした。

日本に対しても、ちょっと危ないときがありました。
日本の対米黒字が巨額のものになっており、日米貿易摩擦が激しかっ
たころです。時期としては、1980年代から1990年代初めにかけての
ことです。
日本の黒字は、アメリカから日本への輸出が増えないからだ。
それは、日本企業が日本国内で独占体制を敷いているからだ。
日本企業の独占が貿易不均衡の大きな原因だ。
――というわけで、アメリカ政府は、日本企業に対し、アメリカの独占禁
止法(反トラスト法)の適用を検討していると、アメリカのメディアが報じ
たことがあります。
報じたのは、1990年ごろのことだったと思います。
さすがに、びっくりしました。
日本企業が日本国内で独占状況にあるというので、アメリカの司法当
局が、日本にある日本企業を、アメリカの法律で捜索する?
いくらなんでも、これは、アイデアだけに終わったようです。

でも、いまFIFAに対してやっているのは、そういうことのように見えま
す。
日本のメディアは、新聞もテレビも、そのことをあまり報じません。記事
を書いている本人も、あまり分かっていないのではないでしょうか。

今後の展開が、少々、気になります。

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 きょう6月4日の読売新聞の朝刊が、そこのところを、特集ページで、
うまく説明してくれました。
 かいつまんで、書いておきます。

まず、FIFAの汚職にアメリカがどう絡んでいるかですが、汚職の摘発
のきっかけが、アメリカ人のチャールズ・ブレーザー氏(70)でした。
ブレーザー氏は、アメリカのサッカー界の大物で、FIFAの副会長や、
北中米カリブサッカー連盟の事務総長などを、歴任していました。
どうやら、カネに汚い人物のようで、何かするときは、必ず、事業費の
10%を要求していたため、「ミスター10%」と呼ばれていたとか。
 移動には自分のプライベート・ジェットを使い、マンハッタンの高級マ
ンションに住んでいました。飼い猫用に専用の部屋を借りていた幹部と
いうのが、この人です。

さて、このぜいたくな暮らしが税務当局の目にとまりました。
アメリカの税務当局は、IRS(内国歳入庁)といいます。日本の国税庁
に相当します。
ブレーザー君が手にしていた10%の手数料は、総額2000万ドル(25
億円)に達していましたが、それを、過少申告して、税金をあまり払って
いなかったようです。
禁酒法時代のアル・カポネと同じで、やはり、脱税が捜査の決め手だ
ったのですね。

IRSは、FBIとともに捜査に乗り出しました。
ここから先がアメリカらしい話で、IRSとFBIは、ブレーザー君に司法取
引を持ちかけます。
司法取引は、罪を軽くするから、捜査に協力せよというものです。日本
にはこんな制度はありません。
で、ブレーザー君は、逮捕を免れるという条件で、捜査に全面協力し、
すべてを自供したわけです。

その結果、今回の不正資金の流れが分かったというのです。

最大の疑惑は、南アフリカのワールドカップをめぐって、見返りとして支
払われた1000万ドル(12億円)です。
この資金の動きが複雑で、そこは、まさに捜査中ということになります
が、この1000万ドルが、ブレーザー氏のニューヨークの銀行口座に送
金されていました。
ここに、アメリカの司法当局が手を入れる余地が出てきます。

さらにまた、ニューヨーク・タイムズによると、この送金を指示していたの
が、FIFAのバルク事務総長だといいます。そして、バルク事務総長
は、ブラッター会長に次ぐFIFAナンバー2の存在です。
ということは、当然、ナンバー1のブラッター会長にまで、捜査の手が及
びます。

もうひとつ。
民間での不正について、アメリカには、組織による腐敗や汚職を処罰
するRICO法(組織不正法)というものがあります。
私も、この法律のことは知りませんでした。
RICO法は、もともと、マフィアや麻薬犯罪組織を摘発するために作ら
れたようですが、企業な民間団体にも適用されるようです。
今回は、脱税だけではなく、このRICO法も適用されるようです。

読売新聞の6月4日朝刊の特集をかいつまんでご紹介しました。