麻生財務相・副首相は、スピーチが上手です。とくに
得意の経済分野を語ると、ユーモアを交え、政策を実に
分かりやすく説明します。
ひと月ほど前、ある講演会で、アベノミクスの解説をし、
その政策効果はどうしても大都市から出てきて、地方に行
くのには少し時間がかかるということを、うまく説明して
いました。
そして、
「そんなわけですから、地方のみなさんが効果をお感じ
になるには、もう少し時間がかかる。大変恐縮なんだが、
地方のみなさん、もう少しだけ、待っていただけるとあり
がたい」
と話していました。
大変率直で、納得のいく説明でした。
ところが、政治の話になると、どうしてこうも失言をし
てしまうのでしょうか。
今週の月曜日、さっきのとは違うシンポジウムで、麻生
財務相は、ナチスがワイマール憲法をいつの間にか変えて
しまったことを指摘し、そこまではよかったのですが、
そのあと、その手口を見習えないものかという趣旨の発言
をしてしまったのです。
麻生財務相の言わんとしたことを「翻訳」すると、政策
として何かするときは、もっとうまく実行する方法がある
はずだーーということなのでしょう。
それであれば、麻生財務相は、ナチスのことなど引き合
いに出さず、たとえば、
「憲法改正をやるなら、いまのように議論を混乱させて
しまってはいけない。きちんと議論の出来る、もっとうま
い方法があるのではないか」
といえばよかったのです。
なんでまた、わざわざナチスを引き合いに出す必要があ
ったのか。
アメリカのユダヤ人団体が、いち早く、抗議声明を出し
ました。
さらにまたというか、案の定、中国が「このような発言
は、日本が軍国主義に傾いているのではないかとの懸念を、
アジア諸国に抱かせる」
との談話を出しました。
そして、これも案の定、韓国政府は、報道官が
「このような発言は、日本が歴史に向かい合っておらず、
歴史認識が間違っていることを示している」と話しました。
先日のサッカーの試合で、日本と試合をした韓国は、ス
タジアムに「歴史を直視しない民族に未来はない」と書い
た大きな垂れ幕を掲げました。
日本サッカー協会はこれに抗議し、韓国の国内でもスポ
ーツと政治を混同するのはやめたほうがいいという声が出
始めていました。
明らかに、韓国に非があるという方向で、話が進み始め
ていたのです。
ところが、麻生財務相の失言で、韓国には間違いなく、
「それ見たことか」という空気が生まれるます。そして、
あの垂れ幕を正当化する声が、やはり間違いなく、強まる
でしょう。
せっかく、ああいう垂れ幕はやめたほうがいいという空
気が生まれかけていたのに、「それ見たことか」という声
の前に、いっぺんにしぼんでしまうでしょう。
いまの韓国は、日本を非難するための材料を、目を皿の
ようにして探しています。
そこに、麻生財務相の失言が、すっぽりと入ってしまい
ました。
韓国は、喜んで、これを政治利用するでしょう。
麻生財務相は、現職の閣僚だけに、この失言の影響は大
きすぎました。経済に明るく、経済政策を語れる政治家で
あるだけに、本当に惜しい。
このままでは、辞任せざるをえなくなるのではないかと
懸念します。
あまりにも軽い言葉遣いが、結局のところ、命取りにな
ってしまいそうな雰囲気です。
本当に残念です。