いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

時代閉塞の現状(1)・・・明日はきょうよりいいという思いを持てるか。野田首相への期待。

2011年08月29日 18時05分52秒 | 日記

 民主党の代表に野田佳彦氏が選ばれました。


国会の手続きを経て、そのまま、日本の首相に就任します。
いまは、だれが首相になっても厳しい環境にあります。

日本だけではありません。
アメリカでは、あんなに期待を背負って就任したオバマ大統領が
アメリカ経済の低迷に有効な手を打てず、苦戦しています。
欧州では、ギリシャの財政破たんを契機に、域内各国の財政的な
危うさが一斉に表面化しました。
イギリスでは各地で暴動が発生し、政府が対応に苦しんでいます。

明治の時代に、石川啄木は、「時代閉塞の現状」という痛切な社会
評論を書いています。


21世紀の私たちもまた、
「時代閉塞の現状」
 に直面しているのではないでしょうか。

 このブログで、私たちの直面する「時代閉塞の現状」を何回かに
分けて、考えてみたいと思います。
 重い重いテーマですが、重い文章にならないよう、前向きに考え
て書いてみたいと思います。

 時代閉塞の現状というばあい、まず、日本と日本人が直面する閉
塞感があります。次に、世界の国々を覆う閉塞状況があります。そ
して、さらには、私たち人類、あるいは地球が直面するレベルでの
「時代閉塞の現状」があります。

 まず、日本の時代閉塞の現状から考えてみましょう。

 私たちはいま、日本に暮らしていて、どうにも気分の晴れない感
じがするのです。それが時代閉塞の現状ということです。
 気分が晴れない感じのする原因は、ひとつひとつ挙げていくと、
きっとたくさんあるでしょう。
 でも、そうした原因を、ひっくるめていうと、それはきっと
 「明日はきょうよりいい」
 という思いを持てないことです。
 「明日はきょうより悪くなっているんじゃないか」
 「明日は、もっと景気が悪くなっているんじゃないか」
 そう感じるのです。
 そう感じると、私たちは、生活防衛に入ります。
 給料が出ても、給料が上がっても、アルバイト料が出ても、子ど
も手当(今度なくなりますが)が出ても、どんな臨時収入が入って
きても、それを使わずに、貯金しようと思います。
 すると、デパートや商店街では、モノが売れなくなります。

 経済学的にいうと、需要が減少して、経済が縮小する負のスパイ
ラルに入るのです。
 資本主義経済において、需要の拡大こそが経済を活性化するとい
うことを理論として確立したのはイギリスの経済学者・ケインズ
です。
 逆に、需要が減少すると、経済は縮小に向かいます。

 日本が元気だったのは、1960年代、70年代、80年代です。
 とくに60年代、70年代は、高度成長期で、日本が本当に元気
なころでした。
 当時の日本人は、みな、
「明日はきょうよりいい」
「明日はきょうよりいいに違いない」
 という素朴な信念を持っていました。

 給料は毎年必ず上がり、給料が上がるたびに、家の中に洗濯機が
入り、冷蔵庫が入り、テレビが入る。
 自動車も買えるし、エアコンも買える。
 「明日はきょうよりいい」ということが、身の回りのモノではっ
きりと確認できたのです。

 経済が成長するから、企業はいつも労働力を求めており、いまと
違って、働こうと思えばいつでも働けました。
 失業率は1%台です。
 信用調査の帝国データバンクのベテラン調査員の話を聞いたこと
があります。
 「1960年代、70年代というのは、倒産しそうな企業に調査
に行っても、従業員は昼休みになるとのんきにキャッチボールなん
かやってましてね。いまの会社が倒産しても、次に働く会社はすぐ
に見つかるという状況でしたから、悲壮感がないんですよ」。

 いまとは大違いです。
 
 私たち日本人は、いつごろから、「明日はきょうよりいい」とは思
えなくなったのでしょうか。
 たぶん、90年代に入り、バブルが崩壊してからですね。
 90年代の「失われた10年」というのは、朝、目をさましてみ
ると、どこかで銀行が倒産しているという状況でした。
 2000年代に入っても、状況はそんなには変わりません。
 そうこうするうちに、今年、2011年には、日本は経済規模で
中国に抜かれたというニュースが飛び込んできたりしました。

 70年代、80年代というのは、経済成長で、すべてが覆い尽く
された時代でした。少々のことがあっても、日本経済の経済成長で
すべてがカバーされるという時代でした。
 経済成長によって、多くの人が「明日はきょうよりいい」という
思いを持てた時代でした。

 いま、そんなことはもう、望むべくもありません。
 では、どうすればいいのでしょうか。
 こういうとき、政治は、どうすればいいのでしょうか。
 こういときに、政治に求められることはどんなことでしょう。

 大きなヒントになるのが、1990年代にイギリスの首相になっ
たブレア氏です。ブレア首相は、その就任演説で、国民に深い感銘
を与えました。


 なんといったか?
 こういったのです。

      ********  
 イギリスは、かつて、大英帝国と呼ばれ、世界中に領土を持って、
日の沈むことのない国といわれていました。
 いまは、そんなことは、望むべくもありません。
 イギリスがかつての大英帝国と呼ばれたような力を持つことは、
これから、できるかというと、それは不可能です。
 もう、そんな大国を再現することはできないし、また、目指すべ
きではありません。
 われわれが目指すのは、世界の人が、イギリスっていいなあ、イ
ギリスに行ってみたいなあと思うような、そんな国です。
 かつての大英帝国のような国は、もう、目指すことはできません。
しかし、世界中の人が、イギリスはいい、イギリスに行って
みたいと思うような国を目指すことはできるのです。
 私たちは、そういう国を目指したいと思います。
     ********
 
 これは素晴らしいスピーチでした。
 大英帝国と呼ばれた大国を目指すことはできないが、世界のだれ
もがイギリスに行ってみたいと思うような国を目指そう。
 これは、国民も、感動します。
 
 政治に必要なのは、こういうことです。
 こうやって国民を奮い立たせるのは、政治の重要な役割なのです。
 このスピーチなら、「明日はきょうより良くしよう」と思います。

 翻って、菅直人氏は、首相に就任したときに、どんなスピーチを
したでしょうか。菅氏は「私は、日本で、最少不幸社会を目指した
い」と述べました。
 「最少不幸社会」って、なんですか。
 最少不幸社会を目指そうといわれて、「明日はきょうよりいい」と
思う国民はいないでしょう。
 ブレア首相のしみじみしたスピーチに比べると、なんだか、がっ
かりしますね。

 野田佳彦・新首相には、せめて、ブレア首相のようなスピーチを
してもらいたい。
 こまかいことはいいのです。
 私たちが
「いいこと言うじゃないか」
「なるほど、明日がきょうより良くなるよう、ちょっとやってみ
 ようか」
 と思えるようなスピーチをしてほしいのです。

 たとえば、こうです。

 「なるほど、日本は、経済規模で中国に抜かれたかもしれません。
これから先、かつてのような高度経済成長を実現するのは無理かも
しれません。
 しかし、世界の人が、ああ日本はいいなあ、日本に行ってみたい
なあと、そう思うような国にすることはできます。
 世界から、日本はいいなあと思われるような国を目指したい」
 
 国民が夢を持てるようなスピーチをしてほしいと思います。
 「明日はきょうよりいい」と思えるような考えを示してもらいたい。

 「時代閉塞の現状」を打破するのは、そこから始まります。