いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

アメリカの国債の評価引き下げをどう考えればいいのでしょうか。その2です。

2011年08月09日 12時03分16秒 | 日記

 S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)がアメリカの
国債を、AAAからAA+へ、一段階、格下げした話の続き
です。

 S&Pというたったひとつの私企業による評価で、アメ
リカという超大国の信用が揺らぐというのは、本当に変な
話です。
 S&Pのほうが、アメリカという国より偉いのか?という話
になります。これからアメリカは、なにをするにもS&Pの
顔色をうかがっていかなくれはならないのか、という話にも
なります。
 たったひとつの私企業の行動によって、アメリカが、そして
世界中が振り回されるなんて、おかしな話です。

 私たちの町内に格付け屋さんがいて、町に住んでいる人の
格付けを、頼まれもしないのに、勝手にしているとしましょう。
 その格付け屋さんが、ある日突然、ピンポーンと玄関のチャイム
を鳴らして、
 「あなたの家の格付けを、きょう下げましたからね」
と言ってきたら、どうしますか。
 けんかになりますよ。

 S&Pの格付けは、そういう話です。

 リーマンショックの引き金となったのはアメリカのサブ
プライムローンですが、S&Pは、あの危険なサブプライム
ローンを出している会社の格付けを「問題なし」としていて、
大きな問題になりました。
 S&P自身の信用はどうなの? ということです。

 本当におかしい。

 しかしながら、この問題は、もう少し唯物論的に考える
必要があるのだろうと思います。

 S&Pはアメリカの国債の評価を史上初めて引き下げた
わけですが、しかし、仮に今回、S&Pがそうしていなくても、
いずれ、別の企業や組織、だれかが、アメリカ国債の評価を引
き下げただろうと思います。

 格付け会社としては、S&Pとムーディズが2大勢力で
す。それに続くのが、フィッチです。このうちムーディー
ズとフィッチは、先にアメリカの国債の評価を変更せず、
最上級(AAA)に置いたままとして、発表しました。いま
ごろ、しまった、評価を下げておけばよかったと後悔して
いるかもしれません。

 今回、S&Pが評価を引き下げなくても、次回、ムーディズ
やフィッチが、評価を引き下げたかもしれません。

 格付け会社だけが引き金になるのではありません。
 格付けがAAAのままだったとしても、外国為替市場で、
ある日、影響力のあるディーラーが「アメリカの信用は低下
した」とみてドル売りに走れば、ほかのディーラーもそれに
続くでしょう。

 あるいは、ニューヨーク株式市場で、有力な投資家が
「アメリカはもう売りだ」と考えて、株を売り始めたら、
それを見た多くの投資家が一斉に株を売るかもしれません。

 そうなんです。
 今回、S&Pの動きがなくても、似たような動きが、為
替市場や株式市場をはじめ、あちこちで起きていたかもしれ
ません。
 そうなれば、S&Pによる評価の引き下げがなくても、
世界経済は動揺に見舞われたのです。

 唯物論的に、というのは、そこです。
 今回は、たまたまS&Pがその役割を演じただけで、い
ずれ、「別のS&P」が同じ役割を演じていたのだろうと
思います。

 では、なぜ、そんなことになったのか。
 それはもう、アメリカの経済力、アメリカの政治力、ア
メリカの国力が、かつてに比べて、相対的に低下してきた
からです。
 いまでもアメリカは「超大国」ですが、しかし、かつて
のようなキンキラキンの超大国ではなくなってきた。
 そのことは、みんな知っている。知っているというより、
皮膚感覚として感じている。

 「アメリカの力も落ちてきたねえ」
 「アメリカ経済も、昔に比べて迫力がなくなってきたなあ」
 と、みんな、そう思っている。

 みんなして、心のどこかで、
 「危ないなあ」
 と思っていた。

 みんなが、なんとはなしに不安に思っていたところへ、
たまたま、S&Pがアメリカ国債の評価を引き下げた。
 そういうことです。

 S&Pという、たったひとつの私企業の評価で、アメリカ
の信用がこれほど動揺したのは、そういう理由です。
 
 すでに、アメリカの信用は、かつてほどではなくなって
きていた。
 みんなそう感じていた。
 でも、言わなかった。
 そういう状態で、だれかが
 「アメリカの国債って、このまま無条件に買い続けて
いていいのかなあ? ちょっと危ないんじゃないだろうか」
 と言ったら、ほかのみんなも、
 「ああ、やっぱりそうだったんだ」
 「そう思っていたのは、私だけではなかったんだ」
 と思ったのです。
 それが、今回のS&Pの騒動の背景です。

 原因は、アメリカそのものにあったのです。