趣味で蒐集した「きっぷ」を見て考えたこと、とか…
JR直営の印刷場名は国鉄時代の印刷場名を使用します。
古紙蒐集雑記帖
東京急行電鉄 渋谷駅から10円区間ゆき片道乗車券
前回および前々回エントリーで東京急行電鉄(東急電鉄)渋谷駅で発行された券売機発行の片道乗車券を御紹介いたしました。
東急電鉄渋谷駅は乗車券の券売機発売の分野では「一目置かれる」存在の駅でした。
日本で初めて乗車券類が券売機で発売されたのは1911(明治44)年に登場した「入場券売函」という機器で、2銭銅貨を機械に入れてレバーを押すと、印刷済の硬券入場券が出てくるというもののようですが、記録の残されているところでは、1926(大正15)年に鉄道省の東京駅および上野駅に入場券用の券売機が設置されたのが最初となっており、やはり硬貨を入れてレバーを押すと、てこの原理で予め印刷された硬券の入場券が1枚出てくる仕組みであったようです。
乗車券の券売機になりますと、1935(昭和10)年に鉄道省の新宿駅に設備されたのが最初で、こちらもやはり硬貨を入れてレバーを押すと、予め印刷された硬券の乗車券が1枚出てくる仕組みであったようです。
その後、1954(昭和29)年に私鉄で初めて阪急電鉄梅田駅に手動式券売機が登場し、これは後に電動化されていきますが、予め印刷された軟券をカットして発売する券売機が登場し、関東私鉄においても東急電鉄・京王電鉄・営団地下鉄で導入されていきました。
いずれにせよ、当時の券売機は出札窓口の補助的な位置づけにあり、硬貨を入れると予め印刷された券が発行されるもので、発売できる券種は1種類の「単能式」券売機であったようです。
ところが1962(昭和37)年、東急電鉄渋谷駅に1台で多種の券を発行することができる「多能式」券売機が設備されたのです。当時はまだ、硬券乗車券が発行されるものでしたが、旅客が硬貨を入れて購入したい任意のボタンを押すことによって乗車券が発券される、現在の券売機の原型とも言える機器でした。
こちらが1963(昭和38)年7月に当時の多能式券売機で発券された、渋谷から10円区間ゆきの片道乗車券です。黄色PJRてつどう地紋のB型券となっています。
この券売機は、全く印刷されていないカットされただけの硬券券紙がセットされ、発券される都度、発売額の内容のゴム製印版を選択し、日付とともに印字されて発券されたようです。
裏面です。券番等の記載は一切ありません。
この機器は渋谷駅のほかに自由が丘駅にも設備されたようです。大変画期的な機器ではあったのですが、硬券の券紙は表面が大変固く、ゴム製の印版が券紙の固さに負けてしまって摩耗が激しく、程なく消え去ってしまったようです。