第72回NHK杯将棋トーナメントが開幕した。今年の話題は、司会のひとりが藤田綾女流二段から鈴木環那女流三段に代わったこと。藤田女流二段は子育てもあるから御役御免はしょうがないとして、なぜ鈴木女流三段なのか。私はせめて20代の女流棋士を考えていたから、意外だった。
……と書くとアレだが、私は鈴木女流三段のファンなので、この選出はむしろ歓迎である。これからのNHK杯が、また楽しみになった。
それとともに今年のNHK杯はマイナーチェンジがあり、オープニングでNHK杯保持者が一手パチッと指すシーンがなくなった。また司会者が冒頭に「将棋ファンの皆様こんにちは。日曜日のひととき……」と言う挨拶も省かれ、ブロックの対戦カードの読み上げも、当日の対戦カードのみの紹介となった。つまり、これら浮いた時間を感想戦に充てんとするものらしかった。
そして対局中は、AIの予想手(3通り)が常時示されるようになった。そこまでAIを活用されると解説者の立場がないと思うが、まあ視聴者のニーズもあり、それに従ったのだろう。
と長々と書いたが、本題はここからである。
第72回の開幕局は木村一基九段VS黒田堯之五段だった。将棋は先番木村九段の居飛車明示に、黒田五段は四間飛車に振った。
黒田五段は居飛車党だが、折田翔吾アマのプロ編入試験で飛車を振ったこともある。裏芸として指すことがあるようだ。
木村九段は▲9八香と上がり、穴熊志向。AIは穴熊を評価しないというが、トップ棋士が変わらず穴熊を目指すということは、人間相手では玉の固さアドバンテージがになる、と認識していることの証左でもある。
そこで黒田五段はいきなり△8五桂と跳ねた。木村九段は当然▲6八角(第1図)と逃げたが、問題はここである。

ここで黒田五段は△4三銀と上がり、解説もとくに留まることなく、先に進んだ。そして感想戦でも、ここはスルーされた。
しかし本譜は以下▲8六歩△9七桂成▲同玉となって、ほぼ無条件で桂得した木村九段が快勝した。
……いやいや、その進行はないだろう。これが黒田五段の予定だったのか? 違うだろう。
△4三銀で、△6五歩(課題図)はなかったのだろうか? 現在先手玉のコビンが開いて、いかにも突きたくなる。またそのための△8五桂ではなかったのか?

△6五歩に本譜と同じ▲8六歩は、△6六歩▲同銀△6五歩▲5五銀△5四歩(参考A図)でどうか。一瞬これで後手がよさそうだが、以下▲8五歩△5五歩に▲5四桂(参考B図)が痛打で、これはさすがに先手が指せそうだ。


ほかにはB▲7七桂もあり、一例は△同桂成▲同角△8五桂▲8六角で、先手は次の▲6四桂を楽しみにする。これも難しいながら、先手も指せそうだ。
これらを踏まえて、黒田五段は前述の▲5四桂を防ぐべく、△4三銀と備えたのだろう。
何かこれでも釈然としないが、自己解決できたことにして、もう寝る。
……と書くとアレだが、私は鈴木女流三段のファンなので、この選出はむしろ歓迎である。これからのNHK杯が、また楽しみになった。
それとともに今年のNHK杯はマイナーチェンジがあり、オープニングでNHK杯保持者が一手パチッと指すシーンがなくなった。また司会者が冒頭に「将棋ファンの皆様こんにちは。日曜日のひととき……」と言う挨拶も省かれ、ブロックの対戦カードの読み上げも、当日の対戦カードのみの紹介となった。つまり、これら浮いた時間を感想戦に充てんとするものらしかった。
そして対局中は、AIの予想手(3通り)が常時示されるようになった。そこまでAIを活用されると解説者の立場がないと思うが、まあ視聴者のニーズもあり、それに従ったのだろう。
と長々と書いたが、本題はここからである。
第72回の開幕局は木村一基九段VS黒田堯之五段だった。将棋は先番木村九段の居飛車明示に、黒田五段は四間飛車に振った。
黒田五段は居飛車党だが、折田翔吾アマのプロ編入試験で飛車を振ったこともある。裏芸として指すことがあるようだ。
木村九段は▲9八香と上がり、穴熊志向。AIは穴熊を評価しないというが、トップ棋士が変わらず穴熊を目指すということは、人間相手では玉の固さアドバンテージがになる、と認識していることの証左でもある。
そこで黒田五段はいきなり△8五桂と跳ねた。木村九段は当然▲6八角(第1図)と逃げたが、問題はここである。

ここで黒田五段は△4三銀と上がり、解説もとくに留まることなく、先に進んだ。そして感想戦でも、ここはスルーされた。
しかし本譜は以下▲8六歩△9七桂成▲同玉となって、ほぼ無条件で桂得した木村九段が快勝した。
……いやいや、その進行はないだろう。これが黒田五段の予定だったのか? 違うだろう。
△4三銀で、△6五歩(課題図)はなかったのだろうか? 現在先手玉のコビンが開いて、いかにも突きたくなる。またそのための△8五桂ではなかったのか?

△6五歩に本譜と同じ▲8六歩は、△6六歩▲同銀△6五歩▲5五銀△5四歩(参考A図)でどうか。一瞬これで後手がよさそうだが、以下▲8五歩△5五歩に▲5四桂(参考B図)が痛打で、これはさすがに先手が指せそうだ。


ほかにはB▲7七桂もあり、一例は△同桂成▲同角△8五桂▲8六角で、先手は次の▲6四桂を楽しみにする。これも難しいながら、先手も指せそうだ。
これらを踏まえて、黒田五段は前述の▲5四桂を防ぐべく、△4三銀と備えたのだろう。
何かこれでも釈然としないが、自己解決できたことにして、もう寝る。
王手飛車があるなら85桂自体が無理だったのかも知れませんね。
そうですね。でも参考B図の1手前、△5五歩と銀を取るところで△4三銀とか△6三金とかする手もあって、先手が明快にいいわけではないんですね。
まだ釈然としないところはあります。
あと、△6五歩に▲8六歩とする手に代えて、▲7八玉とかわす手もあるかもしれません。以下△6五歩▲同銀△9九角成▲8六歩△9八馬▲8五歩でどうでしょう。△8七香なら▲8八桂と打って頑張る。
この▲7八玉とかわす手は一つの定跡になっていると思いますが、本局と同型なのかは分かりません。羽生九段も藤井システム側を持って指したことがあると思います。
木村九段も藤井猛九段相手に、この▲7八玉を刺したことがあるようです(2016年・竜王戦1組)。ただ、この時は、後手が「4三銀・9四歩」型でした。(結果は藤井九段の完勝)
△5五歩に代えて守りを固める手は、アップ後に気付きました。眠い頭でボンヤリ考えていると、読みが甘くなっていけません。
▲8六歩に代えて▲7八玉はたしかにありますね。銀冠(▲8七銀型)だったらそう指したいところですが、△9九角成が▲9八香取りになるのが不満でしょうか。
いずれにいても、やっぱり難しい戦いです。
>通りすがりさん
ソフトが△6五歩を推薦しましたか。△8五桂の継続で、やはりこう指したくなりますよね。
対局者も解説者も、△6五歩に言及しなかったのは不思議です。