一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

富岡八段の新橋解説会(前編)

2018-05-19 03:00:57 | 将棋イベント
8日と9日は、奈良県奈良市で第76期名人戦第3局があった。
本局も2日目の9日に、東京・新橋駅前で無料の解説会がある。私はいまだに就職先が決まっていないので、職安から新橋に向かったのだった。
ぶらぶら歩いていたら、東京駅まで来てしまった。現在午後6時13分。あと20分余裕があれば新橋まで完歩したのだが、これでは電車を使うよりない。新橋までの133円は痛かった。
現地に着くと、まだ空は明るかった。客の数は第2局ほどではないが、それでも多い。いつも思うのだが、客のサラリーマンは就業途中なのか、帰宅の途中なのか。
6時30分からの開始から5分遅れて、関係者が登場した。今回は鈴木大介九段が女流王位戦五番勝負の立ち合いで札幌に飛んでおり、代打が出される。主解説は富岡英作八段だった。富岡八段は大内延介九段門下、1984年四段デビューのベテランで、この解説会にふさわしい。
ほかは藤森哲也五段と、藤森奈津子女流四段。この直前、女流王位戦で渡部愛女流二段が奇跡的な勝利を収めたのだが、その言及はないようだった。
名人戦は、さっそく初手から再現される。

第1図以下の指し手。△1四歩▲1六歩△6四歩▲3七桂△6三銀▲6八玉△7三桂▲4八金(第2図)

第2局と同じ、角換わりになった。
富岡八段「▲2五歩では▲3七桂、▲6八玉などがあります。▲2五歩は最近また見直されてきました」
佐藤名人は△6四歩と突く。
富岡八段「第2局は△6四歩のところで△7三銀でしたが、佐藤名人は手を変えました」
佐藤名人は負けている側を持っているので、この変化は分かる気がする。

第2図以下の指し手。△6二金▲9六歩△8一飛▲2九飛△6五歩▲9五歩△6四角(第3図)

富岡八段「この▲4八金がここ1年半くらいで流行っています。バランスを重視した形が流行りだした。コンピュータ(将棋ソフト)の影響と思いますが、おもしろいもんですねぇ」
富岡八段はちょっと枯れた声だ。昔はハキハキした語り口だったが、いまはいい具合に味がでてきた。そして風貌は吉田栄作に似ていなくもない。奇しくもどちらも「エイサク」だ。
後手も△6二金と上がり、お互い飛車を引く。まったく、この形はどんだけ流行しているんだと思う。しかしそろそろどちらかが、独自色を出さねばなるまい。
△6五歩はまだしも、▲9五歩の意味が私には分からない、が、何となく深い手だ。
対して後手の△6四角が本局の方向性を決める一手となった。
富岡八段「(△6四角を打つために)△6五歩が佐藤名人の作戦だったんですね」

第3図以下の指し手。▲4五歩△3一玉▲5六歩△7五歩▲5七角△7六歩▲同銀△7四歩▲7五歩△6三銀▲7七金△5四歩▲3五歩△同歩▲同角△5二金(第4図)

富岡八段「角換わりに5筋を突くなといいますが、後手が角を打ったので、先手は▲5六歩と突いたんですね。ここは作戦の岐路でした」
△7五歩には羽生竜王も自陣角を打ち、ちょっと古風な形になってきた。
その後7筋で小競り合いがあり、羽生竜王は▲7七金と立つ。
藤森五段「▲7七金はちょっと怖い形ですね」
駒操作に徹している藤森五段が、はじめて口を開いた。
ここ▲7七桂は、△8六歩▲同歩△同飛▲8七金△8二飛▲8六歩となるが、バランスが悪い、と富岡八段。
第4図で1日目が終了した。

第4図以下の指し手。▲7八玉(封じ手)△4二角▲4六角△6四銀▲5八金△8四飛▲5七角△5五歩▲3四歩△同銀▲5五歩△3五歩(第5図)

封じ手は▲7八玉。もちろん予想手の一つだった。
富岡八段「封じ手は、▲5七角も有力でした。
(お互い角を打ち合って)角換わりの将棋だったとは思えませんね。クラシックな形になってきました。昭和30年代の急戦矢倉のようです」
藤森女流四段「▲5八金は攻め合いに備えた手でしょうか」
私などは焦って▲7四歩と突いてしまうが、△7五歩でわるい。▲5八金は、金銀を連結させて、味がいい。
ここで富岡八段、藤森五段のオススメは△3四歩だったが、佐藤名人は△5五歩と突いた。
羽生竜王は▲3四歩と叩く。△3四同銀に▲5五歩が呼吸で、次の▲3五歩が先手だ。
富岡八段「これ(▲3四歩)を銀頭の歩といいまして、代表的な手筋です」
佐藤名人は△3五歩と打ち、位を作った。
富岡八段「お互いに位を取る珍しい展開になりました」

第5図以下の指し手。▲5六銀△3三角▲4六角△9四歩▲同歩△同香▲9五歩△7四歩▲同歩△7五歩▲7三歩成△7六歩▲同金△7五歩(第6図)

羽生竜王は▲5六銀と上がった。これに△3六歩は、▲3五歩△同銀▲同角△3七歩成▲4四歩が考えられるらしい。佐藤名人は△3三角とノゾき、▲4六角に△9四歩と、意外なところから手をつけてきた。▲同歩△同香に▲同香では△同飛で名人の思うツボなので、羽生竜王は▲9五歩と受け止める。そこで佐藤名人は△7四歩と合わせた。
富岡八段「すごい勝負手だね」
以下駒を取り合い、再び△7五歩。私ならノータイムで▲7七金と引くが、竜王がそんな軟弱な手を指すはずがなかった。

(つづく)
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