一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

世田谷花みず木将棋オープン戦を見に行く(その2)・エリコの秘策

2013-05-04 02:53:58 | 観戦記
室谷由紀女流初段は、窮屈な飛車を相手の角と交換したが、飯野陣は角に強い形なので、何の痛痒も感じない。これは飯野愛研修会員、勝勢に近い形になった。
▲8八飛、△4五角…の局面で、飯野研修会員、▲8四歩△同歩と味つけして▲6五桂だが、ここは▲8四同銀△8三歩に▲8五飛打がなかったか。これなら▲8三銀成と▲4五飛を見て、先手必勝だったと思う。
本譜は飯野研修会員が緩み、徐々におかしくなってきた。こうなると、流れは室谷女流初段である。勝負手を次々に繰り出し、たちまち必勝形になった。飯野研修会員も追い上げたが、一枚足らず、室谷女流初段が勝った。
飯野研修会員、この負けは痛かった。将棋に逆転はつきものだが、「これは逆転のしようがない」というモノもある。本局はまさにそうで、優勢になってから、それほど難しい局面はなかったと思う。
厳しい見方をすれば、これを落とすから研修会を卒業できないのだ。
飯野研修会員、悔しかったら、死に物狂いで将棋を勉強するしかない。

午前10時45分、準決勝第2局の開始となる。対局者は、鈴木環那女流二段と山口恵梨子女流初段。解説者は、森下卓九段。聞き手は前局に続いて、中村真梨花女流二段。
まずは対局前のインタビュー。
山口女流初段「(公開などで)対局させていただける中で、(高島屋さんは)いちばん綺麗な場所です。あそこにもかわいいライオンのぬいぐるみがありました。あとで皆さんぜひ、ご覧ください」
鈴木女流二段「山口さんはいま勢いがあるので、振り回されないようにしたい」
森下九段は、昨年もここで解説をしたようで、
「(1年振りなのに)2,3週間ぶりの気がします」
といった。
この感覚はよく分かる。私もあっちこっちの観光地を定期的に旅行しているが、とても1年振りとは思えない。2、3か月振りくらいに思える。歳を取って新たな記憶がインプットされず、時間が短く感じられるのかもしれない。
閑話休題。
山口女流初段の先手で対局開始。▲7六歩に、鈴木女流二段は△8四歩。▲6八銀△3四歩▲6六歩△6二銀に、▲5六歩! 森下九段が「おおっ!?」と叫ぶ。△5四歩に▲4八銀!! ここに山口女流初段の居飛車が確定した。
周りが得意戦法を期待してると、アマノジャクを起こして違う戦法にする棋士がいるかもしれないが、それにしたって山口女流初段は生粋の振り飛車党である。居飛車には変化しようがないと思っていた。これは山口女流初段、この日に備えて秘策を練ってきたようだ。
本局もふたりのお顔は見えないが、鈴木女流二段は無意識のファンサービスなのか、姿勢を正して沈思黙考する。その顔には「意表を衝かれた」と書いてあった。
私は、2008年12月に行われたLPSA・1dayトーナメント「フランボワーズカップ」で、振り飛車党の松尾香織女流初段が、中井広恵女流六段相手に矢倉で臨んだのを思い出した。
その後も山口女流初段は堂々と駒組を進める。
森下九段は、
「私は『菅井ノート』を読んだんですけれども、私の矢倉の感覚が緩んでいたのに気付かされました」
と、その本の優秀性に脱帽した。そして
「(現在の局面は)名人戦と変わりません」
とし、今度は両対局者を最大限にホメた。さすがの森下流である。その一方で、
「この局面は、島-羽生の竜王戦に出てきたのと同じです」
と、恐ろしいことをさりげなくいう。島朗竜王と羽生善治棋王との竜王戦七番勝負といえば、平成2年秋に行われたものだ。その局面を第三者の森下九段が覚えているとは、棋士の記憶力はなんて凄いんだと思う。
ところで今年は、女流棋士の撮影が不可になったらしい。撮れるのは決勝戦の前と、表彰式のときだけと、司会の女性がいっていた。
それは残念ではあるが、さっきから最前列の男性が、委細構わず写真を撮っている。彼は第1局のときもそうだった。
まさか将棋関係者が客席に座って堂々と撮るわけがないから、彼は私と同じ一般愛棋家のはずだ。しかし彼には後ろめたさというものを感じない。2台のカメラを携え、実に堂々と撮っているのである。撮影禁止になっても、撮ったモン勝ちという覚悟か。まあ、私にはできない芸当であった。
山口女流初段、▲9八香。穴熊を目指す。
しかしここは、▲3五歩△同歩▲2五桂と指してほしかった。山口女流初段の本領は、多少無理でも果敢に攻めていくところにある。▲9八香などというベテランが指しそうな手を、元気ハツラツの恵梨子ちゃんに指してほしくなかった。
たしかにここまでの山口女流初段の指し手は、100点満点なのだろう。ただ何となくだが、本で覚えた将棋のような気がした。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする