一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「鍵のかかった部屋・盤端の迷宮」を観る

2012-05-20 00:05:31 | 将棋雑記
フジテレビ系毎週月曜午後9時、いわゆる「月9」は今クール、「鍵のかかった部屋」を放送している。貴志祐介原作のミステリーで、全編「密室」を主題にしているのがウリだ。脚本は相沢友子。
セキュリティ会社に勤める榎本径(嵐・大野智)は、大金庫に閉じ込められた弁護士・芹沢豪(佐藤浩市)を助ける。それが縁で、芹沢の部下・青砥純子(戸田恵梨香)と3人で、さまざまな密室事件の真相を掴む、というストーリーである。
一切笑顔を見せない、大野智の演技が秀逸。三谷幸喜作品でのコミカルな演技がすっかり板についた、佐藤浩市の演技も可笑しい。戸田恵梨香は、TBS系「SPEC」・当麻紗綾刑事のイメージが強いが、ここでは常識的な弁護士を巧みに演じている。
その第3話「盤端の迷宮」が、4月30日に放送された。将棋がテーマになっていると聞いていたが、楽しみ半分、不安半分というところだった。
推理ドラマで将棋が取り上げられたことは何度かあり、1994年放送「警部補・古畑任三郎」の「汚れた王将」、2008年放送「相棒Season7」の「希望の終盤」などが有名である(余談だが、「相棒・希望の終盤」は、水谷豊と久保利明九段との対談から、そのハナシが生まれたという)。
この「希望の終盤」はともかく、「汚れた王将」は、将棋を趣味にしているものが観ると、ハナシがメチャクチャだった。
まず、タイトル戦の場に一般人がうろちょろするのがおかしい。ましてや封じ手用紙の上で、古畑が宅配便受領のサインをしてしまうなど、絶対にあり得ないことだ。
犯人役坂東三津五郎が飛車を成らなかったのも、犯行を隠すためとはいえ、かなり無理がある。そもそも、指し掛けの夜は、対局の駒は仕舞われているはず。こんな杜撰な管理はあり得ない。
…と、アラをいちいち挙げていたら、このエントリの主題がずれてしまうので別の機会に譲り、「盤端の迷宮」に移る。
将棋棋士の竹脇五段が、ビジネスホテルで刺殺体で発見された。部屋には鍵がかかっており、チェーンも下りていた。現場検証をしていると、恋人の来栖奈穂子(なおこ)奨励会三段(相武紗季)が現れた。現在奈穂子は26歳で、今期の三段リーグがラストチャンスなのだった。そして奈穂子は、四段昇段にあと一歩のところまで来ていた。
…と、あらすじを書いても意味がないので、詳細を知りたい方は同番組のホームページで確認していただくとして、細かいところで、アレッ? と思う場面がいくつかあった。
まず、奈穂子が昇段争いをしているということは、勝ち越しを決めているということで、現在の日本将棋連盟のルールでは、次期も三段リーグが指せるのだ。ということは、これがラストチャンスというわけではない。
次に、東京・将棋会館が、千駄ヶ谷にあるそれではなく、郊外に建てられていそうな、ずいぶん立派な建物だった。数年後の将棋会館、というところか。
奈穂子が「四段昇段」を「四段昇級」と言っていたのはご愛嬌。三段リーグが「プロ昇格戦」と名付けられていたのもいいとしても、このリーグ戦を、榎本ら一般人が観戦できるというのはどうなのだろう。プロ昇格戦は、四段昇段を懸けた真剣勝負である。序盤ならいざ知らず、終局まで見られるシステムというのは、常識的に見ておかしいと思う。
また、そのプロ昇格戦を、ネット中継している、というのも分からない。むろん実際の奨励会ではそんなことはない。
さらに榎本ら観戦者が、あんなに遠くから奈穂子の将棋を確認できるのが不思議だ。いくら視力がよくても、あんなにハッキリ見えないだろう。これは、同様に観戦している、稲垣真理奨励会1級にも同じことがいえる。
さらに今回の話では、将棋ソフトの終盤の読みが、プロ棋士(奨励会員)のそれより正確、という位置づけで構成されていた。これは話の重要な鍵ではあるのだが、日本将棋連盟としては屈辱の設定ではあるまいか。
もっとも今年の1月、米長邦雄永世棋聖が将棋ソフトに負けてしまったから、その設定は正しいとも言えるのだが…。
そんなソフトのチカラに頼ってしまう奈穂子は、志が低い。こんなことでは四段になれないし、なってからも苦労が待っているだけだ。
密室のトリック自体は、「犯人は誰だ!」的な本にも出ていたもので、肩すかしを食った。
またそれを補完する証拠が、いまひとつ理解できなかった。奈穂子が盤上の駒をテーブルに戻したことが、果たして決定的な証拠となるのかどうか…。
さらにこのドラマ全体をゆるい印象にしていたことがある。それは、奈穂子役の相武紗季らの、将棋を指す手つきが覚束なかったことだ。
私は以前「将棋ペン倶楽部」に、「手つきについて」という題で一筆書いたことがある。「ドラマで将棋棋士の役で出演する人は、手つきをそれらしくしてほしい」という主張だった。
今回もそれがいえる。奨励会の対局だから、駒が安物だったのはいいとしても、あの手つきはいただけない。あれじゃあ初級者である。
役者がプロ棋士のごとく、ピシッと指すからこそ、話に厚みが出る。リアリティが出る。役者はセリフを覚えるよりも、将棋を指す手つきを勉強すべきだった。
最後、榎本と奈穂子が平手で将棋を指す、というのもよく分からなかった。奈穂子は女流三段ではなく、奨励会三段なのだ。その彼女と平手で指す榎本は、どれほど将棋が強いのだ。
それにしても解せない。原作の貴志祐介氏は、「ダーク・ゾーン」で第23回将棋ペン倶楽部大賞・特別賞を受賞している。当然将棋界や奨励会のシステムも熟知しているはずで、それならこんな小説は書かないと思うのだが…。
最後になるが、ドラマを観て、ほほう、と感心したこともある。話の中盤で登場した中野四段役の忍成修吾が、いかにも今風の若手棋士、という感じで、妙にリアリティがあった。
また、稲垣1級役の山下リオが、ちょっと室谷由紀女流初段に似ていたのもよかった。このキャスティング、よもや室谷女流初段似の女優を選んだのではあるまいな。
いろいろ書いたが、「鍵のかかった部屋」は、スピーディーで面白いことはたしかだ。今後も期待している。
コメント (2)
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