一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

金曜サロン・石橋幸緒天河⑩・思いやり

2010-11-22 00:47:22 | LPSA金曜サロン
9月3日のLPSA金曜サロン、2部は石橋幸緒天河の担当だった。1部の島井咲緒里女流初段に逆転勝ちし、気分を良くしての指導対局2局目である。芝浦サロンは原則的に1日一女流棋士の担当なので、これからはこの感慨にふけることはない。
指導対局開始。何でも指す石橋天河はゴキゲン中飛車。これが12局目の平手対局で、最初は石橋天河が毎回戦型を変えていたが、ここ数局は石橋天河にゴキゲン中飛車の採用率が高く、これで3局目になった。
私は☗4六銀と出る手を選ぶ。以下定跡の一局面に進んだが、ここで石橋天河に思い切った手が出た。一目無理気味に思えたが、プロの指し手はその無理が通ってしまうことがあるから厄介だ。
私は慎重に応接する。その数手後、私に上手の攻め駒を責める好手が出て、一遍に勝勢になった。
さらに数手進み、上手は☖3一銀☖3二金に、端歩を突いていない片美濃囲い。下手は☗2一馬に、持駒・飛、角、桂…。ここで私が☗5五角と打った手が、☖3七成香取りと☗7四桂を見た絶好の一手。上手は受けようがないので、☖4八成香と☗4八の香を取った。
しかしここで私がふつうに☗同金と取り返したのが悪手だった。当然☗7四桂を利かすべきだったのだが、実は錯覚があったのだ。☗7四桂に☖7一王は☗8二角で詰みと読んでいたのだが、角はもう5五に手放していた。そこで狼狽した私は、つい☗4八同金と取ってしまったのだ。
何のことはない、☖7一王には☗3一馬でも☗3二馬でも、カナケを取って下手勝ちだった。これなら石橋天河は投了していただろう。
本譜は、「あれあれ…じゃあお言葉に甘えて」と石橋天河がつぶやき、☖6四歩。☗同角に☖6三銀。これで上手に詰めろがかからなくなってしまった。
「大沢さん、よほど石橋さんと将棋が指したいみたいだね」
と、櫛田陽一手合い係がジョークを飛ばす。石橋天河と将棋を指すのは勉強になるが、勝ちがあれば私だって寄せる。しかしこんなスットコドッコイな手を指しては、私も反論できない。☗4八同金は、返すがえすも弛んだ一手だった。
もっともこの局面だって、下手が99%勝ちである。ところがこの将棋が、だんだんおかしくなってゆく。本局は扇子サイン勝負。石橋天河からはサインを入手しにくいから、私は網に入れた魚を逃すまいと、自陣を整備する消極的な手を連発する。
そしてようやく、上手陣に☗2三歩と垂らした。
「いい手ですね」
と櫛田手合い係。ホメていただいたのはありがたいが、二階から目薬のような手で、どうも気が利かない。
対して石橋天河はもう敗勢だから、寄せてみろ、とばかり金銀がどんどん盛り上がってくる。何だか要塞ごと攻めてこられるような気がして、私は恐怖した。ここでその一場面を掲げてみよう。

☖7四桂に☗7七馬まで。私の大きな駒得と思いきや、実際は飛車角と銀2枚の交換にすぎない。私が震えまくったせいで、この局面はかなり形勢が縮まっている。
ここで石橋天河は☖6五歩☗同歩☖6六香と指し、☗6九香以下激戦が続いたが、最後は石橋天河の攻めを切らせることができ、辛勝した。
私が気にしていたのは☖6五歩に代えて☖5五銀打である。銀がタテに4枚も並ぶ珍形だが、もし次の☖6六桂を気にして☗6七香とでも受けると、☖6五歩☗同歩☖6六歩となり、これは逆転であろう。
☖5五銀打でも下手が正着を指せば残していそうだが、雰囲気的には負けの流れだった。さてここからが推測だが、たぶん☗7七馬の局面、石橋天河は逆転の手応えを感じていたと思う。ここで☖5五銀打が正着かどうかは分からぬが、厚みを重視するプロが指しそうな手であり、石橋天河に浮かばなかったわけがない。
しかし公式戦ならいざ知らず、指導対局で99%負けの将棋を勝ってしまうのは、相手に対して申し訳ない、というココロが石橋天河にあったのではなかろうか。
そこで石橋天河は☖5五銀打を見送り、やや直截的な☖6五歩の攻めを選んでくれたのではないか。
この局面、石橋天河に改めて質しても、答えをはぐらかされるだろう。しかしファン思いの石橋天河のことである。意識的に次善手を指した可能性は十分にある。私のこの推測は、当たっていると思う。
石橋天河の指し手に、プロの真髄を見た気がした。
コメント
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