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悲恋二作

2012年08月13日 | 雑感
オリンピックで、日本勢が頑張ったので報道も競技者の置かれている状況と背景を報道することが多かった。日本の代表に選ばれるのも困難であり、競い合って頂上を目指す者たちにスポットをあてるので、ついほだされて感動を呼び覚まされる。
そんな合間に山本周五郎著の悲恋小説を二作読んで、こちらでも目をうるうるさせられた。以下、各小説に男2人、女1人の計6人であらすじを要約してみた。

「柳橋物語」    (おせん、庄吉、幸太)
江戸大川端の逢引きで17歳のおせんは一生を決定する約束を庄吉と交わす。庄吉が難波修行から戻るまで嫁がずに待つ約束を。特に、同僚の気の荒い幸太が云い寄るはずだと念を押す。
ところが、江戸では地震や火事が度々起こり、おせんの身は運命に翻弄される。
火事の生死の分かれ目で拾った孤児を育てるおせんに対して、周囲が自堕落な女だと誤解し、それ故に生ずる過酷な運命が余りに哀しく、読んでいても辛い。
難波から戻ってきた庄吉は、同僚の幸太の子と誤解する。おせんに、自分の子でなければ捨てろと責める。捨てようとするが、辛苦を舐めて育てた子を捨てることはできない。やがて、清次は、棟梁に気に入られ入り婿になってしまう。

ここで気づくおせんの独白は、涙なしに読めない。
弱い庄吉の身を、若かったので気の毒と感じたことが、約束に至らしめる。難波に行った庄吉に操を守り抜いたのに、自分を信じようとしなかった。時を経て考えると、嫌い抜いた幸太の好意こそ本物であった。あんなに嫌ったのに、いろいろな場面で家族をも助けてくれた好意こそ尊かったと、おせんの心理を心憎いほどに絵解きする。あの火事の土壇場で、おせんに生き抜けと云って、幸太は大川に沈んでいった。
             
此処で巻末の解説をひろうと、「これらの過酷な運命に耐えておせんはついに精神的な勝利を得る。この世に生きながら真の人間の愛情とまごころを知る。すべてかけ違ってしまうのが、この世の辛い定めなのだと作者はおせんを信じなかった庄吉をも許している。」
読んでいて、おせんの身に起きるさまざまな状況というか設定は、周五郎の筆致でもって充分に納得させられる。最期には、真の愛情を悟った形に昇華させたが哀しすぎる悲恋小説だった。



「むかしも今も」    (おまき、直吉、清次)
親方の家で修行する二人の若者に、愚直な直吉と腕利きの清次が、その娘おまきを巡る話。
親方に認められて清次がおまきと祝言するが、清次の博打が元で追われほとぼりが冷めるまで江戸を離れ難波に逃げる。

再び解説を、以下に引用する。
『愚直な男(直吉)の愚直を貫き通した故の幸福をうたいあげた心なごむ物語りといえる。
「柳橋物語」が純粋ゆえに間違ってしまった人生の悲劇であるならば、「むかしも今も」は純粋によって得たほのぼのとした勝利である。
「柳橋物語」の幸太の切ないおせんに対する願望は、「むかしも今も」のおまきに対する直吉のハッピィエンドによって、ようやく実現され報われたといってもよい。
「柳橋物語」では、びたりとおせんによりそった作者は、「むかしも今も」の直吉に同体化している。そして、ここでも作者は庄吉と同じように「むかしも今も」のやくざな清次をも見捨てていない。直吉は、肉の陶酔すら自らに禁じ、もっと精神的である。空地で、幼児だったおまきが、直吉におしっこをさせてもらって以来、「むかしも今も」のエピソードが、詩的ルフランとして生きている。ほそぼそとした内職によって生活している江戸の庶民の生活が読者にそのまま伝わってくる。』

三角関係を扱いながら、ほんとうの愛情とは何なのかを問う感動小説は、同じ文庫本に収録されている。

                  

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10 コメント

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山本周五郎さんを読んでいるとは (根保孝栄・石塚邦男)
2012-08-13 03:40:20
山本周五郎さんを読んでいらっしゃるとか。
若い人では珍しいのですよ。
最近の時代小説は読んでいるのですか。
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作品の背景について (iina)
2012-08-13 08:46:31
敗戦直後に書かれた作品であるだけに、作中の地震、火事、水害、飢饉、孤児、記憶喪失、放浪などには、空襲、
食糧不足、家族離散、戦災孤児、娼婦など当時の苦しい体験と社会状況が生々しいリアリティをもって反映されて
いる。空襲下のS20年5月に夫人を失い、長男が空襲下に行方不明になるなどの作者の辛い苦しい体験が、この
作品の底に流れている。
                                  奥野健男氏の巻末解説より
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柳橋物語 (六五六)
2012-08-13 10:24:47
山本周五郎さんの本名が、清水三十六(さとむ)ですからペンネーム六五六のボクは、大好きですよ。

でも、「樅ノ木は残った」とか「赤ひげ診療譚」や「正雪記」の代表作くらいしか読んでません。
こんど「柳橋物語」、「むかしも今も」を読んでみます。
周五郎さんのおすすめ本を教えてください。
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応援有難うございました (ippu)
2012-08-13 10:26:47
甲子園で、妹の孫“竜平”がピッチャーを務める成立学園、残念ながら負けてしまいました。
応援有難うございました。
桐光学園、応援しますからね。
返信する
今日は (mone)
2012-08-13 12:47:06
活字。最近根気が無くなって、苦手です。

恋をして、失恋したシマウマが・・・・・目がまわります。真実を写すものはどこへいったんでしょう? 誤変換こういうの大好きです。
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Unknown (ぼたん)
2012-08-13 17:14:58
山本周五郎の作品は読んだ事が無いわ。
返信する
commentに m(_ _)m (iina)
2012-08-14 09:14:45
(根保孝栄・石塚邦男) さん へ
山本周五郎作品は、江戸から難波に逃避する場面設定をよくみます。この2作を読んで傑作と評価される「おさん」
を連想しました。
「純真な心を持ちながら男から男へわたらずにはいられないおさん――可愛い女であるがゆえの宿命の哀しさ
を描く」悲劇でした。おさんの状況には、同調し難いですが、「柳橋物語」の頷かざるを得ない状況を細やかに
描いて納得しました。
若い時に、何故か「さぷ」を途中まで読んで投げ出してしまいました。随分たって読み直したら「友情巨編」だった
のでした。以降、読み続けています。




(六五六) さん へ
三十六(サトム)と六五六(ムツゴロウ)は、よく似てますね。(^^ゞ

>周五郎さんのおすすめ本を教えてください。
ブログに山本周五郎を扱った記事がありますから、お手数ですが参考にしてみてください。
http://blog.goo.ne.jp/iinna/s/%BB%B3%CB%DC%BC%FE%B8%DE%CF%BA




(ippu) さん へ
バナナを毎朝、パンにはさんで食べています。
茶色より“青めバナナ”の方が好みです。熟しすぎたバナナは割箸を貫き冷凍して食べると案外とウマいです。

成立学園は、残念でした。筋書きのないスポーツはオリンピックでもいろいろなゲームを演出しました。
応援もおつかれさまでした。

必ずコメントの翌日に、どのブログにも訪問のうえ返信させて頂いています。




(mone) さん へ
目玉おやじもスイカがお好きでしたか。
キッチンと実ったスイカを切った場所も、キッチンのようですね。(^^ゞ

山本周五郎作品は、短編が多いですから人情物を扱っては天下一の味わいを感じられます。多くの作品が
映画にもなってますから、そちらを鑑賞するのも好いですよ。




(ぼたん)さん へ
山本周五郎の作品は、ひとの情をあつかったものが多いです。

短編が多いですから、いちど試しに読んでみてください。

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TB(boovie blog)さん へ (iina)
2012-08-14 09:35:01
山岡荘八は家康本人ではなく、『徳川家康』を描いたにすぎないので、家康の厭な面を指摘されても返事のしようもない
ように思えます。清濁併せ呑む度量も必要です。
家康の生き方を肯定するような描き方をするなということなのでしょうが、本田宗一郎は余程気に障ったのですね。

司馬遼太郎の小説も、ここで「某は、くしゃみをした。」といった具合に、史実に生々しさを加えることで魂を吹き込む細工
をしています。知ったような嘘を描くなと、それが嫌味という方もいますが、氏もこれらの質問に答えようもなく、苦虫を
つぶしたように「小説です」というのみでした。
返信する
Unknown (ピノコ)
2012-08-21 15:14:16
気が付くのが今です。(遅くて<m(__)m>)

私は宝塚や舞い舞踊を観たりしますがその世界に
結構、悲恋物が多いですよ。

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(ピノコ)さん へ (iina)
2012-08-22 09:36:57
悲恋物は、演劇に向きますね。

山本周五郎の小説は、映画や演劇の題材になることが多いですね。

また、おこしください。          m(_ _)m
返信する

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