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具体と抽象  2つの異質な世界を往復する

2019-06-12 | 教育
具体と抽象  2つの異質な世界を往復する

■頭を柔らかくするポイント
1)具体例で思考をシャープにする
2)抽象化によって鳥瞰図的な見方をする
3)具体と抽象の登り降りをする

●常套句「何か具体例がありますか」  
雑誌やTVの取材やインタビューを受けることがある。その中で必ず質問されるのは、「何か具体的な例がありませんか」である。  話をわかりやすくしたり、説得的にするためには、抽象的な話ばかりではまずいということであろう。  具体例は、適切に使われれば、話をわかりやすくするし、語りの内容をシャープにする。  具体例は、こうした語りの場面だけでなく、思考を豊潤にするためにも役立つ。

●具体ー抽象のはしごを登り降りする  
人の思考は、具体と抽象の間を絶えず往復している状態がよい。  我々のような研究者の場合で言うなら、モデルとデータの間の登り降りである。商品開発の場合なら、コンセプトと試作品の間の登り降りである。  具体ばかりでは思考が硬くなる。抽象ばかりでは思考が甘くなるからである。

●抽象化すると  
抽象化は2つのステップを経て行なわれる。 まず、個別の具体の中に共通するものを抽出するステップである。  次のステップは、その共通したものに、言葉(概念)を割り付けることである。このステップでは、当然、他の概念との関係のネットワークが構築されることになるので、関連する知識をどの程度持っているかが大事になる。豊潤な知識が豊潤な抽象化を生む。  こうしたステップによる抽象化によって、より広い普遍的な観点から物事が鳥瞰(ちょうかん)できるし表現することもできるようになる。  ただし、抽象化もどんどんその階段の上へ上へと誘惑するものを内在させているので、要注意である。だからこその、具体ー抽象の登り降りである。  

●具体化すると  
具体化とは、概念を目に見えるように(イメージできるように)することである。  「家具」のイメージは漠然としていても、「椅子」「座椅子」なら、簡単かつ鮮明にイメージできる。これが具体化である。  具体化すると情報が増える。そこには、夾雑物も入っている。それにとらわれてしまうと、本質が見えなくなってしまう。具体の桎梏(しっこく)である。だからこその、具体ー抽象の登り降りである。

●適度の抽象度で  
人は横着である。登ったり降りたりはしんどいので、はしごの適当なところで腰をおろしていて、必要に応じて登ったり降りたりするのはどうかと考えるらしい。  これが、適度の抽象度(具体度)という考えである。  普段は適度の抽象度のところで思いをめぐらし、いったん事があるときだけ、上や下へ 思いを向けるわけである。

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「具体表現と抽象表現」
■具体表現の例---小説より 「中学は、緩やかな丘陵の途中にあった。生徒以外に人気はなく、サッカーのゴールポスト辺りにいつも鳥が群がっていた。」(桐野夏生著「柔らかな頬」講談社より)
■抽象表現の例---心理学の専門書より 「目標は行為をガイドする。とはいっても、内部目標は慣れた作業になるほど、目標をあらためて意識することがなくなる。目標の暗黙知化が起こる。これも、認知資源を有効活用するための怠けである。(拙著「失敗を「まあいいか」にする心の訓練」小学館文庫より)

「解説」 小説では、具体の細部に至る表現が勝負となる。臨場感を出すためである。これに対して、学問の世界は、抽象が勝負となる。論理性を構築できるからである。  
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クイズ1「具体ー抽象のはしごを登り降りしてみる」
■次の概念の具体例を挙げよ。
○バブル崩壊
○構造改革
■次のそれぞれの具体例から抽象化すると、どのような概念を割り付けるのが適当か。
○「12歳少年、母親を刺す」「中学生3人組コンビニ強盗」
○「12歳少年、母親を刺す」「中学生の不登校急増」
「解説」
■「具体例」が即座に3つくらい思いつくようなら、概念の意味がよくわかっていることになるし、立派な語り手にもなれる。
○バブル崩壊の具体例
・4千万円で買った家が今3千万円になってしまった。
・周辺の空き地がいつまでも荒れ地のまま。
○構造改革
・公共事業の配分区分を変更する。
・意思決定の方法を変える
■「抽象化」は、最初のケースなら、「少年犯罪」、2番目になると、もう少し抽象度を上げて「少年の心の闇」とか「少年の異常心理」になる。  

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