三流読書人

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ドングリ小屋住人 

 命  「新宿に降る雪」

2008年02月29日 17時53分20秒 | くらし

  海外ブランド品が並ぶショーウインドーの前を通勤の人波が流れていく。そのすぐ脇で、人の男性が路上に倒れていた。
 6日朝、東京・JR新宿駅西口。偶然通りかかったNPO(非営利組織)の若者が足を止め、男性の肩をたたいた。「具合が悪いんですか」。男性は口をわずかに動かすが、声が出ない。「救急車を呼びましょうか」と尋ねると、うなずいたという。
 通報で救急車が来た。だが救急隊員は若者に「この人は搬送を拒んでいる」と」言った。「言葉も出ないのに、拒否なんかできますか」。若者と救急隊員の押し問答が続く。そして雪が降り始めた。
 救急車が撤収した約4時間後、若者の同僚が様子を見に行く。男性は凍死していた。
 私は東京に再び雪が降りそうな朝、その場所を訪ねた。雑踏の脇で高齢の野宿男性が身を縮めていた。「この辺じゃ見かけない男だったね。とにかく今年は寒すぎるよ」薄っぺらな布団を胸までたくし上げた。
 警察の調べで、亡くなった男性は所持していたパスポートから39歳の日系ブラジル人と判明する。昨年まで静岡の会社に勤め、数日前から新宿で目撃されていたが、その間の足取りは分からない。
 消防は「私たちに搬送を拒否する人を運ぶ権限はない」と説明する。彼が搬送を拒んだのか、もはや知るすべもない。だがたとえそうだったとしても、一つの命を救うことはできなかったのか。男性の遺体は元雇い主に引き取られた。「ぼくは救えなかった」。通報した若者は今も悩んでいる。

 これは2月27日付『毎日新聞』のコラム「発信箱」礒崎由美氏(生活報道センター)である。

 日本で、「生き延びるということ」もまた、格差との闘いである。 

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