鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

 「緯度」や「経度」の語が、アリスには魔術的力を持つ(WONDERLAND1‐11)

2013-07-29 18:29:56 | Weblog
 さらにアリスが言う。「そうだわ、それが正しい距離だわ。でも私は、緯度または経度に関しては、何度まで来たのかしら?」。(アリスは、緯度や経度が何なのか、全く知らない。しかしそれらは、彼女にとって、言うに値する素敵で壮大な言葉 nice grand words である。)

 ◎アリスの考え方・感じ方(5):人の心に訴えかける「素敵で壮大な言葉」は、誰にでもある。それらはいわば、魔術的力を持つ言葉で、人を魅惑する。それらは、儀式を構成する言葉や、呪文などと同様、人の情緒に訴えかけ、人の心をつかむ。アリスにとっては、「緯度」や「経度」の語が、魔術的力を持つ。

アリスにとって知識を持つことは誇らしいことである(WONDERLAND1‐10)

2013-07-29 18:27:25 | Weblog
 「えーと、つまり兎の穴を、4000マイル落ちたんだわ、そう思うわ。」とアリス。(アリスがこんなことを言った理由は、何か?確かに、彼女は学校の授業で、こういう種類のことを習った。今はもちろん、自分の知識を見せびらかす良い機会ではない。彼女の話を聞く人が誰もいないから。しかし再び言っておさらいをしてみるのは、良いことである。そう彼女は思った。)

 ◎アリスの考え方・感じ方(4):アリスは独りで自分に向かってよくしゃべる。また、彼女は当然にも、自分を誇らしく思いたい。彼女は「4000マイル」と言って、自分が知識を持つことを、自分に誇った。彼女にとって、知識を持つことは誇らしいことである。

不思議の国の兎の穴は、地球の中心近くまで達していてもおかしくない(WONDERLAND1‐9)

2013-07-24 16:08:51 | Weblog
 落ちる、落ちる、落ちる。落ちることは終わらないのか?「これまでに何マイル落ちたのかしら?」と、アリスが大きな声で言う。さらに彼女が続ける。「地球の中心近くのどこかに、私は行くんだわ。」

 ◎「不思議の国」が不思議な理由(7):アリスは最初、日常的現実の兎の穴に落ちたのに、今や、もはやその兎の穴が日常的現実に属さないと、彼女は知っている。それは、不思議の国の兎の穴だから、何マイルも下まで続き、ついには地球の中心近くまで達していてもおかしくないのである。

一方でアリスは連想が得意、他方で日常的現実を不思議の国と混同(WONDERLAND1‐8)

2013-07-16 12:12:54 | Weblog
 兎の穴を落ちていきながら、アリスが独り言を言う。「こんな風に、どんどん落ちていく経験をした後では、階段から転げ落ちたって、全然気にしない!すると私のことを『なんて勇敢なんでしょう』と、家でみんなが思うわ!それに、たとえ家のてっぺんから落ちたとしても、私は何も気にしないわ!」(こうした考え方が、この時アリスには、非常に真実らしく思えた。)

 ◎アリスの考え方・感じ方(2):アリスのこの独り言から、彼女は、連想が得意だと分かる。ここでは、「落ちる」の連想。“兎の穴をどんどん落ちていく”、“階段から転げ落ちる”、“家のてっぺんから落ちる”と続く。
 そもそも、アリスは、兎の穴をどんどん落ちることに、何の恐怖も感じない。これはなぜか?不思議の国では、日常的現実と異なり、どんどん落ちるにしても、「ゆっくり」落ちるから。アリスはすでに、不思議の国の現実を受け入れている。
 主観的にみると、アリスは、「落ちる」ことに関して、不思議の国と日常的現実を混同する。日常的現実では、“階段から転げ落ちる”ことも、“家のてっぺんから落ちる”ことも、大事件で、ひどく痛いし、大けがをしたり死んだりする。
 かくて、アリスの独り言の内容は、①不思議の国と日常的現実との混同、②彼女は連想が得意であること、これら2点の帰結である。
 なお、独り言の内容が、「この時アリスには、非常に真実らしく思えた」理由は、もっぱら彼女が両現実を混同したことによる(①)。彼女は、日常的現実においても、不思議の国と同じに、階段や家のてっぺんから、「ゆっくり」落下できると、思ったのである。

背景化と主題化のダイナミズム(WONDERLAND1‐7)

2013-07-07 22:58:18 | Weblog
 その瓶は オレンジ・ママレードとラベルが貼ってあったのに、空だった。

 ◎コメント:なぜビンは空だったのか?「不思議の国」では、ラベルが貼ってあっても、すべてのビンが空だったら、それは、確かに不思議だが、ここでは、そうだと言っていない。つまり、オレンジ・ママレードのビンが、たまたま空だっただけである。

 兎の穴を、ゆっくり落ちながら、アリスは心配する。「空のビンを捨てたら、下にいる誰かを殺してしまうかもしれない」と。そこで彼女は、落ちながらも、なんとかビンを戸棚の一つに戻した。

 ◎アリスの考え方・感じ方(1):兎の穴の底に人がいると、なぜアリスは考えたのか?そもそも兎の穴をこんなにゆっくり落ちることが不思議である。しかし彼女はその不思議さに慣れた。慣れれば、不思議でなくなる。「兎の穴をゆっくり落ちる」は自明となり、主題でなくなる。かくて「ビンを下に落とす」がアリスの主題となる。すると下に誰かいるかもしれないことが推論される。とすればビンは下に落としてはならない。ビンを戸棚の一つに戻すのが、最善の行為である。
 ある主題に慣れればそれは自明となり、主題として注意が向けられなくなり、背景となる。かくて新たな主題に注意が向けられる。アリスの考え方・感じ方は、一般的な意識のあり方に従う。つまり、一方で、自明性に基づく非主題化=背景化、他方で、出来事に注意が向けられることによる主題化、これら両者が、いわば図と地として変遷し続けるダイナミズム(力学)に、アリスの考え方・感じ方は、従う。

異なる現実に異なる言葉を充てず、日常的現実の言葉を、そのまま使う(WONDERLAND1‐6)

2013-06-29 12:41:52 | Weblog
 アリスは、兎の穴を、ゆっくり落ちていきながら、穴の側面の戸棚から、ビンを取る。それにはオレンジ・ママレードとラベルが貼ってあった。

 ◎「不思議の国」が不思議な理由(6):①兎の穴の側面の戸棚に、なぜオレンジ・ママレードのビンがあるのか?また、②アリスは、なぜ多くの物の中からオレンジ・ママレードのビンを選んで取ったのか?
 ①については、日常の現実においても、戸棚にオレンジ・ママレードはあるだろうから、「戸棚」との関係では、オレンジ・ママレードの存在は不思議でない。しかし「兎の穴」との関係では、オレンジ・ママレードがそこにあるのは、不思議である。
 「不思議の国」が不思議な理由は、ここでは、「兎の穴」に、オレンジ・ママレードがあることである。つまり不思議な理由(5)で述べたように、同一の言葉(「兎の穴」)が、日常的現実の場合と同一の内容を指し示さないことにある。
 これは言い換えれば、異なる現実には本来、異なる言葉を充てなければならないのに、「日常的現実」の言葉を、そのまま「不思議の国」の異なる内容の出来事に対して使うことから、「不思議の国」が不思議となる。
 なお、②については、アリスがオレンジ・ママレードのビンを選んで取ったのは、彼女がそれを好きだからで、特に不思議ことはない。

同一の言葉(「兎の穴」)が、同一の内容を指し示さない(WONDERLAND1‐5)

2013-06-25 23:02:42 | Weblog
 アリスは、井戸のような兎の穴を、ゆっくり落ちていく。彼女は、次に何が起こるだろうか考える。彼女は、最初、下を見て、落ちていく先に何があるか知ろうとした。しかし真っ暗で何もみえない。そこで次に、彼女は兎の穴の側面を見る。

 ◎コメント3:アリスは、井戸のような兎の穴を、「ゆっくり」落ちているから、その井戸の側面がどのような状態か見分けることができる。

 アリスは、気づく。井戸の側面は、戸だなと本棚で全部、埋まっている。あちこちに地図や絵が、画鋲でとめられている。

 ◎「不思議の国」が不思議な理由(5):井戸のような兎の穴の側面が、戸だなと本棚で全部、埋まっていて、不思議である。しかも画鋲でとめられた地図や絵がたくさんあるのも不思議。日常の現実では、兎の穴の側面は、ただむき出しの土があるだけである。では、何が不思議なのか?不思議の国では、日常的現実と異なり、「兎の穴」の側面が、戸棚・本棚・絵・地図で埋まっていることがありうるのである。言い換えれば、「兎の穴」という同じ言葉が指し示す内容が、日常的現実と「不思議の国」で大きくずれる。つまり、この場合、「不思議の国」が不思議なのは、同一の言葉(「兎の穴」)が、日常的現実の場合と同一の内容を指し示さないからである。

垂直な穴を「ゆっくり」落ちる!(WONDERLAND1‐4)

2013-06-16 17:06:34 | Weblog
 兎の穴は、途中までトンネルのようにまっすぐだが、やがて傾きが急になり、突然井戸のようにストーンと落ちる。井戸があまりに深いせいか、あるいは、アリスが非常にゆっくり落ちているせいか、落ちていきながら、彼女には、時間がたくさんあった。

 ◎コメント1:落ちていきながら、時間がたくさんある、つまり長い時間落ち続けるとは、井戸があまりに深いか、あるいは、ゆっくり落ちているからだというのは、正しい推論。 続く話の展開が、事態を決定する。
 
 時間がたくさんあったので、アリスは周りをゆっくり見回した。

 ◎コメント2:「井戸が深い」ため長く落ち続ける場合は、スピードがどんどん速くなり、周りを見回す余裕などない。とすればアリスが長い時間落ち続ける理由は、彼女が「ゆっくり」落ちているからである。

 ◎「不思議の国」が不思議な理由(4):井戸のように垂直な穴を、アリスは、「ゆっくり」落ちる。日常の現実では、垂直な穴を「ゆっくり」落ちることはない。この点で「不思議の国」は、不思議である。

アリスの好奇心が、「不思議の国」の物語の展開を可能にする(WONDERLAND1‐3)

2013-06-09 22:23:15 | Weblog
 次の瞬間、アリスは、兎に続いて穴に飛び込む。彼女は、一体全体どのようにして再び外に出るかなど、全く考えていなかった。
 
 ◎「不思議の国」が不思議な理由(3): アリスの好奇心こそが、「不思議の国」の不思議さの展開を支える。彼女は常識の徒だが、時に、アリスの行動は、安全をめざす常識でなく、危険をいとわない好奇心によって支配される。アリスにおける好奇心の強さが、「不思議の国」で彼女が恐怖・委縮しない原動力となる。「不思議の国」で不思議さの経験が持続するのは、アリスの好奇心のゆえである。彼女の好奇心が、「不思議の国」の物語の展開を可能にした。

アリスは境界人であり「不思議の国」と「日常の世界」を行き来する(WONDERLAND1‐2)

2013-05-01 22:02:05 | Weblog
 ところが、兎が実際、ベストのポケットから時計を取り出し、それを眺め、急いで走っていくのを見たとき、アリスは、急に立ち上がる。理由は、ベストを着た兎、あるいはベストから取り出す時計を持った兎なんてものは、見たことが一度もないことに、アリスは突然、気づいたから。

 ◎コメント:「ベストを着た兎」などいない。「時計を持った兎」などいない。そうアリスが思ったのは、なぜか?アリスは、初め、「兎がものを言う」ことを全く自然に思った。この時、アリスは、完璧に「不思議の国」の住人だった。ところがアリスは、突然、日常の世界に跳躍する。「日常の世界」では、兎はものを言わないし、ベストを着ないし、時計を持たない。アリスは「境界人」であり「日常の世界」の現実と、「不思議の国」の現実を行き来する。

 好奇心で燃え上がるアリスは、畑を横切って走り、兎を追いかける。かくて、兎が垣根の下の大きな兎穴に飛び降りるのを、アリスは見届ける。
 
 ◎「不思議の国」が不思議な理由(2):アリスが「不思議の国」の住人でない限りでのみ、「不思議の国」は不思議となる。彼女が不思議の国の住人なら、兎がしゃべることも、兎がベストを着ることも、兎が時計を持つことも、すべて当然で自明であって、不思議と思われることは決してない。「境界人」としてのアリスが、「日常の世界」の現実から、「不思議の国」を見ると、そこは不思議な世界となる。アリスが「不思議の国」の現実の住人へと移住すれば、「不思議の国」の不思議さは消失し、ただ自明で当然で常識的な世界のみが出現する。