左傾化した歴史教科書 代案版が話題に－韓国
民族主義史観是正／建国の意義を強調
現行の韓国高等学校歴史教科書の左派的理念に基づいた偏向記述を正すことを目的にした教材「代案教科書 韓国近・現代史」（耆婆郎社）が、二十四日から市販され、話題を呼んでいる。建国や南北関係などについて教育現場で民族主義的立場から説明されることへの危機感が執筆動機になっていて、今後出版される検定教科書の編集基準になる指針にも影響を与えそうだ。
（ソウル・上田勇実）
対北包容政策を批判
植民地時代の“明”も併記
反応は両極端、教育指針に影響も
「代案教科書 韓国近・現代史」は、二〇〇五年に発足した「教科書フォーラム」が執筆した文字通り教科書の代案版だ。同フォーラムは、韓国社会の左傾化を憂い誕生した新保守勢力「ニューライト」系の知識人たちによって構成されており、教材の中身は金大中、盧武鉉両政権で目立つようになった教科書の偏向記述を是正することに主眼が置かれている。また軍事政権下の一九七〇年代以降から広がり始めた民族主義史観を修正する狙いもある。
例えば、大韓民国が建国された一九四八年八月十五日に関する記述を、左傾化教科書の代表ともいえるＫ出版社の「韓国近・現代史」（以下、Ｋ教科書）は「南韓（韓国）だけの政府が樹立されたのは、統一民族国家の樹立が失敗に終わったことを意味する」と、“未完の歴史”として強調しているのに対し、代案教科書では「解放の真の意味は、一九四八年に自由、人権、市場などの人類普遍の価値に立脚し、大韓民国が樹立されることで初めて確保された」と、高く評価した。
また北朝鮮の記述では、Ｋ教科書の「われわれ式社会主義と朝鮮民族第一主義で世界の変化に対応する一方、部分的な開放政策で経済的困難から抜け出すため努力している」に対し、代案教科書は「現在、北朝鮮体制を支える唯一の力は先軍政治の暴力だ。こうした暴力国家は長期的には続かない。北朝鮮体制の不安定は、韓半島のみならず北東アジア全体の平和に深刻な脅威になっている」。実に対照的である。
代案教科書は、韓国政府による過去十年間の太陽政策（対北包容政策）を「太陽政策が期待した北朝鮮の改革・開放は、いまだ実現していない」と批判し、二〇〇〇年の南北首脳会談についても「南北共同宣言第二項は、統一国家の理念的土台を明確にしなかったため、南韓内で深刻な体制論議を引き起こした」と踏み込んでいる。
このほか代案教科書は、植民地時代について「収奪と抵抗」という“暗”の部分を前面に出した従来の教科書とは異なり、この時代の“明”の部分も併記している。「抑圧と闘争の歴史のみだったわけではなく、近代文明を学習し、視察することで、近代国家を立てることができる社会的能力が厚く蓄積された時期だった」といった記述がそうだ。
現在、韓国の高校で使用されている韓国近・現代史の教科書は六種類。五年に一度改定される国の教育課程で教科書編集の指針が決まるが、現行教科書の指針は左派政権下で行われたことを反映してか、四種類が左派民族主義的な歴史観に貫かれているといわれる。このうち前述のＫ教科書の採択率は、〇四年時点で約５０％に達したという。
執筆に加わったソウル大学の李栄薫教授は「現場では深刻な影響が出ている」としながら次のように指摘する。
「ある調査では、８０％以上の高校生が大韓民国という国家がいつ樹立したのか知らなかった。建国という概念が頭にないからだが、国民が自分の国がどういう理念に基づいているのか知らないというのは極めて危険」
また北朝鮮観の形成について李教授は、「北朝鮮は反人権、全体主義の体制なのに、これまでの教科書は批判意識に欠けている。国際情勢の変化を受けて、韓国国民が南北問題でどういう政治的選択をするのか不安だ」と述べている。
代案教科書は市販前から反響を呼んでいる。保守派からは「待っていた」との声が上がった一方、左傾化教科書採択の先頭に立った全国教職員労働組合（全教組）や太陽政策支持の野党・統合民主党の議員などは逆に批判的で、一言で言うなら反応は両極端だ。
植民地時代の記述などを根拠に学界の一部から「日本の扶桑社が出した『新しい歴史教科書』の韓国版だ」といった非難も出たようだが、二十五日の記者会見で執筆陣の一人が「侵略を美化する部分はない」とこれを一蹴（いっしゅう）した。
いずれにせよ、今回の代案教科書が最近の歴史教科書の左傾化に一石を投じたのは確か。韓国では十年ぶりに保革政権が交代したこともあり、同フォーラムでは、代案教科書が現場でまずは補助教材として利用され、最終的には検定教科書の指針の参考になることを期待している。
http://www.worldtimes.co.jp/w/korea/korea2/kr080328.html
民族主義史観是正／建国の意義を強調
現行の韓国高等学校歴史教科書の左派的理念に基づいた偏向記述を正すことを目的にした教材「代案教科書 韓国近・現代史」（耆婆郎社）が、二十四日から市販され、話題を呼んでいる。建国や南北関係などについて教育現場で民族主義的立場から説明されることへの危機感が執筆動機になっていて、今後出版される検定教科書の編集基準になる指針にも影響を与えそうだ。
（ソウル・上田勇実）
対北包容政策を批判
植民地時代の“明”も併記
反応は両極端、教育指針に影響も
「代案教科書 韓国近・現代史」は、二〇〇五年に発足した「教科書フォーラム」が執筆した文字通り教科書の代案版だ。同フォーラムは、韓国社会の左傾化を憂い誕生した新保守勢力「ニューライト」系の知識人たちによって構成されており、教材の中身は金大中、盧武鉉両政権で目立つようになった教科書の偏向記述を是正することに主眼が置かれている。また軍事政権下の一九七〇年代以降から広がり始めた民族主義史観を修正する狙いもある。
例えば、大韓民国が建国された一九四八年八月十五日に関する記述を、左傾化教科書の代表ともいえるＫ出版社の「韓国近・現代史」（以下、Ｋ教科書）は「南韓（韓国）だけの政府が樹立されたのは、統一民族国家の樹立が失敗に終わったことを意味する」と、“未完の歴史”として強調しているのに対し、代案教科書では「解放の真の意味は、一九四八年に自由、人権、市場などの人類普遍の価値に立脚し、大韓民国が樹立されることで初めて確保された」と、高く評価した。
また北朝鮮の記述では、Ｋ教科書の「われわれ式社会主義と朝鮮民族第一主義で世界の変化に対応する一方、部分的な開放政策で経済的困難から抜け出すため努力している」に対し、代案教科書は「現在、北朝鮮体制を支える唯一の力は先軍政治の暴力だ。こうした暴力国家は長期的には続かない。北朝鮮体制の不安定は、韓半島のみならず北東アジア全体の平和に深刻な脅威になっている」。実に対照的である。
代案教科書は、韓国政府による過去十年間の太陽政策（対北包容政策）を「太陽政策が期待した北朝鮮の改革・開放は、いまだ実現していない」と批判し、二〇〇〇年の南北首脳会談についても「南北共同宣言第二項は、統一国家の理念的土台を明確にしなかったため、南韓内で深刻な体制論議を引き起こした」と踏み込んでいる。
このほか代案教科書は、植民地時代について「収奪と抵抗」という“暗”の部分を前面に出した従来の教科書とは異なり、この時代の“明”の部分も併記している。「抑圧と闘争の歴史のみだったわけではなく、近代文明を学習し、視察することで、近代国家を立てることができる社会的能力が厚く蓄積された時期だった」といった記述がそうだ。
現在、韓国の高校で使用されている韓国近・現代史の教科書は六種類。五年に一度改定される国の教育課程で教科書編集の指針が決まるが、現行教科書の指針は左派政権下で行われたことを反映してか、四種類が左派民族主義的な歴史観に貫かれているといわれる。このうち前述のＫ教科書の採択率は、〇四年時点で約５０％に達したという。
執筆に加わったソウル大学の李栄薫教授は「現場では深刻な影響が出ている」としながら次のように指摘する。
「ある調査では、８０％以上の高校生が大韓民国という国家がいつ樹立したのか知らなかった。建国という概念が頭にないからだが、国民が自分の国がどういう理念に基づいているのか知らないというのは極めて危険」
また北朝鮮観の形成について李教授は、「北朝鮮は反人権、全体主義の体制なのに、これまでの教科書は批判意識に欠けている。国際情勢の変化を受けて、韓国国民が南北問題でどういう政治的選択をするのか不安だ」と述べている。
代案教科書は市販前から反響を呼んでいる。保守派からは「待っていた」との声が上がった一方、左傾化教科書採択の先頭に立った全国教職員労働組合（全教組）や太陽政策支持の野党・統合民主党の議員などは逆に批判的で、一言で言うなら反応は両極端だ。
植民地時代の記述などを根拠に学界の一部から「日本の扶桑社が出した『新しい歴史教科書』の韓国版だ」といった非難も出たようだが、二十五日の記者会見で執筆陣の一人が「侵略を美化する部分はない」とこれを一蹴（いっしゅう）した。
いずれにせよ、今回の代案教科書が最近の歴史教科書の左傾化に一石を投じたのは確か。韓国では十年ぶりに保革政権が交代したこともあり、同フォーラムでは、代案教科書が現場でまずは補助教材として利用され、最終的には検定教科書の指針の参考になることを期待している。
http://www.worldtimes.co.jp/w/korea/korea2/kr080328.html
