『閉ざされた国ビルマ』(高文研)/宇田有三

2010-02-02 07:42:05 | 新刊・新譜情報
『閉ざされた国ビルマ』(高文研、1700円)
 
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 ビルマの現状を知っていただきたく、17年間の取材成果を
 まとめて見ました。
 本文に加え80点ほどの写真を入れております。
 
 ビルマを全く知らない初心者から、ビルマに関わりのある人まで
 を対象に書き上げました。
 
 以下、少々長くなりますが、あとがきから<一部抜粋>です。

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 私自身も最近、ビルマ入国のビザを取得することが難しく
 なってきた。
 もちろん、ヤンゴン市内ではデジタルカメラが普及し、
 わざわざ外国人が入って写真を撮る時代ではない。
 
 だが、自分が今、フォトジャーナリストとしてできることは何か。
 それは、外国人でしかできない関わり方でビルマの現場を歩き、
 撮り続けていくことであると思っている。
 
 一瞬を写す一枚の写真は、小さな力かも知れない。だが、
 写真複製が簡単なデジタル時代にあって、ビルマのある地域の
 何年何月何日に撮影したという時代の刻印を含んだ写真は、
 そこに写し込まれた画像の意味を容易に複製をすることは
 できない。

 そしてそれらの写真の中にビルマの人びとの暮らしのかけがえの
 なさを少しでも含んでいたなら、写真を見る人の心を動かすで
 あろう。
 私はそう信じたい。
 それこそが、わたしがビルマで写真を撮り続ける理由である。

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 ちょうど5日前、山に入った初日。護衛のカレン兵の一人が
 無線機を私の目の前に差し出した。ガーガーと騒音のような音を
 たてる無線機に、かすかに言葉が交じる声が聴き取れる。
 
 「ほら、ビルマ軍が交信しているんだよ。
 『今日、外国人がひとり入ったぞ』と。あなたのことだよ。
 さ、これから奴らに捕まらないように動かないと」

 山の中でしゃがみ込んだ私の前には、青々とした雑草が生い
 茂っていた。
 
 名の知らぬ長い葉の上で、名の知らぬ虫が動き回っている。
 伸びきった細長い葉の先に米粒ほどの虫が足を動かしている。
 地面にも名の知らぬ虫が、濁った色の小石や朽ちた枝の間を
 行き来している。

 もし、ビルマ国軍に見つかり捕らえられたらどうなるのだろうか。
 そう思うと、緊張と不安で胃の奥が収縮していた。
 過敏になった聴覚が、森の中に谺する虫の音や鳥の鳴き声を
 いつも以上に捉えて、頭の中でガンガン響く。
 
 5メートルほど離れたところで、緊張した顔を崩さない護衛の
 カレン軍兵士と目が合う。自動小銃を構えたまま中腰で微動だに
 せずである。
 
 人差し指を唇に当てて、静かに、と合図してくる。目と目で話を
 続ける。
 「動くな。音を立てるな。そのままでいろ」
 「あとどのくらい」
 「わからない」
 
 静寂の中、しゃがみ込んだ人間たちの息の音だけが不自然に
 伝わってくる。
 
 目の前20センチのところで我が物顔で動き回る虫の自由を
 羨ましく思う。
 
 無慈悲な人間の一足によって無残にも踏み殺されるかも知れない
 虫たちが、今は自由だ。
 
 風が吹く。
 ザワザワと葉が擦れ合う音がする。
 ああ来なければ良かった。
 追い詰められて本性が出た。
 だからこそ、帰るところのある我が身を却って忌々しく思った。
 
 まさに、その時、時間が止まっていた。恐怖におののいて、
 ただひたすらビルマ国軍が通り過ぎるのを願っていた。
 
 中途半端にしゃがみ込んだ姿勢で身体を踏ん張り続ける。
 目にしみ込む汗で涙が流れ出る。
 ぬぐってもぬぐっても流れ出る。
 
 緑の葉っぱの鮮やかさと虫の動きが今も忘れられない。
 そんな思いを胸にビルマを歩いてきた。
 町の中や村の中を、さらに山を越え密林を歩いてきた。
 
 だが、それ以上に、本当のところ、この間、ビルマの人びとの
 間を歩いてきた。
 
 そうやって歩きながらさまざまなビルマを目にし、写真に撮してきた。
 そして、今なら、あの老人に言える、自信を持って。
 日本の、ビルマに侵攻したあの時代の加害者としての戦争は
 間違っていたと。
 そして軍事政権下の戦争が何であるかを。 

 エルサルバドルの取材を終えてビルマに関わりはじめた時、
 「ビルマ軍事政権下で生きる人びとを撮る」というプロジェクトは
 数年で終わると思っていた。

 この間、次の訪問予定だったアフリカの軍政ナイジェリアは体制が
 変わってしまった。
 もちろん、それぞれの国は、軍事政権が終わったからといって問題が
 なくなったわけではない。
 
 やがて、ビルマに関わりはじめて思いがけないほどの年月が過ぎ
 去った。
 知らぬ間に自分の頭にも白いものが目立つようになってきた。
 
 そして今、日本に帰るたびに、日本の社会が徐々に、「少数者」を
 排除する社会に、ビルマのように自由にモノを言えない雰囲気に
 なっているような気がしてならない。
 
 ビルマを追いながら、日本の行く末も気になる。
 
 フリーランスの、しかも写真を中心としたフォトジャーナリストの
 仕事は厳しい時代の局面を迎えている。だが、ジャーナリストとしての
 仕事や写真家としての仕事は、社会や人に関わる限りその役目は
 消えることはないと信じている。

 時に意気消沈することがあるが、その時は、ビルマで出会った
 人びとを思い起こし、前を向いて行こうと思う。
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 どうぞ一人でも多くの人にビルマの現実を知って頂きたく
 連絡差し上げました。

 宇田有三


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