刑法と戦争
戦時治安法制のつくり方
内田博文
今の状況は昭和3(1928)年に似ている。
この年、議会制の下で「治安維持法」が改正され、以後、猛威をふるった。3年後に満州事変が勃発、「法の支配」が換骨奪胎され、日本は戦争に突き進んだ。
治安維持法によって、最初は無政府主義者と共産党員、次に労働組合・農民運動と宗教者、やがて反戦主義・民主主義・自由主義者まで処罰された。
「普通の人々」の「普段の生活」が取締りの対象になった。
刑法学者である著者は「歴史的なものの理論化」という法学の方法論によって、治安刑法の論理と運用に切り込んでいく。
戦時体制をつくるためには、軍法のほかに、戦時治安法・秘密保護法・国家総動員法等が必要になる。現在の日本が平時の治安政策から戦時の治安政策へと変化しているさまは、まるで戦前に学んだ設計図が存在するかのようだ。
第二次世界大戦時の残虐非道な行為の多くは、法令に基づいて行われた。
「量の民主主義」(多数決)は「悪法」をももたらす。
日本の違憲立法審査権・三審制・弁護権・裁判員制度は機能しているか。
「人間の尊厳」と少数者の権利とを守るための「質の民主主義」をどう立ち上げるのか。
戦時体制下では、人々が思いをデモや集会や出版物などを通して表現すること、訴えることができなくなる。
闘う武器が奪われるというのが、歴史の教訓である。昭和3年ならば別な選択肢があったように、今ならまだ引き返せる。
日本国憲法という武器と希望をもって。
目次
はじめに 「法の支配」の崩壊──昭和三年と現在
第一部 戦時体制下の国民と法
第一章 違憲立法審査権の重要性──「悪法」の制定と改悪を阻むために
第二章 個人から国家へ──法益侵害の変質
第三章 新しい「市民」概念の創出──市民と二級市民
第四章 「非国民」とは誰か──ハンセン病隔離政策の教訓
第五章 平成時代の「転向」政策
第六章 準戦時下の家族
第七章 裁判所の役割──拡大解釈、限定解釈論
第二部 治安法制の論理
第八章 重罰化──死刑大国・ジャパン
第九章 思想犯の厳罰化──治安維持法と民主主義・自由主義・反戦主義
第十章 「秘密」をめぐる罪──特定秘密保護法の未来
第十一章 儀式化する刑事裁判
第十二章 裁判(官)統制──上訴の制限と三審制の解体
第十三章 司法改革という名の換骨奪胎
第十四章 弁護士の独立と弁護権の制限
おわりに 「人間の尊厳」が法規範化されてきた道のり
http://www.msz.co.jp/book/detail/07957.html
戦後の刑法改革は不徹底で、根幹は戦前のままである。
さらに、戦争遂行にあたり治安強化を図るため、検察官に与えられた強い権限は、戦後の新刑事訴訟法にも移植された。
裁判官より検察官が権限をもち、検察官が裁判を事実上主導する状態は、無罪率の低さや令状却下率の低さを見れば、今も続いている。
「国家は意図的に『非国民』を作り出し」、「社会での居場所そのものを奪い」、国民全体を威嚇することもある。
ハンセン病患者は「兵士の健康を損な」う「非国民」として扱われ、彼らへの裁判も差別に満ちていた。
隔離体制は戦後、治療法が確立しても長く維持された。
戦時治安法制のつくり方
内田博文
今の状況は昭和3(1928)年に似ている。
この年、議会制の下で「治安維持法」が改正され、以後、猛威をふるった。3年後に満州事変が勃発、「法の支配」が換骨奪胎され、日本は戦争に突き進んだ。
治安維持法によって、最初は無政府主義者と共産党員、次に労働組合・農民運動と宗教者、やがて反戦主義・民主主義・自由主義者まで処罰された。
「普通の人々」の「普段の生活」が取締りの対象になった。
刑法学者である著者は「歴史的なものの理論化」という法学の方法論によって、治安刑法の論理と運用に切り込んでいく。
戦時体制をつくるためには、軍法のほかに、戦時治安法・秘密保護法・国家総動員法等が必要になる。現在の日本が平時の治安政策から戦時の治安政策へと変化しているさまは、まるで戦前に学んだ設計図が存在するかのようだ。
第二次世界大戦時の残虐非道な行為の多くは、法令に基づいて行われた。
「量の民主主義」(多数決)は「悪法」をももたらす。
日本の違憲立法審査権・三審制・弁護権・裁判員制度は機能しているか。
「人間の尊厳」と少数者の権利とを守るための「質の民主主義」をどう立ち上げるのか。
戦時体制下では、人々が思いをデモや集会や出版物などを通して表現すること、訴えることができなくなる。
闘う武器が奪われるというのが、歴史の教訓である。昭和3年ならば別な選択肢があったように、今ならまだ引き返せる。
日本国憲法という武器と希望をもって。
目次
はじめに 「法の支配」の崩壊──昭和三年と現在
第一部 戦時体制下の国民と法
第一章 違憲立法審査権の重要性──「悪法」の制定と改悪を阻むために
第二章 個人から国家へ──法益侵害の変質
第三章 新しい「市民」概念の創出──市民と二級市民
第四章 「非国民」とは誰か──ハンセン病隔離政策の教訓
第五章 平成時代の「転向」政策
第六章 準戦時下の家族
第七章 裁判所の役割──拡大解釈、限定解釈論
第二部 治安法制の論理
第八章 重罰化──死刑大国・ジャパン
第九章 思想犯の厳罰化──治安維持法と民主主義・自由主義・反戦主義
第十章 「秘密」をめぐる罪──特定秘密保護法の未来
第十一章 儀式化する刑事裁判
第十二章 裁判(官)統制──上訴の制限と三審制の解体
第十三章 司法改革という名の換骨奪胎
第十四章 弁護士の独立と弁護権の制限
おわりに 「人間の尊厳」が法規範化されてきた道のり
http://www.msz.co.jp/book/detail/07957.html
戦後の刑法改革は不徹底で、根幹は戦前のままである。
さらに、戦争遂行にあたり治安強化を図るため、検察官に与えられた強い権限は、戦後の新刑事訴訟法にも移植された。
裁判官より検察官が権限をもち、検察官が裁判を事実上主導する状態は、無罪率の低さや令状却下率の低さを見れば、今も続いている。
「国家は意図的に『非国民』を作り出し」、「社会での居場所そのものを奪い」、国民全体を威嚇することもある。
ハンセン病患者は「兵士の健康を損な」う「非国民」として扱われ、彼らへの裁判も差別に満ちていた。
隔離体制は戦後、治療法が確立しても長く維持された。