権赫泰さん(韓国・聖公会大学日本学科教授)の見た日本の反原発運動/東本高志さんから

2013-10-11 02:29:04 | 世界
CMLから
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以下は、京都大学新聞(2013年4月16日号、同5月16日号)に掲載された権赫泰さん(韓国・聖公会大学日本学科教授)の「現代日本の『右傾化』と『平和主義』 について」と題されたインタビュー記事の「共同体主義に走る反原発運動」の節の抜出です。
権さんのインタビュー記事での指摘はいまの日本の総体としての反原発運動が見失っている(あるいは置き忘れている)視点を指摘していて鋭いものがあると私は思います。
日本のいまの反原発運動を再考するためにも(「再考する必要がある」と私も強く思っていますが)必見の文章だと思います。
しばらく、権さんの指摘に耳を澄ませていただきたいと思います。
なお、同インタビュー記事の前編、後篇の全文は以下をご参照ください。

■権赫泰 韓国・聖公会大学教授インタビュー ―― 「現代日本の 「右傾化」と「平和主義」 について」(前編)
(京都大学新聞 2013.04.16)
http://www.kyoto-up.org/archives/1779

■権赫泰 韓国・聖公会大学教授インタビュー ―― 「現代日本の 「右傾化」と「平和主義」 について」(後編)
(京都大学新聞 2013.05.16)
http://www.kyoto-up.org/archives/1811

 *権赫泰さんのお名前を私がはじめて認識したのは、「〈佐藤優現象〉と金光翔 ――日本の進歩派に対する金光翔の問い」(韓国のインターネット新聞「プレシアン」2008年2月27日)という論攷の日本語訳によってでした。

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・共同体主義に走る反原発運動

―日本国内では震災・原発事故という全社会的な危機があった。
その後、反原発運動を中心に社会運動が盛り上がってもいる。
しかしそれが新しいかたちでの国家主義、たんなる戦後日本社会礼賛になる危険性も極めて一部からではあるが指摘されています(※16)。
ここで指摘されている日本左派の「変質」について韓国では知られているのでしょうか。

知られていない。僕が言っているだけ。

―そうなんですか(笑)

この前講演会をやった時も同じことを言ったのだけれど、つまり日本の反原発運動を過大評価するなというのが、その講演会でのテーマだったのだけれどもね。
(僕は)どこに行ってもひとりですよ。
だから京都大学新聞社から連絡が来たときにビックリしました。

韓国でももちろん原発問題以外にも歴史問題などありますけどね、韓国ではこういう感じです。韓国でも原発なくさなきゃいけな
いじゃないですか。20基以上あるんですよね、日本は50基以上だけれど。で、なくすためにどうしたらいいのかと、でも関心が
ない。こういった場合、分かりやすいのは先進国で原発をなくしているという情報がすごく大事なの。

―ドイツですとか…。

そう。で、隣りでは日本がなくしている、なくしつつあると(笑)。
実際はそうじゃなくて、そういう情報が欲しいわけ。
だから、韓国の反原発運動やっている連中は、日本で起こっている情報を、僕に言わせればすごくウソついている。

―特定の側面だけを…。

ええ。それが気に入らなくて、「違うよ」というのを書いているのだけど、そうすると「あなたは原発賛成なんですか」ということになっちゃうわけ。
そういう意味じゃないのに。
でどういうことかというと、原発、3・11の問題は3つの視点があるとよく言っています。
ひとつは日本の問題。
ひとつは科学面の問題、もう一つは地域的な問題。
いわゆる反原発をやっている人は科学的な問題や地域的な問題でもって、日本の問題とはみようとしない。
日本も原発なくしているんで韓国もそうしましょうと。
そういう方向が日本で決まっているように言うわけ。
10万人集まったと。それで柄谷行人というなぜか韓国で大人気なんだけど、彼がデモの現場に行った。
日本は10万人もデモンストレーションに集まったのだから、すぐに原発が無くなるだろうと。
ウソばっかり言っている。

―全然ちがいますね。

僕が繰り返し言っているのは、3・11以降に多くの地方選挙があった。
そこで反原発を訴えた候補が当選したためしがない、全部落ちちゃった。
原発を支持するものだけが当選した。
これをどう捉えるか。
10万人集まってもしょうがないんじゃないか。
だからどっちをみるかということ、それが一つ。
つまり逆に世論調査をみていると、原発反対の世論がたくさんいるにもかかわらず選挙になるとぼろ負け。
これを何らかのかたちで分析することがすごい大事だと思う。

もうひとつ別の問題であるのは、原発問題、核問題というのは複雑で、広島・長崎・ビキニ・福島といった場合、4回も起きましたから、被爆者にはあまりないんだけれど、おかしいことに日本社会では「被害者としての選民意識」というのがあるわけ。
世界で唯一日本が持っている平和を主体とした日本国民。
良く考えてみると広島平和公園も長崎平和公園もそうなのだけれど、空襲を受けた他の地域、沢山ありますよね、に比べてなぜ広島長崎に沢山お金をつぎ込んだのか。
そうすると、原爆被害と空襲被害が違うということを説明しなくちゃなんない。
特別にお金沢山もらわなきゃならないのだから。
それで広島は原爆死と空襲死を区別する視点をもちだすわけ。
そうすると、一般の爆弾と原爆は違うことが強調される。

常に原爆と一般の戦争被害を区別することによって広島長崎の歴史的伝承が可能になって来たわけ。
それは都合のいいことに、それによって戦争が終わっちゃった。
そうすると1945年8月6日以前と6日の出来事を切り離すことが出来る。
また違う、第二次世界大戦と広島が違う視点でとらえられる。
もちろん広島・長崎への原爆投下が戦争を早期に集結させるためだったとするアメリカの言い分はうそで来る冷戦への布石だと思いますが。

最近反原発デモを見ていて感じるのは、それはそれとして良いのだけど、右の人も大分入っているじゃないですか。
西部邁なんかもいるし。
つまりあらゆるこれまでの争点の上に、反原発が乗っかっているという。
そうすると、百歩譲って反原発に成功してもね、全ての政治的争点というのは解決しないわけですよ。

デモする社会になって反原発成し遂げても、歴史的な問題、憲法問題それはどこに行くか分からなくなっちゃう。
しかもエネルギーが全部そこに吸収されちゃいますので。
それで僕は常に、反原発が今の観点で捉えるならば、当然そこには朝鮮高校無償化の問題なりね、そういうのも全部含めてやらなきゃなんないんだって。
そこに「変な奴等」が入ってくるのなら排除しなければならないんだって言っているわけ。
なんか反原発主義一本(※17)でやっていくとこれはどうなるか怖い。

―今のお話をお聞きして、反原発のみならず「在特会」に反対する社会運動での「左右連帯」を想起しました。
この場合も、在特会が主張しているような根本の問題は解決しないどころか温存されてしまう。

ショックだったよ。日の丸が出てきたりねえ。

それで反原発を勝ち取ったらまだ「マシ」なんだけれども。

そういう感じはありますね。
しかもね、原発運動というのは、基本的にエコロジーですから一歩間違っちゃうと、生態主義、天皇主義とくっつく可能性がすごく高いね。
ロジックとして。そもそも気をつけなくてはいけない。
つまり「天皇様から譲り受けたこれだけ綺麗な国土を、西洋白人どもが持ってきた原発によって汚れちゃたまんない」という、実際そういう内容がありますから。
しかも日本人共同主義みたいになっちゃて…。

見ていてね、まあ原発無くなってくれればいいのだけれど、ただ見ていて良いのかな?という心配。であらゆる政治的争点は全
部どっか吹っ飛んじゃって。

・右傾化の防波堤は海外だけ?

―日本社会は今後どう変化していくと考えていますか。

日本の民主党に政権交代したときには、韓国の新聞に頼まれて「民主党は自民党と変わらない。余り期待するな」ということを書いたらボツになったの。
結果的にそうなったのだから僕の予測通り。
だから、いま日本がどうなるかというのは、一つ大きな枠で予測するんだったら、一言で尽きると思う。
「政党体制流動化」つまり当分の間ずっとこういう離合集散みたいな感じの傾向が強くなるんじゃないかな。
それがひとつ。
ただ、どこの政党が政権を握っても基本的な流れは変わらないだろうという。

つまり言って見れば右傾化の流れというのは変わらないだろうと。

ただね、ひとつ憲法改正までもっていくのかなということに関しては僕はちょっと疑問。
つまり、明文改正というのは意味がない。
すごく無理しなくちゃいけないんですよね。
政治的にいえば。
そうすると、明文改正じゃなくてもいろんな方法がありますから、既にもうやりたいことは全部やっているんじゃない。
もし法的根拠がないなら自衛隊ごと、最近出て来た日本版安全保障基本法(※18)みたいに法律でもって補うとかね。
ただ憲法改正のための基本的な手続きの法律を定めるとか、そういうのはあると思うんだけど、一気にね、公明党との関係も考えると明文改憲までもっていくのかなと。
僕が権力者だったらそこまでやらなくても、もうやりたいことは出来るのだから、誤魔化しがきくのだからなあと。

明文改憲までもっていくと、政党レベルだけではなくて国民投票もあるので国民的な抵抗というのが間違いなく出てくる。
相当コストかかりますし、結果は分からない。
そうすると、そこまでやる必要あるのかな。

 ―今日のお話でもすでに触れられているとおり、日本では昨年12月に民主党から自民党に政権が戻り、そこで岸信介を祖父に持つ安倍晋三氏が首相に返り咲きました。
他方で韓国でも大統領選の結果、朴正煕(ぱく・ちょんひ)を父に持つ朴槿恵(ぱく・くね)政権が誕生しました。
日韓関係はかつての「反共」のかけ声の下保守政権同士が癒着した時代に戻ったかのような感があるいっぽうで、韓国社会の意識は民主化を経て大きく変わっている。
朴槿恵政権下で韓国はどのような対日政策をとられると思われますか。

日本も韓国も似たような状況があると思う。
つまり、朴槿恵も安倍も領土問題、歴史問題をめぐってはお互い刺激しない方が良いわけ。
ただ、朴槿恵政権は刺激しなくてもいいような政治的な条件にあります。
なぜかというと5年安泰だから。独島問題を日本が刺激しなければ別に何も言わなくてもいいわけです。
歴史認識問題もそう。
ただ安倍は言わない方が良いと分かってはいるわけです。
でも7月に選挙がありますし、これまで勇ましい格好をしてきたので、何らかのかたちで言わざるを得ない。
ただ言ったときに、朴槿恵政権なり中国がどう反応するかがすごく大事なんですよね。
ただこれが生ぬるいと、安倍がどうするかに関係なく右派が何らかの動きに出てくる(※19)と思う。
多分韓国との関係では島根県の海辺で独島竹島に上陸船を出そうと祭りみたいに大騒ぎするとか。

お互いの物理的な対立がどんどん大きくなると、中間派も結集して選挙でも勝ちやすくなるだろうしね。
ただ、そうすると憲法改正にあたっての韓国側の協力というのが得られないわけ。
つまりその段階は、いわゆる明文改正しなくてもいいような状況。
だから、お互い基本的に領土、歴史認識問題は触れないことにしていると思う。
できるだけ。ただ韓国側はこれまで盧武鉉(の・むひょん)からずっと見ているといつも出来るだけ触れないようにしている。
なぜかというと、言ったところで意味がないのだから。
ただ日本側は何か言う。
言うと反応せざるを得ない。
これでいつもこじれてきちゃったので、今回もね、朴槿恵は絶対言わないと思う。
ただ安倍がねえ。
7月選挙でしょう、安倍が直接言わなくても何かやるだろうね。

―今日のインタビューを通して、日本社会内部においては思想の「左右」が溶け合い反戦や反差別についての実質的な対立軸が失われている、そして実質的に韓国なり中国が日本の政権に対する野党勢力の役割を果たしているように感じました。

だから、国内の政党なりがしっかりやってくれないと、攻撃の対象が全部韓国・中国人になっちゃうわけ。
日本の左翼政党がだらしないんで全部が日本人と韓国・中国人の人種対立みたいになっちゃうわけ。
変な構図ですよ。
だからいつも北朝鮮と関係を正常化しようということを日本の学者が言うと、すぐに「あいつは朝鮮人だ」ということになっちゃうわけね。

昔、田中均に対する攻撃もそうだったし、だからなんか「和解平和」をいうと、全部朝鮮・中国人になっちゃう。
この変な構図をどうするのか。
なんかそれが20年前の日本社会で考えるとあり得ない。
「平和と民主主義」のもとでつくられた戦後日本社会の資産はどこにあるのか。
最近ね、僕は日本に対する視点がこれまでずっと批判的だったんだけれど、それでも最近見ていると、僕の予想以上に速くダメになってきたんで、悲しいですよ、
本当に。
怖いし。軍事化、民主主義の後退、生活水準の低下、日本で生活している人が不幸になることじゃないですか、結局。韓国も似たような状況になりつつあるけれど。

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(※16)(※17)2011年3月12日の福島原発事故を機に、日本社会では脱原発を政府・電力会社に求める社会運動が活発化した。
昨年3月から毎週金曜日の夜に首相官邸前で行われている抗議行動(官邸前デモ)は、政府が全ての原発が稼働停止している状況を打破するべく大飯原発の再稼働方針を表明した6月以降参加者が急増。ピーク時の6月29日には約20万人(主催者発表)が路上を埋め尽くした。

官邸前デモが典型的な例だが、福島事故後の脱原発デモでは、「みんなが参加しやすいように」との理由から、労働組合や市民運動の団体旗持ち込み禁止、「脱原発以外の事柄」についてのアピール禁止、脱原発で一致するなら「統一義勇軍」など右翼団体も受け入れるといった「シングルイシュー主義」が徹底される傾向があった。
小熊英二や五野井郁夫ら多くの識者がそうした「普通の人たちによる新しい社会運動」を肯定的にとらえる一方で、一部の参加者からは異議も上がった。
また官邸前デモでは「日の丸」のみ持ち込みが容認されたことも一部で議論となった。
「日の丸のみ容認」の理由について主催団体の首都圏反原発連合は、「日の丸は「特定の政治団体や政治的テーマに関する旗やのぼり 、プラカード等」とみなしていない」と表明している。

この間の脱原発運動に関する疑問を提起した文章としては、太田昌国「「日本人の統一」を呼号するのではなく「論争ある分岐を」」『反天皇制運動 カーニバル』1号(通巻344号、2013年4月16日発行)(ウェブで観覧可能、URLは下記)、目取真俊・辛淑玉対談「在日・沖縄から見た原発事故とオスプレイ配備」『労働情報』847号(2012年9月15日号)がある。

太田昌国「「日本人の統一」を呼号するのではなく「論争ある分岐を」」
URL:http://www.jca.apc.org/gendai_blog/wordpress/?p=343


権赫泰(권혁태、クォン・ヒョクテ)
1959年生。高麗大学史学科を経て日本・一橋大学で経済学博士学位(日本経済史)を取得した。
山口大学教授を経て2000年から聖公会大学日本学科教授として在職中である。
著書に『日本の不安を読む』(2010年未邦訳)など。日本語論文は「日韓関係と「連帯」の問題」『現代思想』2005年6月号(青土社)、「9条の 世界的意味を探る」『世界』2007年10月号(岩波書店)ほか。
韓国紙ハンギョレ21にて「クォンヒョクテのもう一つの日本」を連載中。
なお、「日本の進歩に問う 権赫泰の日本を読む(1) 〈佐藤優現象〉と金光翔 ――日本の進歩派に対する金光翔の問い」(韓国のインターネット新聞「プレシアン」2008年2月27日)の日本語訳は以下で読むことができる。
http://watashinim.exblog.jp/7452726/

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東本高志@大分
higashimoto.takashi@khaki.plala.or.jp
http://mizukith.blog91.fc2.com/

*ぜひ全文をお読みください
■権赫泰 韓国・聖公会大学教授インタビュー ―― 「現代日本の 「右傾化」と「平和主義」 について」(前編)
(京都大学新聞 2013.04.16)
http://www.kyoto-up.org/archives/1779
■権赫泰 韓国・聖公会大学教授インタビュー ―― 「現代日本の 「右傾化」と「平和主義」 について」(後編)
(京都大学新聞 2013.05.16)
http://www.kyoto-up.org/archives/1811



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