窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

社内の対立・紛争を前進に変えるー第117回YMS

2020年02月20日 | YMS情報


  2月12日、mass×mass関内フューチャーセンターにて、第117回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。



  今回の講師は、僕が日本交渉協会で普段お世話になっている、コンサルタントの向展弘さん。「社内の対立・紛争を前進に変える」と題し、交渉学とも非常に共通点の多いコンフリクト・マネジメントの入門についてお話しいただきました。

  経営学者のチェスター・バーナードは、組織の成立要件として、

1.共通目的
2.貢献意欲
3.コミュニケーション

を挙げました。しかし、たとえ共通目的や貢献意欲を持っていたとしても、人の認識にはそれぞれ差異があるので、組織を形成すれば多かれ少なかれ対立(コンフリクト)が生じ得ます。コンフリクト・マネジメントとは、そのような対立が生じた場合に、それを放置せず積極的に問題解決を図ろうとする取り組みのことを言います。



  さて、初めにアイスブレイクとして「国境を超えろ!」という、コンフリクト・マネジメントでは有名なワークを行いました。ワークは次のようなものです。

「あなたと友人Aさんの間に国境線があると想像してください。国境線の内側はそれぞれの領土です。課題は『2分以内に対面する相手を自分の領土に入れること』です。さあ、どうしますか?」
引用:『人と組織を強くする交渉力〔第3版〕 (あらゆる紛争をWin-Winで解決する協調的交渉術)』

  このワークがコンフリクト・マネジメントのイントロとしてよく取り上げられるのは、対立を解決するために人がとると考えられる5つの解決方法を理解するのに好適だからです。


(上の写真をクリックすると拡大します)


  この5つの解決方法は、1976年に心理学者のケネス・W・トーマスとラルフ・H・キルマンが分類したもので、「二重関心モデル」と呼ばれます(上図)。つまり、人は「自分への配慮」と「相手への配慮」という二軸の観点から、「協調」、「強制」、「妥協」、「服従」、「回避」の手法を使い分けているというのです。この5つの解決法を先ほどの「国境を超えろ!」に当てはめますと、

回避:お互い相手の説得を試みるも時間切れになる、あるいは交渉をしない(lose-lose)。
服従:一方が、相手に従って境界線を跨ぐ(win-lose)
妥協:双方譲り合い、片足だけ境界線を跨ぐ(lose-lose)
強制:お互いに相手を自分の領域に引き込もうとする(win-lose)
協調:話し合って、双方が同時に相手の領域に入る(win-win)

というようになります。つまり、5つの解決法のうち「協調」だけが互いに得をする、いわゆる「win-win」につながることが分かります。しかし、双方同時に相手の領域に入るには、まず「自分も境界を跨いで構わないのだ」と思考の枠を広げられる「発想の転換」(リフレーミング)、話し合って合意する「コミュニケーション」、約束を履行する「信頼」の3条件が必要であることが分かります。因みに、対立の解決法として、常に「協調」が正しく、その他が誤っているという訳ではありません。対立が起きているコンテクストによっては、「回避」や「強制」が望ましい場合もあるという点に注意が必要です。

  ところで、交渉学では「服従」、「妥協」、「強制」のように、「自分」と「相手」のいずれかの配慮に偏る交渉を「分配型交渉」、「協調」のように、「自分」と「相手」のどちらにも配慮し、双方が満足する価値を創造する交渉を「統合型交渉」と呼んでいます。この「分配型交渉」と「統合型交渉」を直観的に理解するために、交渉学で必ずと言っていいほど採り上げられる、「オレンジをめぐる姉妹の交渉」があります。

「ある姉妹が、1個のオレンジをめぐって争っていました。お母さんが仲裁に入りますが、互いに譲ろうとしません。あなたがお母さんの立場だったとしたら、どのように解決しますか?」

 これを先ほどの「二重関心モデル」に当てはめてみましょう。もちろん、解決策は他にも考えられると思います。

回避:双方譲らず。
服従:どちらかを一方的に我慢させる(「お姉ちゃんなんだから」、「妹なんだから」)
妥協:お姉ちゃんにカットさせ、妹に欲しい方をとらせる
強制:母親が仲裁案を強制する(「今回は妹に譲り、次はお姉ちゃんに譲りなさい」)

  これらのいずれの解決策も決まった大きさの価値を分配しているだけなので、当事者の満足度は下がります。分配型交渉にはこのような性質があります。最後の、双方が「win-win」となる「協調」について考えてみましょう。先ほど、「協調」の解決法には「リフレーミング」、「コミュニケーション」、「信頼」の3条件が必要であると述べました。そこでお母さんは、姉妹にオレンジを手に入れてどうしたのか質問しました。すると、姉はマーマレードを作るために皮が欲しいと思っており、妹はジュースを作るために実だけが欲しいと思っていることが分かりました(コミュニケーション)。そうであれば、オレンジ1個をどうするかではなく、姉には皮だけ、妹には実だけあげればよいということが分かります(リフレーミング)。この仲裁案に、お母さんのいうことなので、双方が納得しました(信頼)。そして、どちらも満足する解決となったのです。

  オレンジ1個であることに変わりありませんが、「1個のオレンジをどこで分配するか」という発想にとらわれていれば、得られるオレンジは最大で半分、つまり満足度は50%ということになります。決まった大きさの価値を分配しているので、これは「分配型交渉」です。これに対し、「皮と実を分ける」と発想を転換したことによって、満足度は100%になりました。つまり、倍の価値を創造したことになります。これが「統合型交渉」です。

  「二重関心モデル」が「自分」と「相手」の二軸で考えたように、統合型交渉も「自分のニーズ」と「相手のニーズ」というように複数の軸で考えることが必要です。軸が複数あるということは、そこに利害の対立があるということでもあります。つまり、コンフリクトそのものは、双方がより得をする「価値創造のための母胎であると言うことができ、必ずしも忌避すべきものではないのです。

  さて、コンフリクトを生み出す要因は、上記のような立場(例:「オレンジが欲しい」)やニーズ(例:「皮が欲しい」、「実が欲しい」)だけではありません。物事を捉える認知の違いや感情のズレもコンフリクトの要因となります。むしろ認知や感情の相違の方が対立の原因としては多いかもしれません。


出典:https://matome.naver.jp/odai/2142589139748345701

  認知については、ゲシュタルト心理学の有名なだまし絵に上のようなものがあります。これが若い女性に見えるという人もいれば、老婆に見えるという人、あるいは猫がいるようにしか見えないという人、全て見えるという人等々、見る人により様々な答えが返ってきます。つまり、人の認知はそれそれであるということです。にもかかわらず、人は自分の認知こそが正しいと思うので、対立が起こるという訳です。「事実と解釈は異なる」ということを我々は理解しておくことが大切です。

  まとめるとコンフリクト・マネジメントにおいても、交渉においても、「相違や対立は価値創造の母胎でありうること」、「対立(交渉)する相手は、敵ではなく問題解決のためのパートナーであること」、「人の認知はそれぞれ異なるということ」を理解しておくことが重要だということです。組織にコンフリクトは避けられませんが、このことを理解しておけば、それを利用して逆に組織を強くすることさえできます。コンフリクトが組織を崩壊させるか、強くするか。我々の認識と行動次第だという言えそうですね。

  次回、第118回YMS(3月11日)は開催会場が通常と異なりますので、FBでの告知にご注意ください。

過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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