窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

SDG’sで何をしたいのか?-第123回YMS

2021年02月16日 | YMS情報


 2月10日、mass×mass関内フューチャーセンターにて、第123回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。前月に続き、今回も開始時間の繰り上げ、懇親会中止としました。



 さて、今回の講師は株式会社大川印刷の大川哲郎様。私も含め、YMSの何人かのメンバーは長年お付き合いさせていただいており、11年目にして初登壇というのが不思議なほどでした。

 今や環境への先進的取り組みで地元横浜は元より、全国に知られる大川印刷さんですが、印刷業としての歴史も古く、日本の活版印刷の黎明期(1848年、本木昌造がオランダから導入)、1881年の創業で、今年140周年を迎えられます。高峰譲吉の「タカヂアスターゼ」(消化剤)のラベルや、恩田栄次郎の『開国小史』の印刷を手掛けるなど、教科書に載っているような出来事との関りがその歴史を感じさせます。

 今回のテーマは、「大川印刷におけるSDG’sの取り組み」。SDG’s(持続可能な開発目標)が何かについてはここでは採り上げませんが(リンクの外務省のページをご覧ください)、大川印刷さんは2015年に国連でSDG’sが採択されるはるか以前からCSR(企業の社会的責任)や環境経営に取り組まれ、2004年には自社の存在意義を「ソーシャルプリンティングカンパニー©(社会的印刷会社)」と位置づけ、2019年には再生エネルギー100%を達成。「CO2ゼロ印刷」(いわゆる「風と太陽で刷る印刷」)を展開する日本でただ一つの印刷会社となっています。

 大川さんが社会改良への意識に目覚めたきっかけは、18歳で父親を医療事故で亡くされ、どちらかといえば世を拗ねた態度で見ていた学生時代に、訪れたアメリカで差別と貧困の中でも明るく生きる黒人のコミュニティと黒人音楽であるブルースに触れたことにあったようです。ブルースの名曲を数多く生み出した、ウィリー・ディクソンの言葉、

"The blues are the roots, everything else is the fruits."
(ブルースは根っこ、その他の全ては果実)

大川さんは言います、「印刷は根っこ、その他(生み出される成果物)すべては果実に過ぎない」。だからこそ、CSRやSDG’sは「本業とは別の取り組み」ではなく、「本業でいかに社会問題を解決するか」というのが本義だと。

【ビリー・ホリデー『奇妙な果実』の背筋も凍るような歌詞】


 例えば、「SDG’sとは何か?」にどっぷり浸かり、SDG’sの要件をいかに完璧に満たすかに血道を上げる人がいます。しかし、中小企業の経営者にそんなことが必要か?また経営者だけが夢中になっている、逆に従業員や外部の事業者に任せきりという経営者もいます。CSRと呼ぼうと、SDG’sと呼ぼうと、身の丈に合ったことを会社全員で、凡事徹底が大事だということです。また、注意したいのは、現在既にやっていることの中からSDG’sの要件に適合することを拾い上げて満足するのではなく、あるべき未来の姿から逆算して現在の施策を考える(backcasting)という発想が大事だということ。大川印刷さんでは、毎年「社内パートナーシップSDG’s経営計画」づくりを90分×4日に渡って全社員で行い(その間は当然操業が止まります)、

1. 上手くいっていることは何か?
2. 上手くいっていないことは何か?
3. やってみたことは何か?

を話し合うそうです。特に日本人は過去からの積み上げ(forecasting)は得意だが、このbackcastingが苦手な傾向にあるとのこと。

 そんな大川印刷さんも、取り組みの始まりは売上減少、従業員の士気低下、採用難、定着率の悪さといった、多くの中小企業が抱えている課題からでした。そのような現実を突きつけられている中で、ある会社社長からもらった言葉、

「明日、あなたの会社がなくなったら、あなたのお客さんは本当に困りますか?」

まるで1946年の映画『素晴らしき哉、人生』のようです。

 さらに、地元神奈川県で障碍者雇用の先進的取り組みで知られる日本理化学工業の故・大山泰弘氏がお坊さんから聞いたという言葉、

「人に愛されること、人に褒められること、人の役に立つこと、人から必要とされること。この四つが人間の究極の幸せである」

この内、「愛されること以外の3つの幸せは、全て働くことによって得られる幸せだったのです。尤も、一生懸命働いていれば、愛してくれる人にも出会えるかもしれませんが」と大山氏はおっしゃったそうです。

 また、社内に残っていた明治24年(1891年)の「横浜貿易新聞」に掲載された広告、そこに次のような文言が書かれていました、

「いたずらに価格のみの競争をせざるは」
「総て確実をもって江湖(世間一般を指す言葉)諸君に信用あるは」

つまり、130年前の創業者たちも考えていることは同じだったというわけです。

 以来、大川印刷さんの使命は、①仕事を通じて一つでも多くの「しあわせ」を創出すること、②横浜・日本の印刷の歴史・文化を内外に発信、伝えていくこと、の二つだということです。

 本業を通じた社会問題解決への取り組みは、人財登用、メンタル面のプラス効果、エシカルな世代への訴求効果、社会的信用など様々な良い効果を生み出しているようです。大川さんは「仕事と遊び(やりたいこと・自己実現)は同じだ」と強調します。また、「文句を言っても意味がない、大事なのは種を蒔き続けることだ」と。その30年近く種を蒔き、育て続けてきた結果が大川印刷さんを唯一無二の会社にしているのでしょう。今こうして我々が見ている大川印刷さんのように。

過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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