窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

人生を変え、組織を変え、地域を変えるキャリアツーリズム®ー第168回YMS

2024年09月12日 | YMS情報


 9月11日、NATULUCK関内セルテ 801にて、第166回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回は、株式会社せんのみなと 代表取締役社長 高崎澄香様より、「非日常の体験で人生を変える『キャリアツーリズム®』」と題してお話しいただきました。



 僕が「キャリアツーリズム®」について初めて聞いたのは、昨年3月にZOOMでの勉強会でお話しさせていただいた時です。その時参加されていた、同社共同代表の長嶺将也さんに「ぜひYMSでお話を」とお願いしたのが同年6月、それから1年3ヶ月を経てようやく実現の運びとなりました(YMSは大抵1年先までの講師が確定しているため、どうしてもお待たせしてしまうことになってしまいます)。遠く、千葉県香取市からお越しいただきありがとうございます(Googleマップで調べたところ、「せんのみなと」さんが出てきました)



 さて、高崎さんは2021年に千葉県香取市で株式会社せんのみなとを創業。築100年の古民家を改装し、「泊れるキャリア相談所」として活用されています。元々人材紹介会社でコンサルタントをされていた高崎さん、コロナ禍で恐らくメンタルの面で休職していく人が相次ぐ状況の中、「遊びながら、事業しながら、社会に役立つ」、人間らしい生き方、人間らしい世界を目指し、古民家から組織コンサルティング、キャリア支援、キャリアツーリズム®の研究・推進を行っておられます。

 そんなお二人は、会社のパーパス、『体験と会話で生業の可能性を拡げ「ここにいて良かった」と誇れる人・社会を共創すること』を非常に大切にされています。オンライン上とはいえ、僕が長嶺さんとお会いしたのも、自分のパーパス、企業のパーパスについて考える勉強会、「実践型パーパス経営ラボ」においてでした。このパーパスがどういうことなのか、後のお話で明らかになります。

 まず、「キャリアツーリズム®」に先立ち、なぜ都会から離れた古民家に宿泊して自身のキャリアについて考えるのか?ということについてですが、「日常から離れること」に大きな意味があります。非日常的な空間に身を置き、リラックスした環境で、時にはお酒を酌み交わしながら対話する。そうすることで、日常の思考の枠組みを外れ、より深く自己を見つめたり、環境のとらえ方が転換したりすることが期待できます。

 もう一つ、「キャリアツーリズム®」に連なる大きな出来事として、2022年に、「キャリア相談だけで日本一周できるか?」という、広報を兼ねたプロジェクトを実施されたそうです。それも相談料は任意の物々交換で。それこそ缶コーヒー1本という方もいらっしゃれば、数万円という方もいたそうです。この各地を回ったことが、全国の地域事業者とコミュニティづくりを推進するきっかけとなりました。

 いよいよ、「キャリアツーリズム®」についてのお話です。そもそも人はなぜ旅をするのか、その動機や目的はそれこそ十人十色の多様な価値観があると思いますが、キャリアツーリズム®は「旅」が持つ性質を利用して、「自身でキャリアを切り拓く力を身に着けること」を目的としています。キャリア相談に旅を結びつけることで、例えば次のようなことが期待できます。

1. 物理的な移動…一言でいえば「気分転換」ですが、日常から離れた環境に身を置くことは、精神的にリフレッシュすることが分かっており、これを「転地効果」と言います。リラックスした環境に身を置くことで、普段気づかなかった本音が浮かび上がってくることがあります。僕も閃きやパラダイムシフトは、海外出張した先のホテルで起こることが多かった気がします。
2. 第三者との対話…キャリアツーリズム®では、旅先で出会う、バックグラウンドの全く異なる第三者と対話することになります。そこでは、第三者からの「問い」を通じて自己理解を深め、潜在意識下に眠っていた価値観などを顕在化していきます。例えば、都会に暮らす農業とは全く縁のない相談者が、農家の人から発せられる予想外の切り口からの「問い」により、パラダイムシフトが促される可能性があります。
3. 異なる価値観と文化…キャリアツーリズム®は一種の越境学習ですが、異なる価値観と文化に触れることは自己理解や成長を促す効果が期待できます。
4. 目指す方向性…対話を通じて、自分と組織のパーパスを明らかにします。

 この他、そもそも既存の枠組みから外れる経験をすることで、想定外のことにチャレンジできるようになります。また、受け入れる地域の方も、外部から異なるバックグラウンドを持った人々と交流することにより刺激になるようです。近年、メディカルツーリズムやウェルネスツーリズムが世界的に盛んになっていますが、将来的に「自己理解と成長、そして共創」を目的として外国人が来日するようなことにも繋げていきたいとおっしゃっていました。

 キャリアツーリズム®は、下図のような個人の行動変容のメカニズムを刺激するものと言ってよいでしょう。



 なぜ今、キャリアツーリズム®なのか?それには、日本における働き方、キャリアの重ね方の変化が背景にあります。大雑把に言えば、企業が個人のキャリアを用意し、一つの組織の中で評価されることが社会的成功とイコールだった時代から、様々な場所で経験を積み、自分自身の成功のために自ら進む形への変化です。後者を「キャリア自律」と呼んでいます。キャリア自律型の時代は、決して組織と個人が対立関係にあるのではなく、むしろパーパスを共有しながら良い関係性を築いていくことが重要になります。

 なぜなら、キャリア自律型の人は、雇用の安定性や働く仲間との関係性(これらも重要ですが)よりも達成感やパーパスへの共感、成長を重視しているからであり、そうした個人で構成される組織は、むしろ成長しやすいという関係にあるからです(下図)。





 さて、ここでワークショップを行いました。最初に個人で、以下の問いについて考えます。

問.あなたが考える理想の町についてイメージしてみて下さい。

 次に、グループで次の問いについてディスカッションしました。

問.チームで理想の街をつくるとしたら、

・どんな雰囲気で どんな人がいるか?
・何を大事にしている町か?
・その町の中であなたは何をしている人か?
・その町でやっていけないことは何か?

 後で分かったことですが、これはキャリアツーリズムの疑似体験でした。これを物理的に離れた場所に身を置き、(YMSのような知己ではなく)第三者と対話し、時間をかけて行うとさらに深いものになるということです。

 現在、キャリアツーリズム®には以下のような様々なプログラムがあります。

 宮城県三陸…「復興から学ぶレジリエンス」
 和歌山県熊野…「歩く世界遺産 歩いて自分を見つめ歴史を学ぶ」
 千葉県香取…「伊能忠敬とリスキリング」

 キャリアツーリズム®を通じた交流は、コミュニティづくり、地域創生にもつながります。こうしたキャリアツーリズム®の特徴は、以下の5つにまとめられます。

1. 旅とキャリアの研究
2. 実践的なプログラム
3. 組織開発と採用の専門家
4. 地域事業者との連携
5. 地方創生、CSR

 地方との取り組みとしては、キャリアコンサルティングの他、大学でのキャリア講義、地域おこし協力隊のキャリア支援などを行っています。一つの例として、今年、地方のまちづくりや人材の確保、PRやビジネスを通じて地域経済を創発していく「Community Branding Japan」プロジェクトが始まりました。例えば、青森市で廃棄コスメを「ねぶた祭」の山車の染料として再利用するねぶた師の支援、北海道夕張郡長沼町で、本屋減少問題に立ち向かう主婦が立ち上げた、町の小さな本屋さん「KIBAKO」の支援、空き家問題を抱える鳥取県湯梨浜町で古民家を改装したサウナを手掛ける会社のPRおよびブランディング支援などです。

 キャリア支援を行ってきた高崎さんは、その過程で培ったチーム作りの手法は、基本的にまちづくり、仕事づくり、コミュニティづくりでも同じだとおっしゃっていました。YMSも過去何度か、まちづくり、地域創生に携わる人をお招きし、お話を伺ってきました。そうした方々が有機的につながり、さらに大きな力となるといいですね。

【参考:地域づくりをテーマにした過去のYMS】
第162回:「日本の田舎をどうにかしようと思ったら、東南アジアでホテル経営をしていた件」
第152回:「地域の自立・自走を目指す伴走型支援」
第143回:「主力サービスのピボットと社名変更に至る道のり~地方創生の現状と私たちが目指す地域活性化~」
第108回:「沖縄の演劇、芸能活動を通じた地域振興の取り組みについて」

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

過去のセミナーレポートはこちら
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