窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

「TPP開国論のウソ」⑤-戦うごとに必ず殆うし(後)

2011年05月23日 | レビュー(本・映画等)
2.算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況や算なきに於いてをや(始計篇)

  「勝利する条件が整っていれば勝ち、整っていなければ敗れる。まして勝利する条件が全くなかったら問題にならない」。本書で詳細に述べられているとおり、TPPに参加することによるメリットは実現性に乏しく、デメリットの大きさは甚大です。「天を知り地を知れば、勝乃ち窮まらず」(地形篇)とありますが、TPPという自由化政策はデフレ期にデフレをさらに促進するという点で天の利に反し、アメリカを除くTPP参加国には日本が輸出を拡大できるような内需がなく、アメリカも雇用を確保するために輸出拡大の意思を明確にしているという点で地の利もありません。まして、前回みたように交渉の当事者がTPP参加による影響について「よく分かっていない」と発言する始末ですから、まさしく「況や算なきに於いてをや」というべきでしょう。

  「謀攻篇」に「若からざれば、則ちよくこれを避く。故に小敵の堅は、大敵の擒なり」とあります。勝算がなければ、戦いを避けなければならないのです。味方の兵力を無視して強大な敵に戦いを挑めば、敵の餌食になるばかりです。実際、韓国はTPPに参加しても勝算がないことを理解しているので個別FTAを選択することを既に表明しています。よくTPPを安全保障の問題と絡め「TPPに参加しないとアメリカに守ってもらえなくなる」という人がいますが、では、北朝鮮と国境を接し、輸出依存度がGDPの40%を占め、よりTPPに積極参加しなければならないはずの韓国が何故早々にTPPには参加しないと表明しているのでしょうか。韓国は98年のアジア通貨危機でIMFの管理下に置かれ、極端な自由化と緊縮財政を強制されました。その結果、韓国四大銀行の外国人持株比率は何と平均71.25%、三星電子54%、現代自動車49%、LG37%とほとんど外国資本に経済を牛耳られてしまいました。よく「日本の大手電機メーカー9社が束になってもサムスン1社の営業利益に及ばない」と羨む声が聞かれますが、その利益が誰の懐に入るのか明らかでしょう。

  韓国はこの苦い経験があるからこそより極端なTPPではなくFTAを選択しているのです。こうした事例がすぐ近くにありながら、日本は勝算もないのに「平成の開国」などと称して、自らそのような死地に飛び込もうとしているのです。また、メキシコは日本よりはるかに対米依存の高い国ですが、2003年のイラク戦争の際には国連安保理で認められていないという理由で派兵を拒否しました。

  その結果、メキシコや韓国が国際的に孤立、あるいはアメリカとの同盟関係が解消したというようなことがあったでしょうか。アメリカはそれが自国の利益だから同盟しているのであって、自国の利益にならなければTPPに参加して国を差し出したとしても守ってくれる保証などありません。「その来たらざるを恃むなく、吾の以って待つあるを恃むなり」(九変篇)、つまり、敵の来襲がないことに期待をかけるのではなく、敵に来襲を断念させるような、わが備えを頼みとするのであるということですが、国防の問題が心配なら、自主防衛を前提として、さらにそれを強化するための日米同盟を考えるのが筋ですし、その方が両国のためでもあります。

  「TPP開国論のウソ」①の冒頭で「TPP先送り」の記事をリンクしました。それによると、TPP交渉参加の結論を出す時期を「総合的に検討する」としていますが、一方で与謝野馨経済財政担当相が「11月までには日本の態度を決めないといけない」と述べています。11月とは即ち、オバマ大統領の故郷であるハワイで開催されるAPECを指しています。ここで議長国アメリカがTPPを政治成果にしようとしていることは明白なのに、それまで結論を先延ばしした挙句、参加しないなどということが言えるとは思えません。まして、昨年11月のAPEC(横浜)で管首相が「平成の開国」などと事実に反する宣言をしています。日本は既に先進国で最も関税の低い国の一つですから、それ以上の「開国」をするといえば、事実上TPP参加の宣言とみなされるのが常識です。しかも、東日本大震災の4日後にアメリカのフローマン次席大統領補佐官が「最終的な期限は設けないが、APECまでに進展だけさせろ」と言ったそうですが(2011年3月15日付日経電子版に掲載されていたそうですが、削除されているようです)、上の与謝野馨経済財政担当相の発言はこれを受けてのことと思います。

  もし、「11月までにTPP交渉への参加を決めるだけであり、ルール作りは交渉の過程で決めるのだからそんなに騒ぐことではない」というのであれば、楽観に過ぎるというものです。何しろ、横浜でのAPECでTPP参加表明を行った後に「その影響については分からない」と発言するほどの不明さです。その上、2011年1月に前原前外相は「TPP参加は日米同盟強化の一環」と発言しています。仮にそれが本当なら、TPP交渉に参加してその不利に気づいたとしても「安全保障の一環」と位置づけてしまった以上、不都合だからという理由で離脱などできるはずがありません。完全に矛盾しているのです。「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む」(軍形篇)とあるように、勝利を収めるのはあらかじめ勝利する態勢を整えてから戦う者であり、戦いを始めてからあわてて勝利をつかもうとする者は必ず敗北するのです。

  唇亡びて歯寒し(「春秋左氏伝」)、農協など特定の誰かをスケープゴートにしていても、彼らを叩いた後、その災難は諸手を挙げて賛成している人たちのところにも降りかかるのだということを知らなければなりません。結論を先送りしている余裕などなく、今すぐにも不参加を表明しなければならないと思います。

  最後に、『孫子』からこの一文を挙げさせていただきたいと思います。

「亡国は以って復た存すべからず、死者は以って復た生くべからず」(火攻篇)

(国は亡んでしまえばそれでおしまいであり、人は死んでしまえば二度と生き返らない)

「TPP開国論」のウソ 平成の黒船は泥舟だった
クリエーター情報なし
飛鳥新社


  繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
  ブログをご覧いただいたすべての皆様に感謝を込めて。

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コメント (1)
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