窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

ウエスものがたり【最終回】リユースの力、エコソフィーの力

2008年07月02日 | ウエスものがたり


上の表をご覧ください。これは経済産業省が2003年に行なった『繊維製品のLCA調査報告書』よりウエスを新しい綿布をつかって生産した場合とぼろ(古布)をリユースして生産した場合のエネルギー消費量をCO2量に変換した比較です。木綿というと天然素材=環境に良い、というイメージをお持ちの方も多いのではないかと思いますが、木綿というのは実はその生産過程で膨大なエネルギーを必要とするのです。しかしウエスを作るために新たに木綿という資源を投入する代わりに、すでに衣料としての役割を終えたぼろをリユースした場合、両者のライフサイクルにおけるCO2発生量を比較すると、累積でぼろを利用したウエスのCO2発生量は前者の場合のわずか1/100にすぎません。
 
 どうしてこのような驚くべき違いが発生するのでしょう。それはぼろウエスが既に存在している、しかも一旦洋服や布としての役割を終え廃棄された物を原料として使用しているため、綿布を生産するために投入した膨大な資源やエネルギーの追加投入を抑えることができるからです。しかしぼろウエスの原料である服や布も生産の過程で資源やエネルギーを消費するではないか、それを考慮に入れていない比較は詭弁ではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。果たしてそうでしょうか。

 例えば、布(または衣服)を一単位作るのに必要なエネルギーを10、ウエスを作るのに必要なエネルギーを10としましょう。ウエスを新しく木綿を栽培して生産する場合、ウエス1単位を作るために必要なエネルギーは20になります。一方、衣服を再利用してウエスを作る場合、同じ20のエネルギーで衣服とウエス2単位を作ることができます。実際にはぼろウエスを作る場合もエネルギー消費はありますが、この例の場合その量は無視できるほど極小と見なして差し支えないでしょう。したがって既に存在している資源を有効活用すれば同じエネルギー投入で社会厚生2単位を実現でき、逆に言えば投入エネルギーをそれだけ節約することができるというわけなのです。

 よく同じECOでもECONOMYとECOLOGYは二律背反で両立しない、と言われます。しかし先ほどの例で見たように、社会厚生を維持しつつ環境負荷を減らすという「両立」は「リユース」によって実現可能であることにお気づきでしょうか?環境負荷を減らすだけならそもそもエネルギー消費をしない、ごみを出さないというのが最も有効であるのは言を俟たないのですが、経済活動の結果、資源やエネルギー消費が必然的に発生するのであればこれらを可能な限り有効に使うことで経済活動と環境負荷低減のバランスをとるのが最も有効な手段なのです。それでは両者のバランスをとる「支点」となるものは何か、それはわたしたち一人ひとりの「知恵」(SOPHIA)です。このような視点がこれからの時代に必要なのだと思います。

 したがってナカノ株式会社ではこのようにECONOMYとECOLOGYをSOPHIAによって結びつける概念を”ECOSOPHY”(エコソフィー)と呼び、企業活動の根本概念として位置づけています。ぼろウエスの果たす役割はエコソフィーによって機能的優良性を超え拡大していくのだ、また拡大させていかなければならないとわたしたちは考えているのです。

  繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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繊維リサイクルの歴史 【016】需要面の問題

2008年07月02日 | 繊維リサイクルの歴史
 次に需要面の問題についてまとめてみます。故繊維の用途は主に、中古衣料・ウエス・反毛の三つに分けられるということはすでにお話しました。故繊維の出口となるこれら三つの市場はそれぞれどのような問題に直面していたのでしょうか。

1.中古衣料

90年代から00年代にかけて中古衣料は輸出数量だけでみると1.5倍の成長を示しました。ところが輸出金額は半値以下に下がってしまいました。その主な要因は次のようなものでした。

1)主な仕向地が東南アジアに限られた

地域上の特徴(アフリカの決済メカニズムの不安定、中南米の輸入規制、ロシア・東欧の体型相違等)および物流上の立地から日本の主な輸出先は東南アジアに限定されていました。東南アジア市場は当然日本より南方に位置するため、毛織物等の冬物衣料はほとんど売物になりません。しかし日本人の意識としては冬物の方が購入した時の価格が高いのでリサイクルする価値があるのではないかという感覚もあってか、急速な勢いで冬物衣料の発生が増え行き場を失った冬物衣料が故繊維業者を圧迫することになったのです。

また衣類は生活必需品であると共にわが国のような先進国にあっては奢侈品、すなわちファッションであるという点も見逃せません。つまり日本では衣類に対し実用としての価値よりもブランドとしての価値に値段がつけられています。しかし中古衣料を必要としている多くの国の人々にとって、衣類はあくまで生命を守る必需品なのでありファッションを楽しむところまでいたっていません。その結果、供給側と需要側に価値の不一致が生じます。わたしたちはともすると自分たちに価値のあるものは海外の人々にも喜ばれるものと思ってしまいがちですが、必ずしもそうとは言えないのです。実際東南アジアで必要とされながら、わが国ではどちらかというと敬遠されがちな物の一例を挙げてみますと、

-ハンカチ
-女性物肌着
-バスタオル、スポーツタオルなど
-野球帽

などがあります。意外な結果に驚かれた方もいらっしゃるかと思います。ご覧のようにわたしたちの感覚ではどちらかというと「汚い」もの、使用済みとして出すには抵抗のあるものがアジアでは実用的価値のあるものとして重宝されているのです。その結果、彼らが必要としているものほど日本ではどうも出すのが恥ずかしいということで集まりにくいという結果になっています。繊維リサイクルの効率を高めるため、また海外の国々とのより良い共存共栄関係を築くためにも、わたしたち自身のパラダイム転換が必要になります。

2)中国の輸入規制

アジア市場は中国という世界第一位の人口を抱える圧倒的に大きな市場を内含しています。一見すると日本は中国の近隣に位置しまこと中古衣料にとって有利なように思われますが、この最も購買力のあると思われる中国が中古衣料に対し公正な理由のない輸入規制を敷いており、これは現在も続いています。この点が紙やプラスチックなど他の再生資源とは全く事情の違う故繊維特有の問題です。

3)カントリーリスクが大きい

中古衣料市場のほとんどは途上国であるため取引に不安定な要素が多いのも否めない事実です。衣類はかさばるわりに市場価格が下がりつづけているため、相手国や世界の経済変動の影響をまともに受けてしまいます。90年代後半はご存知の通りわが国においては史上空前の円高、東南・東アジアにおいては通貨危機があり、日本の輸出競争力が下がる一方で市場も経済破綻により縮小するという事態に陥ったのでした。

4)国際的な競争が激化

アジア通貨危機によりかつては日本の中古衣料の輸入国であった韓国や台湾が為替の上で優位に立ったことで、この頃から輸出国に転じ日本の競争相手となるようになりました。日本は人件費のみならず為替の上でも輸出競争力で劣勢に立たされることになったのです。

2.ウエス

すでにお話しましたように明治以来永らく故繊維業界の主力商品であったウエスの需要は、我が国の製造業の海外移転などにより80年代以降一貫して縮小の一途を辿りました。資源の再使用という点から見ればいかにも理に適った商品と思えるウエスなのですが、日本の工業の構造的変化、80年代以降機械工業の不振、ファクトリーオートメーション化、工場の海外移転など日本の工業そのものが構造的に変化し、国内におけるウエス需要の絶対量そのものが減少したのです。

1)代替品の登場

また90年代になるとISO14000シリーズなど環境問題への対応を名分とし大手メーカーがレンタルウエスや紙ウエスといった形でウエスの市場に参入してくるようになりました。長引く不況の中、大資本が中小・零細企業によって構成されたニッチ市場にも進出するようになったのです。 因みにISO14001、すなわち環境マネジメントシステム導入に際し工場ゼロエミッションの目標化ということでレンタルウエスなどの需要が伸びたことは、実際には使用後のウエス処分をアウトソーシングしているに過ぎなかったのですが、ウエス製造業者にとって大口ユーザーを失い、事業採算ベースにのらない事態に繋がったのです。

2)輸入原料の流入と国産原料の不能物化

85年のプラザ合意以降の円高とこれまで輸出先であったヨーロッパが環境意識の高まりにつれ自国回収を急速に進めたことで逆に輸出国に転じたことで、安価な輸入ウエス原料が流入するようになり、その結果国内におけるウエス原料の価格が低下することになりました。それにより従来ウエスとして活かされていた原料が供給過剰となり、結果としてその処理コスト負担が故繊維業者の上に重くのしかかることになったのです。

3.反毛

反毛は再使用の用をなさない繊維屑などを原料に戻し再商品化する、いわば「リサイクル」の代表格です。しかしこれらも90年代以降は量・価格共半分に下落してしまいました。その要因を見ていきます。

1)フェルト用途でのプラスチック系素材への代替

自動車業界を中心とする客先の品質要求アップにつれ、反毛原料主体のフェルトは次第に使用されなくなりました。自動車の遮音性、耐熱性という側面から見れば毛や綿の故繊維を使ったほうが機能的に優れていたのですが、デフレ経済下でコスト上の理由から新品のポリエステルなどに変化していきました。

2)作業用手袋分野における輸入の増加

故繊維を再生してつくる特殊紡績糸の最大用途である作業用手袋(軍手)は国内消費の約60%以上が海外の安価な輸入製品となり、反毛を原料とする国産品はそのシェアを失っていきました。

3)選別業者における反毛用途向け事業の採算割れ

反毛の生産地から遠い中国・四国以西はもとより、関東・関西地区の選別業者も反毛原料の価格低下により物流費さえまかないきれず、反毛用途向けが事業として成り立たなくなりました。その結果、各地で回収はしたものの不能物として処理せざるをえない反毛原料用途の故繊維が増加し、それらの処理負担が故繊維業者を圧迫することとなったのです。

  繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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