BUZ LIFE

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博士の愛した数式

2006年04月23日 | Weblog
本屋の目立つ場所に置いてあったので衝動買い。電車の中などで、4日間で読み終えてしまった。

事故の後遺症で80分しか記憶が持たない博士。その家に家政婦として雇われた女性と、その息子ルートの3人のお話。ルートは頭が平らであることから博士が考えた愛称である。

家政婦は博士の家に訪ねるが、記憶がもたない博士は毎回家政婦と初対面することになる。名前よりもまず、誕生日や身長など数に関係する質問をするという博士独特のコミュニケーション。記憶をなくす前は数学の教授であり、記憶をなくした後も数学雑誌の問題懸賞に応募するなど数学に没頭する毎日。数学にしか興味を持たないと思われた博士は家政婦に子供がいることを知ると興味を持ち、自分の家に連れてくるよう指示する。ルートという自分がつけたあだ名を持つ家政婦の子供には無限の愛情を示し、3人で教授の家ですごす時間を持つようになる。

記憶が持たないちょっと風変わりな教授と、彼を好意的に世話する家政婦、そして教授の愛を受ける息子。この3人が絶妙な関係を保ち物語りは進んでいく。決して大きな事件が起こることはないが、日常の彼らのやりとりが非常に印象的に描かれる。記憶が持たず、何度も初対面の挨拶をする教授に、まったく嫌気を示さず接する家政婦とルート。ルートが怪我をすると彼をおぶって医者に駆け込む教授。そして何より、教授が数学の話を持ち出し、ルートと家政婦はこの数学の話に非常に興味を持って接する、この時間は非常に平和であり、ルートと家政婦の心に深深と教授という人物が刻み込まれてゆく。どの場面にもまして、この部分は非常に印象的であり、この3人の関係がいつまでも続けばいいとつい願ってしまう。3人にとっても幸せな時間であっただろう。

それでも教授の記憶は80分しか持たない。この事実は決してゆがめられることなく物語は描かれ、一抹の悲愴感を抱かせる。教授と思い出を共有できない家政婦とルート、また毎回初対面という緊張に苛まされ、ルートと家政婦と蓄積された関係をもてない教授。もし、記憶を保持することができたら・・・。いや、それではこの物語は成立しなかったであろう。記憶が持てない教授に対して家政婦とルートは独自のルールを決め、接し方に注意を払い、またまったく嫌気を示さない彼らと、記憶が持たないなりに努力し、懸命にルートと家政婦に接しようとする教授、彼らの関係は非常に美しく、読んでいる人の心に何かを語りかける。

最後はいまいちはっきりしない終わり方。

読んでいて、心が平和になり、また彼ら3人のことをつい想像してしまう、そんな本であった。