法律の周辺

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「暴走族」に係る限定解釈について

2007-09-19 21:19:18 | Weblog
広島の暴走族追放条例に合憲判断 最高裁が上告棄却 Sankei Web

 記事にもあるとおり,藤田宙靖,田原睦夫両裁判官の反対意見がついている。とりわけ,田原裁判官は,本条例の国民(市民)の行動の自由や表現,集会の自由等精神的自由に対する萎縮効果につき強い懸念を表明しておられる。

 上告理由は,広島市暴走族追放条例条例16条1項1号,17条,19条は,規定文言から適用範囲が広範に過ぎるというもの。
該条例は,第2条第7号で,条例中の「暴走族」を「暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で,い集,集会若しくは示威行為を行う集団をいう。」と定義づけているが,後半の「公共の場所において,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で,い集,集会若しくは示威行為を行う集団」は本来的な意味での暴走族ではない。この点も問題となっている。
第三小法廷は次のとおり判示。

 本条例が規制の対象としている「暴走族」は,本条例2条7号の定義にもかかわらず,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され,したがって,市長において本条例による中止・退去命令を発し得る対象も,被告人に適用されている「集会」との関係では,本来的な意味における暴走族及び上記のようなその類似集団による集会が,本条例16条1項1号,17条所定の場所及び態様で行われている場合に限定されると解される。
そして,このように限定的に解釈すれば,本条例16条1項1号,17条,19条の規定による規制は,広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと,規制に係る集会であっても,これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく,市長による中止命令等の対象とするにとどめ,この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると,その弊害を防止しようとする規制目的の正当性,弊害防止手段としての合理性,この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし,いまだ憲法21条1項,31条に違反するとまではいえないことは,最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁の趣旨に徴して明らかである。


なお,堀籠裁判長が「反対意見の趣旨にかんがみ」として以下のような補足意見を述べておられる。自治体の立法能力が必ずしも十分ではないという点は織り込んで解釈しなければならないかのような口吻。この点については批判もあろう。

 一般に条例については,法律と比較し,文言上の不明確性が見られることは稀ではないから,このような場合,条例の文面を前提にして,他の事案についての適用関係一般について論じ,罰則規定の不明確性を理由に違憲と判断して被告人を無罪とする前に,多数意見が述べるように,本条例が本来規制の対象としている「集会」がどのようなものであるかをとらえ,合理的な限定解釈が可能であるかを吟味すべきである。確かに,集会の自由という基本的人権の重要性を看過することは許されず,安易な合憲限定解釈は慎むべきであるが,条例の規定についてその表現ぶりを個々別々に切り離して評価するのではなく,条例全体の規定ぶり等を見た上で,その全体的な評価をすべきものであり,これまで最高裁判所も,このような観点から合憲性の判断をしてきているのである。そうであれば,本条例については,多数意見が述べるように,合理的限定解釈が可能であるから,そのような方向で合憲性の判断を行うべきであり,これを違憲無効とする反対意見には同調することができない。

判例検索システム 平成19年09月18日 広島市暴走族追放条例違反被告事件


日本国憲法の関連条文

第二十一条  集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。
2  検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。

第三十一条  何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない。

広島市暴走族追放条例

(目的)
第1条 この条例は,暴走族による暴走行為,い集,集会及び祭礼等における示威行為が,市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず,国際平和文化都市の印象を著しく傷つけていることから,暴走族追放に関し,本市,市民,事業者等の責務を明らかにするとともに,暴走族のい集,集会及び示威行為,暴走行為をあおる行為等を規制することにより,市民生活の安全と安心が確保される地域社会の実現を図ることを目的とする。

(定義)
第2条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 自動車等 道路交通法(昭和35年法律第105号。以下「法」という。)第2条第1項第9号に規定する自動車及び同項第10号に規定する原動機付自転車をいう。
(2) 少年 少年法(昭和23年法律第168号)第2条第1項に規定する少年をいう。
(3) 保護者 少年法第2条第2項に規定する保護者をいう。
(4) 公共の場所 道路,公園,広場,駅,空港,桟橋,駐車場,興行場,飲食店その他の公衆が通行し,又は出入りすることができる場所をいう。
(5) 暴走行為 法第68条の規定に違反する行為又は自動車等を運転して集団を形成し,法第7条,法第17条,法第22条第1項,法第55条,法第57条第1項,法第62条若しくは法第71条第5号の3の規定に違反する行為をいう。
(6) 示威行為 多数の者が威力を示して行進又は整列をすることをいう。
(7) 暴走族 暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で,い集,集会若しくは示威行為を行う集団をいう。
(8) 暴走族追放 暴走族による暴走行為等の防止,暴走族への加入の防止,暴走族からの離脱の促進等を図ることにより,暴走族のいない社会を築くことをいう。

(本市の責務)
第3条 本市は,第12条の規定による基本計画に基づき,暴走族追放に関する総合的かつ広域的な施策を策定し,これを実施する責務を有する。

(市民の責務)
第4条 市民は,この条例の目的を達成するため,前条の規定による施策に協力するよう努めなければならない。

(保護者の責務)
第5条 保護者は,暴走族が少年の健全な育成を阻害するおそれがあることを踏まえ,その監護に係る少年を暴走族に加入させないよう努めるとともに,当該少年が暴走族に加入していることを知ったときは,当該暴走族から離脱させるよう努めなければならない。

(学校,職場等の関係者の責務)
第6条 学校,職場その他の少年の育成に携わる団体の関係者は,その職務又は活動を通じ,相互に連携し,当該団体に属する少年を暴走族に加入させないよう努めるとともに,当該少年が暴走族に加入していることを知ったときは,当該暴走族から離脱させるよう努めなければならない。

(事業者の責務)
第7条 自動車等若しくは自動車等の部品の販売又は自動車等の修理を業とする者は,本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに,その事業活動において,暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
2 自動車等の燃料の販売を業とする者は,本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに,その事業活動において,法第62条又は法第71条の2の規定に違反することが外観上明らかな自動車等の運転者に燃料を販売することにより,暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
3 衣服,はちまき,旗等(以下「衣服等」という。)に刺しゅう,印刷等(以下「刺しゅう等」という。)をすることを業とする者は,本市が実施する暴走族追放のための施策に協力するよう努めるとともに,暴走族の名称等を衣服等に刺しゅう等をすることにより,暴走行為又は暴走族のい集,集会若しくは示威行為を助長することのないよう努めなければならない。

(自動車等の運転者の責務)
第8条 タクシー,トラックその他の自動車等の運転者は,暴走行為を発見したときは,速やかに,その旨を警察官に通報するよう努めなければならない。

(自動車等の所有者等の責務)
第9条 自動車等の所有者又は使用者は,暴走族に自動車等を譲渡し,又は貸与して,暴走行為を助長することのないよう努めなければならない。
(暴走族の集合場所の所有者等の責務)

第10条 暴走族が暴走行為をする際に集合する場所又はい集,集会若しくは示威行為を行う場所の所有者又は管理者は,暴走族の集合等を禁ずる旨の掲示をするなど暴走族の集合等をさせないための措置を講ずるよう努めなければならない。

(道路管理者等の責務)
第11条 道路を設置し,又は管理する者は,暴走行為が行われている道路について,暴走行為を防止する措置を講ずるよう努めなければならない。

(基本計画)
第12条 本市は,暴走族追放のため,次に掲げる事項を内容とする基本計画を策定するものとする。
(1) 暴走族追放に係る啓発活動及び市民意識の高揚に関する基本的な事項
(2) 暴走行為をさせない環境づくりに関する基本的な事項
(3) 暴走族への加入の防止に関する基本的な事項
(4) 暴走族からの離脱の促進に関する基本的な事項
(5) 少年の居場所づくりに関する基本的な事項
(6) 前各号に掲げるもののほか,暴走族追放に関する基本的な事項
2 本市は,前項の規定による基本計画を策定し,又は変更したときは,これを公表するものとする。

(関係機関への要請)
第13条 本市は,暴走族追放に関する施策の実施について,必要に応じ,関係機関に対して協力要請を行うものとする。

(保護者への要請)
第14条 本市は,暴走族に加入していると認められる少年の保護者に対して,少年の健全育成の観点から当該少年を暴走族から離脱させるよう指導することを要請することができる。

(情報の提供等)
第15条 本市は,市民,事業者等に対し,暴走族追放に関する施策の効果的な推進を図るため,情報の提供を行うとともに,必要な指導又は助言を行うよう努めるものとする。

(行為の禁止)
第16条 何人も,次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 公共の場所において,当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。
(2) 公共の場所における祭礼,興行その他の娯楽的催物に際し,当該催物の主催者の承諾を得ないで,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集,集会又は示威行為を行うこと。
(3) 現に暴走行為を行っている者に対し,当該暴走行為を助長する目的で,声援,拍手,手振り,身振り又は旗,鉄パイプその他これらに類するものを振ることにより暴走行為をあおること。
(4) 公共の場所において,正当な理由なく,自動車等を乗り入れ,急発進させ,急転回させる等により運転し,又は空ぶかしさせること。
2 何人も,前項各号に掲げる行為を指示し,又は命令してはならない。

(中止命令等)
第17条 前条第1項第1号の行為が,本市の管理する公共の場所において,特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは,市長は,当該行為者に対し,当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。

(委任規定)
第18条 この条例の施行に関し必要な事項は,市長が定める。

(罰則)
第19条 第17条の規定による市長の命令に違反した者は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

広島市暴走族追放条例施行規則

(趣旨)
第1条 この規則は,広島市暴走族追放条例(平成14年広島市条例第39号。以下「条例」という。)の施行に関して必要な事項を定めるものとする。

(市長の留意事項)
第2条 市長は,条例第17条の規定により中止命令等を行う場合において,条例第1条に規定する目的を達成するために必要な限度においてのみ行使するとともに,いやしくも権限を逸脱して個人の基本的人権若しくは正当な活動を制限し,又は正当な活動に介入するようなことのないよう留意しなければならない。

(中止命令等の判断基準)
第3条 市長は,条例第17条に規定する中止命令等を行う際に,条例第16条第1項第1号の行為が威勢を示すことにより行われたときに該当するか否かを判断するに当たっては,次に掲げることを勘案して判断するものとする。
(1) 暴走,騒音,暴走族名等暴走族であることを強調するような文言等を刺しゅう,印刷等をされた服装等特異な服装を着用している者の存在
(2) 明らかに人物の特定を避けるために顔面の全部又は一部を覆い隠している者の存在
(3) 他の者を隔絶するような形での円陣等い集又は集会の形態
(4) 暴走族名等暴走族であることを強調するような文言等を刺しゅう,印刷等をされた旗等の公衆に対する掲示物の存在
(5) 暴走族であることを強調するような大声の掛合い等い集又は集会の方法
(6) その他社会通念上威勢を示していると認められる行為

(中止命令等の方法)
第4条 市長は,条例第17条に規定する中止命令等を行う場合は,拡声器を使用する等行為者に対し命令の周知が図れる方法により行うものとする。

(身分証明書)
第5条 条例第17条の規定による中止命令等の業務に従事する職員は,所定の身分証明書を携帯しなければならない。

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