法律の周辺

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入国審査手続での個人識別情報の提供について

2007-09-02 18:50:02 | Weblog
指紋採取:法務省が中韓などで説明会 11月からの実施で MSN毎日インタラクティブ

 改正入官法第6条第3項には,「前項の申請をしようとする外国人は,入国審査官に対し,申請者の個人の識別のために用いられる法務省令で定める電子計算機の用に供するため,法務省令で定めるところにより,電磁的方式(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式をいう。以下同じ。)によつて個人識別情報(指紋,写真その他の個人を識別することができる情報として法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)を提供しなければならない。ただし,次の各号のいずれかに該当する者については,この限りでない。」とある。
指紋と写真は択一関係ではなく,ともに提供が義務づけられているようだ。

 指紋押捺制度は外国人登録法にもあったが,平成11年の法改正ですべて廃止され,署名と写真提出の制度に変更されている。
外国人登録法の指紋押捺制度に係る著名な判例としては最判H7.12.15があり,次のとおり判示。該制度が憲法第13条に違反するとの主張は理由がないとした。

 指紋は,指先の紋様であり,それ自体では個人の表生活や人格,思想,信条,良心等個人の内心に関する情報となるものではないが,性質上万人不同性,終生不変性をもつので,採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある。このような意味で,指紋の押なつ制度は,国民の私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。
 憲法一三条は,国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので,個人の私生活上の自由の一つとして,何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり,国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは,同条の趣旨に反して許されず,また,右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される(最高裁昭和四〇年(あ)第一一八七号同四四年一二月二四日大法廷判決・刑集二三巻一二号一六二五頁,最高裁昭和五〇年(行ッ)第一二〇号同五三年一〇月四日大法廷判決・民集三二巻七号一二二三頁参照)。
 しかしながら,右の自由も,国家権力の行使に対して無制限に保護されるものではなく,公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは,憲法一三条に定められているところである。
 そこで,外国人登録法が定める在留外国人についての指紋押なつ制度についてみると,同制度は,昭和二七年に外国人登録法(同年法律第一二五号)が立法された際に,同法一条の「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ,もって在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するため,戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として制定されたもので,その立法目的には十分な合理性があり,かつ,必要性も肯定できるものである。また,その具体的な制度内容については,立法後累次の改正があり,立法当初二年ごとの切替え時に必要とされていた押なつ義務が,その後三年ごと,五年ごとと緩和され,昭和六二年法律第一〇二号によって原則として最初の一回のみとされ,また,昭和三三年律第三号によって在留期間一年未満の者の押なつ義務が免除されたほか,平成四年法律第六六号によって永住者(出入国管理及び難民認定法別表第二上欄の永住者の在留資格をもつ者)及び特別永住者(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める特別永住者)につき押なつ制度が廃止されるなど社会の状況変化に応じた改正が行われているが,本件当時の制度内容は,押なつ義務が三年に一度で,押なつ対象指紋も一指のみであり,加えて,その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって,精神的,肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず,方法としても,一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められる。
 右のような指紋押なつ制度を定めた外国人登録法一四条一項,一八条一項八号が憲法一三条に違反するものでないことは当裁判所の判例(前記最高裁昭和四四年一二月二四日大法廷判決,最高裁昭和二九年(あ)第二七七七号同三一年一二月二六日大法廷判決・刑集一〇巻一二号一七六九頁)の趣旨に徴し明らかであり,所論は理由がない。


入国管理局 新しい入国審査手続(個人識別情報の提供義務化)の概要について(平成19年7月)


日本国憲法の関連条文

第十三条  すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

第十四条  すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。
2  華族その他の貴族の制度は,これを認めない。
3  栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴はない。栄典の授与は,現にこれを有し,又は将来これを受ける者の一代に限り,その効力を有する。

改正「出入国管理及び難民認定法」の関連条文

(上陸の申請)
第六条  本邦に上陸しようとする外国人(乗員を除く。以下この節において同じ。)は,有効な旅券で日本国領事官等の査証を受けたものを所持しなければならない。ただし,国際約束若しくは日本国政府が外国政府に対して行つた通告により日本国領事官等の査証を必要としないこととされている外国人の旅券,第二十六条の規定による再入国の許可を受けている者の旅券又は第六十一条の二の十二の規定による難民旅行証明書の交付を受けている者の当該証明書には,日本国領事官等の査証を要しない。
2  前項本文の外国人は,その者が上陸しようとする出入国港において,法務省令で定める手続により,入国審査官に対し上陸の申請をして,上陸のための審査を受けなければならない。
3  前項の申請をしようとする外国人は,入国審査官に対し,申請者の個人の識別のために用いられる法務省令で定める電子計算機の用に供するため,法務省令で定めるところにより,電磁的方式(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式をいう。以下同じ。)によつて個人識別情報(指紋,写真その他の個人を識別することができる情報として法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)を提供しなければならない。ただし,次の各号のいずれかに該当する者については,この限りでない。
一  日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成三年法律第七十一号)に定める特別永住者(以下「特別永住者」という。)
二  十六歳に満たない者
三  本邦において別表第一の一の表の外交の項又は公用の項の下欄に掲げる活動を行おうとする者
四  国の行政機関の長が招へいする者
五  前二号に掲げる者に準ずる者として法務省令で定めるもの

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