法律の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

自閉症による公判停止について

2006-10-18 20:23:12 | Weblog
自閉症を理由に公判停止 全国で初めて Sankei Web

 耳が聞こえず,言葉も話せない聴覚・言語の障害者の窃盗事件で,最決H7.2.28は,「刑訴法314条1項にいう『心神喪失の状態』とは,訴訟能力,すなわち,被告人としての重要な利害を弁別し,それに従って相当な防御をすることのできる能力を欠く状態をいうと解するのが相当である。」と判示する。

 確かに,「放置されて一生刑事被告人のまま」は問題。ただ,手続打ち切りといった明文なき措置については,裁判所は極めて慎重だ。
この点については,前記最決の千種補足意見が参考になる。

 仮に被告人に訴訟能力がないと認めて公判手続を停止した場合におけるその後の措置について付言すると,裁判所は,訴訟の主宰者として,被告人の訴訟能力の回復状況について,定期的に検察官に報告を求めるなどして,これを把握しておくべきである。そして,その後も訴訟能力が回復されないとき,裁判所としては,検察官の公訴取消しがない限りは公判手続を停止した状態を続けなければならないものではなく,被告人の状態等によっては,手続を最終的に打ち切ることができるものと考えられる。ただ,訴訟能力の回復可能性の判断は,時間をかけた経過観察が必要であるから,手続の最終的打切りについては,事柄の性質上も特に慎重を期すべきである。


刑事訴訟法の関連条文

第二百五十七条  公訴は,第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。

第三百十四条  被告人が心神喪失の状態に在るときは,検察官及び弁護人の意見を聴き,決定で,その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し,無罪,免訴,刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には,被告人の出頭を待たないで,直ちにその裁判をすることができる。
2  被告人が病気のため出頭することができないときは,検察官及び弁護人の意見を聴き,決定で,出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。但し,第二百八十四条及び第二百八十五条の規定により代理人を出頭させた場合は,この限りでない。3  犯罪事実の存否の証明に欠くことのできない証人が病気のため公判期日に出頭することができないときは,公判期日外においてその取調をするのを適当と認める場合の外,決定で,出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。
4  前三項の規定により公判手続を停止するには,医師の意見を聴かなければならない。

第四百十九条  抗告は,特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合の外,裁判所のした決定に対してこれをすることができる。但し,この法律に特別の定のある場合は,この限りでない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

被告人の妻に対する自白の説得要請について

2006-10-18 10:54:41 | Weblog
被告の妻に検事が自白説得を迫る,国に賠償命令 YOMIURI ONLINE

 いわゆる「約束による自白」の証拠能力に関してだが,最判S41.7.1は,「被疑者が,起訴・不起訴の決定権をもつ検察官の,自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ,起訴猶予になることを期待してした自白は,任意性に疑があるものとして証拠能力を欠くものと解するのが相当である。」と判示している。

 検察官の「このまま否認していると刑務所に入ることになる」といった言動は,有罪・無罪の判断権限がないにしても,被告人やその家族にとっては相当な心理的圧迫になるに違いない。人格権侵害は妥当なところ。
なお,私が見た限り,面談内容を録音したことに関し,フェア・アンフェアを云々する報道はなかったようだ。
民事においても,録音テープ等の証拠能力が問題になる場合はあるが,本件に関しては,一方当事者による不当な圧力に対する自己防衛手段であることや,その力関係等からいっても,本録音をもって,著しく反社会的な行為とする非難はあたらないように思われる。

 因みに,東京地検は,この7月から,重大事件に限るが,容疑者の取り調べを録音・録画する可視化の試みを実施している。

神戸新聞 取り調べ可視化/世界の流れに後れ取るな


日本国憲法の関連条文

第十三条  すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

国家賠償法の関連条文

第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。
2  前項の場合において,公務員に故意又は重大な過失があつたときは,国又は公共団体は,その公務員に対して求償権を有する。

刑事訴訟法の関連条文

第三百十九条  強制,拷問又は脅迫による自白,不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は,これを証拠とすることができない。
2  被告人は,公判廷における自白であると否とを問わず,その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には,有罪とされない。
3  前二項の自白には,起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。

第三百二十条  第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては,公判期日における供述に代えて書面を証拠とし,又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
2  第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については,前項の規定は,これを適用しない。但し,検察官,被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては,この限りでない。

第三百二十一条  被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは,次に掲げる場合に限り,これを証拠とすることができる。
一  裁判官の面前(第百五十七条の四第一項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については,その供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき,又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異つた供述をしたとき。二  検察官の面前における供述を録取した書面については,その供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき,又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し,公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
三  前二号に掲げる書面以外の書面については,供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず,且つ,その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し,その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
2  被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は,前項の規定にかかわらず,これを証拠とすることができる。
3  検察官,検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は,その供述者が公判期日において証人として尋問を受け,その真正に作成されたものであることを供述したときは,第一項の規定にかかわらず,これを証拠とすることができる。
4  鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても,前項と同様である。

第三百二十一条の二  被告事件の公判準備若しくは公判期日における手続以外の刑事手続又は他の事件の刑事手続において第百五十七条の四第一項に規定する方法によりされた証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体がその一部とされた調書は,前条第一項の規定にかかわらず,証拠とすることができる。この場合において,裁判所は,その調書を取り調べた後,訴訟関係人に対し,その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。
2  前項の規定により調書を取り調べる場合においては,第三百五条第三項ただし書の規定は,適用しない。
3  第一項の規定により取り調べられた調書に記録された証人の供述は,第二百九十五条第一項前段並びに前条第一項第一号及び第二号の適用については,被告事件の公判期日においてされたものとみなす。

第三百二十二条  被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは,その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき,又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り,これを証拠とすることができる。但し,被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は,その承認が自白でない場合においても,第三百十九条の規定に準じ,任意にされたものでない疑があると認めるときは,これを証拠とすることができない。
2  被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は,その供述が任意にされたものであると認めるときに限り,これを証拠とすることができる。

第三百二十五条  裁判所は,第三百二十一条から前条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であつても,あらかじめ,その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となつた他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ,これを証拠とすることができない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする