現行法の表見代表取締役の責任(商法第262条)については,商法第12条との関係で,様々な議論がされているところ。
商法第262条は同12条の例外規定であるとする考え方が,一応,判例・通説といってよいように思われる。この例外規定説は,商法262条が同12条に優先する理由として,表見代表取締役の行為として普段はこれを会社に帰属させながら,問題が起こると登記を持ち出すというようなことを会社に認めるのは信義・公平に反するということのほか,現実の取引にあたって,いちいち登記簿を調べるよう要求するのは妥当ではない,といったことをあげる。
会社法においても,商法第262条は会社法第354条として,商法第12条は会社法第908条第1項として,それぞれ実質的に維持される。とすれば,会社法下の表見代表者の責任を巡る議論については特段動きはなさそうにも見える。
しかし,ここで考えなければならないのは,会社法においては機関設計の選択の幅が広がるということである。例えば,『一問一答 新・会社法』において,機関設計のルールとして掲げられているのは次の8つである。
(1)すべての株式会社には,株主総会のほか,取締役を設置しなければならない。
(2)取締役会を設置する場合には,監査役(監査役会を含む)または三委員会等のいずれかを設置しなければならない。ただし,大会社以外の株式譲渡制限会社(すべての種類の株式が譲渡制限株式である株式会社)において,会計参与を設置する場合には,この限りでない。
(3)株式譲渡制限会社以外の株式会社には,取締役会を設置しなければならない。
(4)監査役(監査役会を含む)と三委員会等とをともに設置することはできない。
(5)取締役会を設置しない場合には,監査役会および三委員会等を設置することができない。
(6)会計監査人を設置するには,監査役(監査役会を含む)または三委員会等(大会社であって株式譲渡制限会社でない株式会社にあっては,監査役会または三委員会等)のいずれかを設置しなければならない。
(7)会計監査人を設置しない場合には,三委員会等を設置することができない。
(8)大会社には,会計監査人を設置しなければならない。
大会社や公開会社にはいくつか制約がある一方,大会社以外の非公開会社については理論的には21種類もの機関設計が可能となる。これから取引をしようとする相手方株式会社がどのような機関選択をしているかは重要な確認事項となろう。会社法も,株式会社の機関構成を登記事項として開示することにしている(会社法第911条第3項第15号~22号)。
このように見てくると,会社法施行後は,登記簿の内容を確認しようというインセンティブが自ずと高まることになる,と考えるのが自然である。となれば,商事取引は迅速を旨とするという点に変わりはないとしても,上記例外規定説の第2の理由(「現実の取引にあたって,いちいち登記簿を調べるよう要求するのは妥当ではない」)は幾分主張しにくくなる,と考えるのが,これまた自然。
一般論としてだが,会社法下においては,会社法第354条と同第908条第1項との優先劣後が逆転するかといったことはさておき,a 登記簿の公示機能は現在よりも重みを増す,b 登記簿を確認しなかった→重過失あり(最判S52.10.14),という流れで,表見責任が認められる幅は現在よりも狭くなる,といった言い方は可能のように思われる。
この点,どのような機関選択をしようと,「社長」「副社長」「会長」といった役職名は代表権があることを表象すると考えるのが自然→そのように考えた者は保護されるべき,という反論もあり得る。
しかし,開示機能の実質的な充実度とイレギュラーな責任を負う者の範囲の広狭は,言わば,バーターの関係にある。会社法下でも,相手方の主観的要件との関係で,「社長」「副社長」といった役職名に,現在と同様,特別な地位が与えられるかについてはよく考える必要があるように思われる。どうだろうか。
商法第262条は同12条の例外規定であるとする考え方が,一応,判例・通説といってよいように思われる。この例外規定説は,商法262条が同12条に優先する理由として,表見代表取締役の行為として普段はこれを会社に帰属させながら,問題が起こると登記を持ち出すというようなことを会社に認めるのは信義・公平に反するということのほか,現実の取引にあたって,いちいち登記簿を調べるよう要求するのは妥当ではない,といったことをあげる。
会社法においても,商法第262条は会社法第354条として,商法第12条は会社法第908条第1項として,それぞれ実質的に維持される。とすれば,会社法下の表見代表者の責任を巡る議論については特段動きはなさそうにも見える。
しかし,ここで考えなければならないのは,会社法においては機関設計の選択の幅が広がるということである。例えば,『一問一答 新・会社法』において,機関設計のルールとして掲げられているのは次の8つである。
(1)すべての株式会社には,株主総会のほか,取締役を設置しなければならない。
(2)取締役会を設置する場合には,監査役(監査役会を含む)または三委員会等のいずれかを設置しなければならない。ただし,大会社以外の株式譲渡制限会社(すべての種類の株式が譲渡制限株式である株式会社)において,会計参与を設置する場合には,この限りでない。
(3)株式譲渡制限会社以外の株式会社には,取締役会を設置しなければならない。
(4)監査役(監査役会を含む)と三委員会等とをともに設置することはできない。
(5)取締役会を設置しない場合には,監査役会および三委員会等を設置することができない。
(6)会計監査人を設置するには,監査役(監査役会を含む)または三委員会等(大会社であって株式譲渡制限会社でない株式会社にあっては,監査役会または三委員会等)のいずれかを設置しなければならない。
(7)会計監査人を設置しない場合には,三委員会等を設置することができない。
(8)大会社には,会計監査人を設置しなければならない。
大会社や公開会社にはいくつか制約がある一方,大会社以外の非公開会社については理論的には21種類もの機関設計が可能となる。これから取引をしようとする相手方株式会社がどのような機関選択をしているかは重要な確認事項となろう。会社法も,株式会社の機関構成を登記事項として開示することにしている(会社法第911条第3項第15号~22号)。
このように見てくると,会社法施行後は,登記簿の内容を確認しようというインセンティブが自ずと高まることになる,と考えるのが自然である。となれば,商事取引は迅速を旨とするという点に変わりはないとしても,上記例外規定説の第2の理由(「現実の取引にあたって,いちいち登記簿を調べるよう要求するのは妥当ではない」)は幾分主張しにくくなる,と考えるのが,これまた自然。
一般論としてだが,会社法下においては,会社法第354条と同第908条第1項との優先劣後が逆転するかといったことはさておき,a 登記簿の公示機能は現在よりも重みを増す,b 登記簿を確認しなかった→重過失あり(最判S52.10.14),という流れで,表見責任が認められる幅は現在よりも狭くなる,といった言い方は可能のように思われる。
この点,どのような機関選択をしようと,「社長」「副社長」「会長」といった役職名は代表権があることを表象すると考えるのが自然→そのように考えた者は保護されるべき,という反論もあり得る。
しかし,開示機能の実質的な充実度とイレギュラーな責任を負う者の範囲の広狭は,言わば,バーターの関係にある。会社法下でも,相手方の主観的要件との関係で,「社長」「副社長」といった役職名に,現在と同様,特別な地位が与えられるかについてはよく考える必要があるように思われる。どうだろうか。