法律の周辺

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会社法下の表見代表者の責任について

2005-10-30 15:59:14 | Weblog
 現行法の表見代表取締役の責任(商法第262条)については,商法第12条との関係で,様々な議論がされているところ。
商法第262条は同12条の例外規定であるとする考え方が,一応,判例・通説といってよいように思われる。この例外規定説は,商法262条が同12条に優先する理由として,表見代表取締役の行為として普段はこれを会社に帰属させながら,問題が起こると登記を持ち出すというようなことを会社に認めるのは信義・公平に反するということのほか,現実の取引にあたって,いちいち登記簿を調べるよう要求するのは妥当ではない,といったことをあげる。

 会社法においても,商法第262条は会社法第354条として,商法第12条は会社法第908条第1項として,それぞれ実質的に維持される。とすれば,会社法下の表見代表者の責任を巡る議論については特段動きはなさそうにも見える。

 しかし,ここで考えなければならないのは,会社法においては機関設計の選択の幅が広がるということである。例えば,『一問一答 新・会社法』において,機関設計のルールとして掲げられているのは次の8つである。

(1)すべての株式会社には,株主総会のほか,取締役を設置しなければならない。
(2)取締役会を設置する場合には,監査役(監査役会を含む)または三委員会等のいずれかを設置しなければならない。ただし,大会社以外の株式譲渡制限会社(すべての種類の株式が譲渡制限株式である株式会社)において,会計参与を設置する場合には,この限りでない。
(3)株式譲渡制限会社以外の株式会社には,取締役会を設置しなければならない。
(4)監査役(監査役会を含む)と三委員会等とをともに設置することはできない。
(5)取締役会を設置しない場合には,監査役会および三委員会等を設置することができない。
(6)会計監査人を設置するには,監査役(監査役会を含む)または三委員会等(大会社であって株式譲渡制限会社でない株式会社にあっては,監査役会または三委員会等)のいずれかを設置しなければならない。
(7)会計監査人を設置しない場合には,三委員会等を設置することができない。
(8)大会社には,会計監査人を設置しなければならない。

 大会社や公開会社にはいくつか制約がある一方,大会社以外の非公開会社については理論的には21種類もの機関設計が可能となる。これから取引をしようとする相手方株式会社がどのような機関選択をしているかは重要な確認事項となろう。会社法も,株式会社の機関構成を登記事項として開示することにしている(会社法第911条第3項第15号~22号)。

 このように見てくると,会社法施行後は,登記簿の内容を確認しようというインセンティブが自ずと高まることになる,と考えるのが自然である。となれば,商事取引は迅速を旨とするという点に変わりはないとしても,上記例外規定説の第2の理由(「現実の取引にあたって,いちいち登記簿を調べるよう要求するのは妥当ではない」)は幾分主張しにくくなる,と考えるのが,これまた自然。
一般論としてだが,会社法下においては,会社法第354条と同第908条第1項との優先劣後が逆転するかといったことはさておき,a 登記簿の公示機能は現在よりも重みを増す,b 登記簿を確認しなかった→重過失あり(最判S52.10.14),という流れで,表見責任が認められる幅は現在よりも狭くなる,といった言い方は可能のように思われる。

 この点,どのような機関選択をしようと,「社長」「副社長」「会長」といった役職名は代表権があることを表象すると考えるのが自然→そのように考えた者は保護されるべき,という反論もあり得る。
しかし,開示機能の実質的な充実度とイレギュラーな責任を負う者の範囲の広狭は,言わば,バーターの関係にある。会社法下でも,相手方の主観的要件との関係で,「社長」「副社長」といった役職名に,現在と同様,特別な地位が与えられるかについてはよく考える必要があるように思われる。どうだろうか。

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会計参与の業務監視に係る責務について

2005-10-30 11:53:39 | Weblog
 会計参与は,取締役・執行役などと共同して計算書類等を作成する会社の機関(会社法第374条第1項・第6項)。
『一問一答 新・会社法』(商事法務)には,Q115に「会計参与の職務・権限は何か。」があり,回答には次の事項が掲げられている。

① 計算書類の取締役等との共同作成(会社法374条1項・6項)
② 会計参与報告の作成(会社法374条1項)
③ 株主総会における計算書類の説明義務(会社法314条)
④ 計算書類の保存(会社法378条1項)
⑤ 計算書類の株主および債権者への開示(会社法378条2項)
⑥ 会計帳簿・資料の閲覧・謄写権(会社法374条2項)
⑦ 計算書類を承認する取締役会への出席(会社法376条1項)
⑧ 計算書類の作成につき取締役等と意見を異にする場合における株主総会における意見の陳述(会社法377条)
⑨ 会計参与の職務を行うため必要がある場合における会社・子会社の業務および財産の状況の調査権(会社法374条3項・4項)
⑩ 株主総会における会計参与の選任等についての意見の陳述(会社法345条1項)
⑪ 辞任した会計参与による株主総会における辞任の理由の陳述(会社法345条2項)

 上記の『一問一答』の回答では明らかではないが,会計参与は,計算書類の作成だけではなく,会社の業務監視に係る責務を負っていることは忘れてはならないように思われる(会社法第375条第1項)。
確かに,取締役会設置会社の場合,会計参与が出席義務を負う取締役会は,計算書類等の承認に係るものにとどまる(会社法第376条第1項)。その意味で,この機関選択の会社のみならず,会計参与は,常に業務の全般を知る立場にあるわけではない。
しかし,会計参与は,職務をおこなうため,会社・子会社の業務及び財産の状況を調査する権限を有しているのも事実(会社法第374条第3項)。この会社法第375条第1項の監視義務,消極的なものかもしれないが,決して軽視されてはならない部分である。
「職務を行うに際して」(会社法第375条第1項)に重きを置いて解釈し,この文言によって,監視義務が機能する機会・場面のみならず,監視義務の対象範囲も会計に関するものに限定されると考えるのは,やはり問題がありそうである。

 このほか,会計参与について確認しておきたいのは,任期。解説書によっては「取締役と同じ規律」などといった書き方がされているが,計算書類の共同作成者ではあるものの,取締役の任期と同じものにすることまで要求されているわけではない。条文の規定ぶりも,「第332条は,会計参与の任期について準用する。」(会社法第334条第1項)とあるだけである。

なお,会計参与が監査法人や税理士法人の場合,職務担当者の会社への通知は義務づけられてはいるものの(会社法第333条第2項),職務担当者そのものは登記事項にはなっていない(会社法第911条第3項第16号)。この点については,会計参与が大規模法人の場合は,閲覧・謄写請求をする者の便宜という点でどうか,という声もあるようである。会計参与制度の導入の如何によっては,改正もありえよう。

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