法律の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

認知症の高齢者に対するインフォームド・コンセントについて

2005-10-18 15:29:36 | Weblog
認知症の高齢者治療,医師の8割「同意得るのに困った」 NIKKEI NET

 いわゆる,認知症の高齢者を対象としたインフォームド・コンセントの問題。

 インフォームド・コンセントは,医療行為(投薬・手術・検査など)や治験,人体実験の対象者(患者や被験者)が,治療や実験の内容についてよく説明を受け,理解した上で (informed) ,施行に同意する (consent) 事。内容としては,対象となる行為の名称・内容・期待されている結果,副作用,成功率,予後までを含むことが望ましいとされている。

 手術などは,医的侵襲をともなう。結果によっては,傷害罪,殺人罪等の刑事責任も問題になり得るから,原則として,本人の同意を得ておこなわれる(刑法第35条参照)。
本人の同意を得るのが困難な場合は,家族の同意ということになるが,法的にどのように位置づけられるかを考えると,いろいろ悩ましい問題が潜んでいることに気付く。

 民法上,成年後見人の権限とされているのは,本人の財産に関する法律行為についての包括的な代理権と財産管理権(民法第859条第1項)および本人がおこなった法律行為に関する取消権(民法第9条,同第120条第1項)。
成年後見人には,身上配慮義務として本人の心身の状態および生活の状況に配慮すべき義務が課せられているが,本人に対する医療行為に関する同意見・代理権が認められているわけではない。
この点,立法的に解決をはかり,成年後見人の権限として医療行為に関する同意見・代理権を認めるべき,との考え方もある。

それにしても,調査の回答率が,20.1%と,随分と低い。


刑法の関連条文

(正当行為)
第三十五条  法令又は正当な業務による行為は,罰しない。

民法の関連条文

(成年被後見人の法律行為)
第九条  成年被後見人の法律行為は,取り消すことができる。ただし,日用品の購入その他日常生活に関する行為については,この限りでない。

(取消権者)
第百二十条  行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者又はその代理人,承継人若しくは同意をすることができる者に限り,取り消すことができる。2  詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は,瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができる。

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条  成年後見人は,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては,成年被後見人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(財産の管理及び代表)
第八百五十九条  後見人は,被後見人の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
2  第八百二十四条ただし書の規定は,前項の場合について準用する。

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過払い訴訟における上告審での認諾について

2005-10-18 08:36:58 | Weblog
過払い金返還訴訟:三洋信販、上告審で異例の「認諾」 MSN-Mainichi INTERACTIVE

 請求の認諾は,請求に理由のあることを認める被告の裁判所に対する意思表示。訴訟における処分権主義の顕現の1つであるが,民事訴訟法上,○○○○の段階までおこなわなければならない,といった制限があるわけではない。さすがに,上告審での認諾のみを捉え,濫用的訴訟行為といった構成をするのは難しいように思われる。
原告としても,被告が請求を全面的に認める以上,判決を必要とする理由はなかろう,と一般論としては言える。本訴訟においては,最判はもちろん,下級審判決も残らない。
なお,認諾調書に既判力が認められるかについては諸説あるところだが,判例は,既判力を認めつつ,認諾の無効・取消を主張して手続の続行を求めることも可能とする折衷的立場。

 この認諾,最判が残ることの影響考えた戦略ともいえそう。しかし,上告審で第1小法廷が弁論期日を指定したという事実は残る。「そんなもの」という考え方もあり得るが,最高裁の考えを暗示する資料として何がしかの影響はあるような気がする。どうだろうか。

「他の事案では個別に検討して適切な対応をする」ということだが,記事によれば,三洋信販は500件以上の同種訴訟を起こされているとのこと。同社が苦しい対応を迫られるのは間違いなさそうである。是非とも,「適切な対応」をしていただきたいもの。


民事訴訟法の関連条文

(裁判所及び当事者の責務)
第二条  裁判所は,民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め,当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。

(請求の放棄又は認諾)
第二百六十六条  請求の放棄又は認諾は,口頭弁論等の期日においてする。
2  請求の放棄又は認諾をする旨の書面を提出した当事者が口頭弁論等の期日に出頭しないときは,裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は,その旨の陳述をしたものとみなすことができる。
 
(和解調書等の効力)
第二百六十七条  和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは,その記載は,確定判決と同一の効力を有する。

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今国会での組織的犯罪処罰法等に係る改正の見送りについて

2005-10-18 07:37:21 | Weblog
共謀罪新設:今国会断念へ 民主党の反発強く 政府・与党 MSN-Mainichi INTERACTIVE

 組織的犯罪処罰法の改正案については,自公両党の国対委員長会談で今国会成立の方針が確認されたばかり。23日の参議院補選などへの影響も考えてのようだが,与党内部からも修正論が出ているのであれば,強行採決は避けるべきだ。

 一方で,凶悪な組織的犯罪等により,我々の生活が危険にさらされているのも事実。国連総会で採択された「国際組織犯罪防止条約」に加入するには,国際組織犯罪対策上,共謀罪などの犯罪化が条件になっている。必要であれば,修正を加えたうえ,早期の成立をはかるべきだ。
特別国会後の内閣改造では,法相の交代もありそう。改正案は,来年の通常国会で仕切り直しということか。それにしても,これで何度目?

なお,個人的には,共謀罪に関する一部のマスコミ報道等は,重要部分の説明を端折ったアンフェアなもの,と思っている。

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