作詞家の阿久悠さんが、自分の作った歌出一番気に入っているのはどれかを尋ねられて、それは「ジョニィへの伝言」であると答えたらしい。それを聞いて私はとても腑に落ちた。私も彼の作品の中でそれが一番好きだったからである。 私が高橋真梨子さんの大ファンであるということもあるのかも知れないが、歌謡曲の歌詞にしてはわりとまじめに作っているという気がする。
♪ ジョニィが来たなら伝えてよ 二時間待ってたと
♪ わりと元気よく出て行ったよと お酒のついでに話してよ
♪ 友だちならそこのところ うまく伝えて
♪ わりと元気よく出て行ったよと お酒のついでに話してよ
♪ 友だちならそこのところ うまく伝えて
♪ ジョニィが来たなら伝えてよ わたしは大丈夫
♪ もとの踊り子でまた稼げるわ 根っから陽気にできてるの
♪ 友だちならそこのところ うまく伝えて
♪ もとの踊り子でまた稼げるわ 根っから陽気にできてるの
♪ 友だちならそこのところ うまく伝えて
明らかにこの歌詞の主人公はまだジョニィに未練があるのだろう。それで、二時間「も」待っていたと伝えて欲しいと言っている。二時間も待ったのだから、普通に考えれば相手の人に大きな思い入れがあるはずなのに、「わりと元気よく出て行った」と相反するようなことを、それもお酒のついでに話してとかなり細かい注文を付けている。要するに、相手の男に思いを残していることを伝えて欲しいのだが、決してみじめったらしくなく軽く伝えてと言っているのだ。
阿久さん自身この歌詞には思い入れがあるらしく、この歌詞を英訳して世界に発信したいと考えてさる筋に相談した。しかし、結局その話は流れてしまったらしい。というのは、「友だちならそこのところうまく伝えて」が翻訳できないと言われたというのだ。なるほど言われてみればこれは日本独特のいわゆる「忖度」というやつだ。友達やったらそんなん言わんでも分かるやろというのはアメリカ人には通用しない。「そこのところうまく」ではなく、なにをどのように伝えて欲しいのか具体的に説明せんとあかんらしい。
しかし、ここでふと思ったのはこの歌の舞台はどこなのだろうということだ、たぶん姉妹編「五番街のマリーへ」とともに外国の話だと思っていたのだが、「ジョニィへの伝言」は日本以外ではありえないとなると実は本牧あたりの話なのかもしれない。天国の阿久さんに訊ねてみたいものだ。
横浜 本牧