フィリピン戒厳令1か月超 アジアで新たな拠点構築進める「イスラム国」

2017年06月29日 | フィリピン永住生活、、天国か地獄かな



フィリピン戒厳令1か月超 アジアで新たな拠点構築進める「イスラム国」
6/29(木) 17:50配信 THE PAGE
 フィリピンで戒厳令が発せられてから1か月以上が経ちます。過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う組織とフィリピン政府軍の戦闘は今も続いています。いまフィリピンで、そして東南アジアで何が起こっているのでしょうか。元公安調査庁東北公安調査局長で日本大学危機管理学部教授の安部川元伸氏に寄稿してもらいました。

【写真】アジアも「IS vs.アルカイダ」宣伝競争の舞台に イスラム過激派のいま

フィリピン戒厳令1か月超 アジアで新たな拠点構築進める「イスラム国」
[写真]フィリピン政府軍の空爆で煙が上がるマラウィの街(ロイター/アフロ、2017年6月29日撮影)
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 いまフィリピン南部のミンダナオ島では深刻な事態が発生しています。シリアとイラクで拠点を失いつつあるイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が新しい拠点を求めてアジアに進出してきているのです。フィリピンのミンダナオ島では古くからイスラム教徒による中央政府からの分離・独立機運が高まっており、現在もイスラム教徒が多く居住する地域で自治権をめぐって政権との交渉が続いています。

 ISがフィリピンの政治的混乱に乗じ、イスラム教徒が多く居住し、しかも、ISの最高指導者のアブ・バクル・アル・バグダディ(6月にロシア軍機の爆撃で死亡したとの説がある)に忠誠を誓っているイスラム過激派組織が複数存在しているフィリピンは、ISにとって新たな拠点を作るにはもってこいの場所と言えるでしょう。

フィリピン戒厳令1か月超 アジアで新たな拠点構築進める「イスラム国」
[地図]フィリピン周辺地図
ミンダナオ島で起きていること
 フィリピンでは、2017年5月下旬から、ISに忠誠を誓っている「マウテ・グループ」及び、シリア、イラクのISの拠点からフィリピン南部に新天地を求めてやってきた国籍の違う外国人戦士たちがフィリピン政府軍と戦っています。ISの戦闘員たちは、ミンダナオのマラウィ市に乗り込み、街を占拠。キリスト教会を破壊し、一般市民を殺害し、人質を取って首を切り落とすなど、シリア、イラクとまったく同じやり方で残虐の限りを尽くしています。

 フィリピンのドゥテルテ大統領は、ロシア訪問を途中で切り上げ、帰国前の5月23日にミンダナオ全島に戒厳令を発令しました。

 テロや麻薬犯罪などの取締りには常に強硬姿勢で臨んでいる同大統領は、この国の一大事に素早く反応し、マウテ・グループとISの戦闘員に対して空軍機による爆撃、戦闘用ヘリ、大砲等の重火器類を動員して大規模な掃討作戦を実施しました。フィリピンにISの拠点など決してつくらせてはならないとの強い意志がうかがえます。フィリピンではかねてより、北部ルソン島で共産党系の新人民軍などのゲリラ組織が跋扈し、南部ミンダナオ島ほかでは「アブ・サヤフ」「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)などのイスラム過激派グループが中央からの分離・独立を求めて政府軍や警察部隊と激しい戦闘を繰り返してきました。

 ここでさらなる治安の脅威が噴出すれば、GDPの1割以上を稼ぎ出している観光収入にも影響が出ることは必至ですし、何よりも政府が目指す治安対策も失敗に終わり、大統領のメンツも丸潰れになってしまいます。今回のフィリピンの状況についてのニュースが多くないのだとしたら、ドゥテルテ大統領としては、この深刻な事態について外国メディアにはあまり詳細を発表したくなかったのだと思われます。

 しかし、ISにとっては、フィリピン国内に更なる政情不安をもたらせば、ISがアジアに進出し、新たな拠点を構築するには願ってもない好条件になるのです。


アジアでISに忠誠を誓うテロ組織
 ISは、2014年6月の「カリフ国」建国宣言以来、世界中に自らの版図を拡大していくことを公言していたため、その勢力伸長の方向を、イスラム教徒が多く居住しISに忠誠を誓う組織が多く存在する地域を選んできました。そしてもう一つの大事な条件は、その地域で独立運動や分離主義者による反政府運動などが活発に行われており、政情が混乱していることが必要でした。

 現在、ISに忠誠を誓うかISへの支援を申し出ているイスラム過激派組織は世界に50近くあるといわれていますが、アジアに限定すると、フィリピン56組織、インドネシア3組織、パキスタン3組織、アフガニスタン2組織で、フィリピンを除くといずれもイスラム教徒の国民が多数を占める国となっています。こうした国からISへの参加を目指して数千人の若者たちがシリアとイラクを目指しました。ISの首都ラッカやイラクの最大拠点モスルが陥落寸前まで追い込まれていることから、こうした外国人戦士の一部がシリアやイラクにいられなくなり、続々と母国に帰還し、あるいは新たな拠点を求めて紛争地帯などに移動しているのです。

フィリピン政府と戦うマウテ・グループ
 上記のように、フィリピンにはISに忠誠を誓っているグループはいくつかありますが、ISは現在アルカイダと袂を分かっているので、アルカイダ全盛時代にオサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓っていた組織とは距離を置いています。しかし、ISの最高指導者アル・バグダディは「イスラム国」建国時に、世界のムスリムに参加を呼び掛けた都合上、忠誠を誓うと言われれば、これを拒むことはできないはずです。今回の戦闘の発端となったのは、フィリピン政府軍によるIS東アジア支部の司令官(エミール)イスニロン・ハピロン捕獲作戦にあったのですが、この人物は、以前はアルカイダから資金、武器、訓練などを提供されていたアブ・サヤフの幹部でした。同じく、インドネシアの「ジェマー・イスラミヤ」(JI)もアルカイダとは密接な関係を維持し、二度にわたってバリ島で爆弾事件を起こし、さらに、ジャカルタの豪州大使館、米国資本のホテルを爆破するなど、アルカイダの方針を踏襲する形で数々のテロ事件を起こしてきました。JIの場合も、本隊から分離したグループであれば、アル・バグダディに忠誠を誓うことで組織に受け入れているようです。

 いま政府軍と戦っているIS配下のマウテほかの勢力は、恐らく数百人規模ではないかといわれています。マウテとは、同組織リーダーのマウテ兄弟(兄アブドゥラ・マウテ、弟オマール・マウテ)の名からとったもので、2012年か2013年に設立された地元の組織です。マウテ兄弟は二人とも中東の大学で学んでおり、兄はエジプトの名門アズハル大学を、弟はヨルダンの大学を卒業しています。共にアラビア語を話し、サラフィー主義とジハーディストの思想に精通しているといわれています。


アジアでテロが起きる前にISの根を断つ
 ISがフィリピン国内に拠点をつくり、イラクでしてきたように、カリフ国の建国宣言でも行ったら大変なことになります。ISが一定地域を占領すれば、住民を力で服従させるために残虐の限りを尽くすでしょう。また、これまでのように全世界から戦闘員が集まってきて泥沼の戦いが何年も続き、フィリピン南部に有志連合の戦闘爆撃機が飛んできて猛爆撃するようになるかもしれません。ISは、話し合いで問題を解決するような組織ではありません。当然、アジアの近隣国、日本、韓国、中国までもテロの脅威にさらされる恐れがあります。ドゥテルテ大統領の脳裏には、こうした悪夢がよぎったことは間違いないでしょう。脅威の根は今のうちに刈り取っておかなければなりません。

 5月に戒厳令が布告されて政府軍も大量に兵力と武器を投入し、強気に戦闘を展開していますが、なかなかマウテとISを壊滅させることができず、政府軍側にも焦りの色が見えるようになりました。ISの戦士はこれまで何年も実戦を経験してきた猛者ばかりですので、戦術に長けていることは事実でしょう。戦闘に参加している政府軍関係者によれば、マウテ・IS側の戦闘員はよく組織され、粘り強く戦っているとのことです。さらに、ISは、地元住民を盾に使い、幼い子供を戦闘員に組み込んでいるといわれますので、政府軍はなかなか強行突破もできないのです。

イスラム系住民の不満や政情不安定さ狙う
 ISという一筋縄ではいかない強靭なテロ組織がフィリピンを新しい拠点候補に選んだのはなぜでしょうか? ISは、フィリピンに進出する前、インドネシアに拠点を構えようと画策し、自爆要員を送り込んでテロを起こしたりしました。しかし、ジョコ・ウィドド政権のテロ対策が奏功してISの思惑通りには事が運ばず、その矛先をフィリピンに変えたという経緯がありました。インドネシアとフィリピン南部は、状況の相似性から対で考えれば良いと思います。また、東南アジアでは、ムスリム人口が多くイスラム過激派が支援を受けやすいのは、フィリピンが北限になっています。かつてアルカイダも、フィリピンまでは影響力を拡大することができました。

 インドネシアの次にフィリピンが狙われた理由としては、上述のように、(1)ISに忠誠を誓っている組織が複数存在すること、(2)多数派のキリスト教徒に比べイスラム系の住民は概して貧困に苦しめられ、政治面、社会面、宗教面でも不満を抱えている、(3)国内に分離・独立運動が存在し、常に政情が不安定、などが考えられます。さらに、フィリピンの特徴として注目すべきことは、同国の地理的特殊性があります。特に南部ミンダナオと同じイスラム圏のマレーシア、インドネシアのとの間の海上国境線が極めて複雑で、麻薬密輸、海賊などの犯罪の巣窟になっているほか、外国人テロリストも武器を携行して自由に国境を行き来できるという点です。

 現時点では、政府軍は苦戦を強いられながらも、大統領のプライドを満たすためにも単独での事態収拾を考えているようですが、周辺国に対するISの潜在的な脅威を考えれば、国際社会全体の問題として対処する必要があるでしょう。







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