極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

超伝導の錬金術

2012年10月01日 | 日々草々

 

 

電気抵抗がゼロになる超電導の仕組みは1957年に米国のバーティーン、クーパー、シュリーファーら
によって解明され、この三人は、この業績により1972年のノーベル物理学賞を受賞している。この理
論は結晶が柔らかくなればなるほど超電導に移行する温度が高くなることを示し、錫や鉛のような柔
らかい金属は比較的高い温度で超電導になることが知られている。しかし、結晶を柔らかくする方法
は知られてなかったため、高温超電導材料の開発は進まなかった。岡山大学大学院自然科学研究科の
工藤一貴助教と東京大学物性研究所の廣井善二教授らの研究チームは、ニッケル化合物にリンを加え
ると、リンの濃度が7%の時、結晶が最も柔らかくなり、転移温度が 3.3ケルビン(マイナス270℃)
となることを発見した。これはリンを混ぜない場合の超電導転移温度 0.6 ケルビン(零下272.6℃)
に較べて5倍以上の上昇し、結晶が柔らかくなると、強結合状態※という高温超電導に有利な状態に
移行することも明らかにしたという(2012.8.29、米国物理学会速報誌 Physical Review Letters 掲
載)。

※粒界を通過する臨界電流密度が粒内と同程度である状態を示す。高温超電導体のコヒーレンス長は
 短いため,ナチュラルバリヤーすら存在しない理想的な接合でなければにはなりにくい。

※コヒーレンス長とは、超伝導における電子の対(クーパー対)の空間的な広がりを表す長さの尺度
 のこと。ピパード (B. Pippard) が最初に提唱した。

また、同じ岡山大学大学院自然科学研究科の研究グループでは、三角格子イリジウムカルコゲナイド
(IrTe2)に形成されたIr直鎖の分子状クラスターが、3%の白金をドープし融解すること、すなわち
Ir直鎖の化学結合が切断されることを発見。化学結合を切断すると直ちに臨界温度3.1 K(ケルビン)
の超伝導が現れるというもの。(Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)、2012.5掲載)。



これは、IrTe2における分子状Ir鎖の形成が、Irのt2g軌道の秩序化が関係し、t2g軌道に属する dxy,
dyz, dzx軌道の一つを電子が選択的に占有することで軌道が規則的に配列し、軌道の電子雲が伸びる
b軸方向にだけ化学結合が形成されたのではという仮説により説明でき、軌道の規則的配列が、銅酸
化物などのスピンの規則的な配列に類似し、これらがバラバラに融解したところで超伝導が発現する
ことも 互いに類似し、軌道秩序の実験的観察や、軌道揺らぎによる超伝導など、今後の展開が期待さ
れている。

 


 


超伝導や高温超伝導の実用化技術の進歩は年々増してきている。その一例として超伝導モータを用い
た船舶用ポッド型推進装置などが挙げられるが、と同時に理論的・基礎的な分野のでの解明もまだま
だという感があるが、その突破の糸口として、岡山大学グループの今回の2つの発見および解明を取
り上げてみた。例えば、下表の転移温度と材料化合物との特異的構造法則が解明されれば、自由自在
に高温(常温)超伝導物質が現代の日本の錬金術師達により創製される時代がそう遠くない未来に実
現されるかも知れない。

 

 

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