極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

トライコームの解剖

2011年11月17日 | 新弥生時代



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植物は柔軟に環境に適応し繁栄してきた。外界に接する表皮細胞は、
形や大きさを変えた器官を作ることが知られている。根では、根毛
の数を調節し土壌の水分や養分を効率よく吸収し、地上部では葉や
茎の表面にできるトライコーム(毛状突起)の数を調節して害虫、直
射日光、UVから身を守り、水分蒸発を防く。代表的なモデル植物で
あるシロイヌナズナの根毛やトライコームは、単純な形態が観察しや
すいので、これまで植物の形態形成を研究するための重要な研究材料
にされてきた。

 

 

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野生型のシロイヌナズナの根の表皮細胞は、規則的に根毛細胞と非
根毛細胞に分化。根の横断面を見ると、通常、根毛細胞どうしが隣
り合って形成されることはない。またトライコームは、葉や茎の表
皮細胞が突出することで形成される器官。野生型のシロイヌナズナ
のトライコームは3本の枝分かれした角を持つ構造で、隣り合って
できることはない。シロイヌナズナを使った分子遺伝子学的研究の
発展により、根毛とトライコームが共通の転写因子によって制御さ
れていることが明らかにされてきている。根毛の数が、極端に少な
くなるシロイヌナズナの突然変異体が発見され、気まぐれ、という
意味でCAPRICEと名付けられた。この気まぐれにしか根毛を形成し
なくなる
突然変異体の原囚遺伝子は、MYBファミリーに属とする転
写因子で、転写因子は、様々な遺伝子のオン、オフに関わるスイッ
チの働きをするタンパク質だ。

ファイル:Zinc finger DNA complex.png

CPC遺伝子が壊れた突然変異体では根毛数が減るが、CPC遺伝子を過
剰に発現させると、突然変異体の表現型とは逆に、根毛の数が多く
なった。このことから、CPC遺伝子は根毛を作る働きがあると証明
された。また、CPC遺伝子は、葉のトライコームの形成にも関与し
ているという。CPC遺伝子突然変異体のトライコーム数は野生型よ
りもやや多いのに対し、過剰発現体では全くトライコームがなくな
った。つまり、CPC遺伝子は、根毛を作りトライコームをなくす機
能を持つことが明らかになった。シロイヌナズナのゲノムには、
C
PC遺伝子に似た配列を持つ遺伝子(ホモログ)がいくつか存在しフ
ァミリーを形成することもわかった。

 

冨永るみらの研究から、CPC遺伝子ファミリーのメンバーが協調し
合って根や葉の表皮細胞分化を制御していることが明らかになった。
CPCファミリーを形成するそれぞれの遺伝子は、もとは1つの遺伝
子から遺伝子重複によりでき、それぞれ別のタンパク質機能を獲得
するよう進化している途中と考えられ、各CPCファミリー遺伝子の
解析を進める中で、CPC遺伝子が深い機能を持つことが明らかにな
ったCPL3遺伝子突然変異体は、野生型に比べて成長が植物体が大き
く、CPL3遺伝子の過利発現体は矮化する。このような植物体の大き
さの変化は、他のCPCファミリー遺伝子の変異体や過剰発現体では
みられない。つまり、CPL3遺伝子はCOと拮抗しFTとSOCI遺伝子の発
現抑え、花成りを抑制することが示唆しているという。

 

はしおってきたが、例えば害虫の食害にあうと、防御反応として新
しい葉でトライコームをたくさん形成することが、多くの植物で報
告されている。トマトは、先端の尖ったトライコームと、先端に抗
菌性の物質を溜めた分泌性のトライコームを作り、外敵に備えてい
る(上図)。CPCCに相当する遺伝子がトマトにも存在していといると
いうが、他の作物でも、同様のCPC様遺伝子がある可能性が高い。
これらは外部遺伝子導入でないため、「遺伝子組換え植物」には当た
らない
。したがって、商業化に際しての法的、あるいは環境的懸念
はない。この遺伝子機能を利用し、トライコームを改変することで
農薬に頼らず、安全で病害虫抵抗性の高いトマト等の作物の作出が
期待される
。この様にトライコームは、害虫が葉によじ登ったり葉
をかじったりするのを物理的に邪魔するだけでなく、揮発性の忌避
成分をトライコーム内部に溜め植物体を守っている。また、テルペ
ン等の芳香揮発成分を蓄積し、ペパーミントのミントオイル、ビー
ルの材料となるホップのエッセンシャルオイル等の有用二次代謝産
物もトライコームに蓄積する。CPC様の遺伝子突然変異体を探索し、
トライコームを過剰に形成させることで、これらの有用化合物の増
収も可能となる。
現状ではごく少量しか採取できない天然の抗菌物
質やアロマオイルを多量に含む植物の作出が期待できる他、絹製品
の材料となるワタの繊維細胞は、ワタ種子の表皮細胞トライコーム
であり、トライコーム関連遺伝子の改変により、綿繊維の増収や品
質改善への利用もできると期待されている。

ところで、現在の日本で、バイオテクノロジー人材の供給過剰が深
刻な社会問題になっている。これは、2007年の日本のバイオ産業市
場は、前年比で10.8%成長しているものの市場規模は約 2兆2992億
円に留まっている。政府のバイオテクノロジー戦略大綱が想定して
いた「2010年において市場規模25兆円程度」の約9%にすぎず戦略
大綱は事実上破綻していると批判されている。これに対し明快な回
答を持っていない。強いていうなら、研究成果が蛸壺になり横串と
いうか成果の集中応用力に欠けているのではないかと考えている。
これについては改めて考えてゆきたい。



はやいものだ。師走の足音が聞こえてきそうだが、こころが折れそ
うな中、ラブラドルレトリバー「ジュニア」のエピソードはホット
して泣けるニュースだ。


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