大人

愛する事の深淵さ。
表面的なことや見かけだけに反応することの愚かさ。本来ひとつである生命の働きに枠を作ってしまう意識を超えるには、認識を変えること、それには些細な変化も見逃さず、相手に関心を持ち続けることである。

愛について考察したエーリッヒ・フロムは「愛するということ」においてこういった事を端的に表現する。

「すべての人間がもつ人間的な核は同一であり、それに比べたら、才能や知性や知識のちがいなど取るに足らない。この同一感を体験するためには、表面から核まで踏み込むことが必要である。もし私が他人の表面しか見なければ、ちがいばかりが眼につき、そのために相手と疎遠になる。もし核まで踏みこめば、私たちが同一であり、兄弟であることがわかる。表面と表面の関係ではなく、この中心と中心との関係が「中心的関係」である。」

さらにシモーヌ・ヴェイユの言葉を引用して続ける。

「同じ言葉[たとえば夫が妻に言う"愛しているよ"]でも、言い方によって、陳腐なセリフにも、特別な意味を持った言葉にもなりうる。その言い方から何気なく発した言葉が人間存在のどれくらい深い領域から出てきたかによって決まる。そして驚くべき合致によって、その言葉はそれを聞く者の同じ領域に届く。それで、聞き手に多少とも洞察力があれば、その言葉がどれほどの重みをもっているかを見極めることができるのである」

全ての学びはある意味でこの洞察力を高めるための取り組みとも言える。愛は全ての源泉である。そして愛はどこまでも深淵なのである。今こういった事が実に表面的、または簡易的に捉えられて、実に薄っぺらい事象に溢れていると感じます。誰がどういう場面で、どのような言い方でその言葉を伝えているのか。もしかしたら自分の洞察力のなさで、その真意をわかっていないかもしれない。真意が分かり合える関係はどんどん広がり、人間が大きくなっていく。今、必要とされるのはわかる人間であり、大きい人間と感じます。つまりは大人が必要なのです。