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奈々の これが私の生きる道!

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源氏物語の魅力 紫の上の苦悩と哀しみ

2010-12-09 10:02:42 | 源氏物語
前回、光源氏が女三の宮を妻に迎えるまでの経緯をごく簡単にご説明させていただきましたが、ここで私は紫の上について詳しく書かずにはいられなくなってしまいました。

この若菜の章ほど、紫の上の苦悩と、哀しみが克明に書き込まれている章はないからです。

紫の上は、朱雀院が、光源氏に女三の宮を降嫁させたいという噂を小耳にははさんでいましたけれど、光源氏がその話を引き受けるはずがないと、自分への愛の揺るぎない事を信じていました。
ところが、光源氏は朱雀院に女三の宮との縁談を断ろうと話しているうちに、何度も懇願され、次第にその気になってしまうのです。
その主な理由は、女三の宮が、永遠の憧れの女性、藤壷の姪であるという点に惹かれたからなのですが、紫の上を大事に思う光源氏は、彼女に女三の宮との結婚を決意したとは、なかなか言い出せないのです。
しかし、この件に紫の上は、朱雀院のたっての願いだったので、光源氏が断りきれなかったのだろうと思い、理解を示し、表面上は平気な顔を取り繕うのです。
しかし、うわべは朗らかに明るく振る舞いながらも、心の奥底では思い悩み、じっと耐え忍ぶ紫の上なのです。

そうして、二月十日が過ぎて、いよいよ女三の宮が六条院にお興し入れする日がやってきました。
つまり、今で言う結婚式です。
紫の上はついに来る日が来たとばかりに、穏やかな気持ちばかりではいられないのですが、お興し入れの前後、光源氏と心を合わせて、女三の宮のお世話をし、紫の上の心中をおもんばかる光源氏はそのいじらしい様子に、ますます紫の上が好きになるのでした。

ところで、この頃の結婚はお興し入れしてから三日は妻のほうへ通わなければならないしきたりになっていて、それまで、いつも光源氏と床を共にしていた紫の上は独り寝が淋しくてたまらなくなります。
一方、光源氏にしても紫の上が気掛かりでならず、夢にまで見るので、朝早く、女三の宮のところを出て、紫の上のいる東の対にいそいそと帰るのです。
そんな光源氏を、紫の上は涙で濡れた着物の袖をそっと隠して、いつもと変わらない優しさで迎えるのですが、これまでにはない冷たさもちらりと見せるのです。

光源氏は、そんな紫の上がいとしくてならず、女三の宮に手紙だけ届けて、紫の上の機嫌をなおそうと、なだめすかして、一日中、つきっきりでいるのです。

しかし、この光源氏、天性のプレイボーイだけあって、女三の宮と紫の上だけでは満足出来ず、朱雀院が出家したのに伴い、お側に仕えていたかつての愛人朧月夜が二条の邸に帰ったと知って気がそぞろになり、居ても立ってもいられなくなり、こっそり会いに行くのです。
この光源氏の情熱に、もう過ぎた事と最初は拒み続ける朧月夜なのですが、昔、光源氏が自分との恋で須磨送りになった事を思い出し、再び体を重ねてしまうのです。
ところが、それが紫の上の知るところとなり、「ずいぶん、若返られた事。昔の恋までぶりかえすようでは私はますます心細いですわね」と、ちくりと言って、そっと涙ぐむのです。

そうして、夫と朧月夜との関係に嫉妬する紫の上なのですが、嫉妬も度が過ぎれば、どんな男性でも恋が冷めてしまうところを、紫の上の場合、ちょっとにじませるくらいなので、かえって可愛いらしく見えるのです。
しかも、紫の上はとても思慮深くて優しく、女三の宮とも敵対するのでなく、自ら進んで会う機会を作り、自分達の血縁関係を話したり、幼い女三の宮が喜びそうな絵物語や人形遊びの話をして気遣い、女三の宮は紫の上にとても優しい人と気を許すのです。

また、この紫の上の優しさを窺い知るエピソードに、明石の女御との心温まるお話も書かれています。
明石の女御は、かつて光源氏が朧月夜との不倫が帝に知れ、須磨送りになった時に出会った明石の君との間に出来た娘でした。
つまり、紫の上にとって憎らしい恋敵の娘になる訳です。
ところが、この明石の女御を、紫の上は赤ん坊の頃から大事に育て、東宮の女御にまでさせるのです。
そのいきさつを祖母の明石の尼君から聞いた明石の女御は遠い田舎で生まれた身分の低い自分を高貴な姫君として誰にも恥ずかしくないように育ててくれたと、心から紫の上に感謝するのです。


この若菜の章には、紫の上の人柄が生き生きと描かれていて、私は彼女の女性ならではの気持ちや優しさに感動すると同時に、愛する人に裏切られ続ける彼女がかわいそうでならず、何度読み返しても涙がこぼれるのを抑える事が出来ないのです。

しかし、だからと言って、私は光源氏に恨みがましい事を言う気持ちには、とてもなれないのです。
それは、光源氏が、もっとも愛情を必要とする幼い頃に亡くした母親への思慕の念から、その身代わりとして女性遍歴を繰り返し、いかにしても彼の心が愛情で満たされる事はなかったからです。
だけど、光源氏のそうした行為が紫の上を、どれほど悩ませ苦しめた事でしょう。
結局、紫の上は、光源氏の愛を充分に受けられなかったのが原因で、命まで縮めてしまうのです。

でも、私は紫の上の悲劇の原因は、光源氏の愛情が満たされなかった事と同時に、彼の子供を授からなかった事にもあるように思えてならないのです。
私は、夫婦の間に子供を授かり、共通の目的を見いだして、苦楽を共に育てていく事で、夫婦の愛情が増していく事ってあると思うのです。

たとえ、光源氏が冷たくしても、子供に愛情を注ぐ事で、紫の上の寂しさはかなり慰められたのではないでしょうか?

しかし、今更もう過ぎた事を言うのはやめにしましょう。

二人の運命は見えない糸に操られるかの如く、柏木という男性をおびき寄せ、悲劇の輪はさらに大きく広がり、光源氏と紫の上は否応なく暗い奈落の底に堕ちていくのです。

では、柏木はどんな不幸を二人にもたらすのでしょうか?

つづく



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