

先日、鹿児島の手塚治虫展に行って、すっかり感激した私は、手塚先生の作品を読んでみ
たくなっちゃいました♪
そこで、私が選んだのは、前々から読みたかった漫画少年版の「ジャングル大帝」でした。
ジャングル大帝
それは私が幼い頃、夢中で観ていたテレビアニメのタイトルであり、1977年に刊行が始
まった手塚治虫漫画全集の記念すべき第1号だったのです。
この漫画を皮切りに、それまで読むのは叶わないと思っていた幻の手塚作品が次々に刊行さ
れて、私はどれほど喜んだ事でしょう・・・(涙)
そういう訳で、すごく感激して読んだのですが、確かに素晴らしい作品には違いないものの
、何か少しチグハグな印象を持ったのです。
どうしてでしょう?
その訳は第3巻の手塚先生自身による後書きに書いてありました。
最初に描いた「ジャングル大帝」の原稿はテレビアニメのスタッフが、絵の練習をしたいと
言って持ち出し、そのスタッフが急死したために、行方知れずになり、手塚先生は我が子の
ように大事な「ジャングル大帝」の原稿を失った悲しみで、声をあげて泣かれたとか。
その後、当時の印刷技術で、出版物から復刻するには大変な費用がかかるというので断念さ
れ、紛失した原稿、つまり前半のほとんどをあらたに書き直す事にしたそうなのです。
しかし、最初に漫画少年に描いたのが、昭和25年で、15年の歳月が経っており、どうし
ても当時の絵のような味は出せなかった。
だから、ところどころスピード感や絵のタッチが違ってて、私が読んでもチグハグに思えち
ゃった訳。
そういう訳で、最初に発表された漫画少年版で読めたらなと、ずっと淡い気持ちを持ち続け
てたんです。
無理だろうなという気持ちの方が強かったですけど。
しか~し!
そんな事なんか、すっかり忘れてたこの年齢になって、印刷技術の向上と、漫画少年版を読
みたいというファンの熱い思いが結実し、ついに実現しちゃった訳なのであります!
ブラボー!
ブラボー!
ありがとうございます!
これもひとえに皆さんのおかげです。(涙)
ところが、どこにでも不埒な輩はいるもので、この漫画少年版にケチをつけた人がいるんで
す!
その人によると、テレビアニメでも胸を熱くした描き直し版の、レオが海を泳いで、蝶々の
群れに導かれてアフリカ大陸を目指す場面が描かれてないとか、ラストのレオに似た雲の場
面がちっちゃくて、もの足りないとか、スピード感がまるでないとか、いろいろ不満を書き
並べていたんです。
ようするに、手塚先生が若い頃に描いた漫画少年版より、ベテランになって円熟した腕で、
後年描き直した方が優れてると。
ええ!そうなの?
そんな感想を聞いて、ぐらつく私。(苦笑)
でも、もしかしたらそうかも知れない。
私がぐらついた理由は、「リボンの騎士」の少女クラブ版と、なかよし版が頭をよぎったか
らなんです。
この両者を比較すると、最初の少女クラブ版は絵が小さくて、ちまちました印象があり、大
事な場面もあっけない描き方がしてあって、どう見ても後年描かれたなかよし版の方が優れ
ていると思えてならないのです。
という事は、やはり「ジャングル大帝」も、大ベテランになって、腕が上達した描き直し版
の方が優れてるのでしょうか?
描き直し版での名場面はなくても、漫画少年版には漫画少年版の良さはないのでしょうか?
一体、どうなってるの~!
これは読んで、確かめるしかないですよね?(笑)
そこでネットで、中古を半額以下で手に入れて読んでみました!
なに~!
それでも手塚治虫の大ファンか~!
なぜ、正規のルートで手に入れん!!
きゃー!
お許しあれ~!!(笑)
この「ジャングル大帝」は昭和25年に漫画少年という雑誌で連載がスタートし、昭和29
年まで続いたパンジャ、レオ、ルネの親子三代にわたる大長編ストーリー漫画です。
まず、初めに感じたのは一コマの中に登場人物や動物の全身がたくさん描いてあり、その影
響で小さく見える。
内容が濃密で、少ないページでいくつもエピソードが繰り広げられる。
大事な場面の見せ方はたしかにあっけない気がしないでもない。
う~ん、不吉な予感が・・・(苦笑)
しかし、読み進めていくうちに、キャラクターの丁寧な描き分けがなされていて、それらの
キャラクターのエピソードが主要なストーリーと、時に並行し、時に交錯して、とても緻密
に展開して、最初の不満はどこへやら、だんだん引き込まれて、時間が経つのも忘れて、夢
中で読んじゃいました♪
この作品には人生の様々な要素がたくさん盛り込まれています。
まず、漫画なのに、主人公のレオがだんだん成長していくところも目を引きますね。
レオは、百獣の王ライオン、パンジャの子供として生まれた時はすでに父親は亡くなってい
て、生まれて、すぐに母親にも死なれ、人間の世話になったのをきっかけに、人間界に興味
を持つようになるのです。
それに、ケン一やメリー(女王コンガ)、ハム・エッグ、アセチレン・ランプ、ヒゲオヤジ
などの登場人物や、動物ではレオの妃ライヤとの愛情物語、同じライオンでありながら敵対
するブブと黒豹のトット、人間の真似をするレオに反対するバグーラ、ムーン山に住むマン
モスのおふくろさんらがレオと絡み、大陸移動説の謎を解く月光石をめぐって、ストーリー
が展開していくのです。
読み終わった私の瞳にはいつしか涙が・・・
手塚先生はこの作品を通じて、読者にこう訴えたかったそうです。
私が描こうとしたのは、大自然と生き物との絶える事のない闘争と征服と挫折の歴史でした
。
「国破れて山河あり」という言葉通り、この物語のクライマックスは、最後のムーン山に挑
んだ主役達が、ほとんど死んでしまいます。
しかし、それは宿命的な悲壮感よりも未来への期待を歌い上げて終わりたかったのです。
滅びても消え去っても、なお新しい生命が自然に向かって挑む姿に敬意を表したかったので
す。
登場するキャラクターが多く、人生の深淵にまで到達した複雑で優れた作品を、誰でも楽し
めるように娯楽性豊かな子供の読みものにした手塚治虫先生の偉業に、あらためて敬服した
私でした♪