風 雑記

建築とその周辺で感じたこと、思ったこと

食肉衛生検査所

2022-01-09 14:07:46 | 日記

 

熊本県の食肉衛生検査所公募プロポーザルに風+丸岡共同企業体で応募し、2018年2月に設計者に選定、約8か月の設計と4期に分けた工事を経て2021年12月に新しい食肉衛生検査所が完成しました。

食肉の衛生検査業務は周辺にある畜産流通センターで食肉処理された検体や熊本県内の検体を採取し、検査で安全を確認する施設です。私達の生活に直結していますが、食肉処理するとはある意味生あるものの犠牲によって成り立つことになります。

実は公募プロポーザルに応募するかどうか迷っていました。私は建築設計は依頼主、利用者への夢を具現化する仕事で、そのためのイメージや思いを大切にすることを設計の原点にしています。その思いを持てるのか自信がありませんでした。熊本県ではフードバレーアグリビジネスセンターの設計実績があり、そこは農産物の商品や加工などを研究する施設です。その実績からの応募資格があるので、県からも参加資格があるので応募を検討してくださいとの話がありました。

2018年1月に当時の食肉衛生検査所に施設見学に伺いました。菊池市七城町の丘陵地帯にいくつもの食肉関係工場があり、その中央部分に検査所はあります。敷地内にはイチョウの木が沢山植えられていました。肥後藩にちなんで54本のイチョウが植えられていました。

施設の方に話を伺うと、検査される職員は全て獣医の方で、とても率直に話され業務に責任感を持っておられることが伝わってきました。施設の中も見せていただき、どのような体制で業務をされているかも理解できました。

この見学を通して、この公募プロポーザルに応募することを決めました。「産業動物への感謝と職員の方々へのリスペクト」が設計のコンセプトになりました。

熊本県では新しい施設は基本木造にすることになっていますので、木造の魅力を活かせる設計を提案しました。出来る限り、私は県産の流通木材を使い、県内の大工技術で建てることを基本にしています。また自分で細部まで部材寸法、組み方、仕口・接手を工夫して木架構を考えていきます。

それと同時に省エネルギー化も設計のテーマです。食肉衛生検査所は事務棟と検査棟を2棟に分け、事務棟は木造、検査棟はRC造にしました。検査棟も木造にすることは可能ですが、BSL(バイオセイフティレベル)の将来の高度化を考慮すると、木造でレベル3に対応するのは困難だと考えました。RC造であれば一番厳重な気密対策も確保可能です。事務棟と検査棟も外断熱化を徹底し、事務棟には太陽熱空気集熱を採用し、事務室(床下空調)以外の諸室の温熱環境改善と新鮮空気換気を行いました。

事務室や会議室は木組を見せ、壁は杉板と和紙で優しい空間としました。トイレも杉のトイレブースです。

食肉検査はハードな業務ですし、検査室はどうしても無機質にならざる得ません。

デスクワーク時は、木の空間が癒しやアメニティ効果が持ってくれ、気持ち良く業務ができればと願い設計しました。

木造建築でのもう一つのテーマーは、一般流通木材の4寸角柱で如何に強固に組むかと言うことです。一本の柱に四方から梁が来ると柱にホゾが必要で、断面欠損が大きくなります。大きな地震が来た時に欠損が大きいと壊れなくても歪みや変形が発生します。そこで大きなスパンの柱は2本組や4本組にすることで、柱、梁とも欠損が小さくなり部材そのものの強度が確保できます。そして4本組にすることで梁下に添え梁をして組めば強度はさらに高くなります。なんてことを楽しみながら考えることが大好きです。

建築の魅力は機能やアメニティ向上、メンテナンスも大切にしながら、建築そのものの強度や省エネルギーなど様々な技術を組み合わせる事で、永く愛着を持てる建物になるのだと思っています。

 


冬の寒さと太陽熱パッシブソーラー

2021-01-06 11:32:54 | 日記

明けましておめでとうございます。

今年の冬はとても寒いらしく、コロナの影響もあり自宅で過ごす時間も多いかと思います。

風設計室は20数年、太陽熱空気集熱パッシブソーラーの設計を数多く手掛けています。

設計する建物には出来れば全て取入れたいとも考えています。

自宅で過ごす時に住まい全体が温かいことは、安心とやすらぎをもたらしてくれると思っています。

太陽エネルギーは無尽蔵であり、ある意味地球の自然は太陽エネルギーによる恩恵で成り立っています。

太陽熱空気集熱パッシブソーラーは金属屋根の下に3cmの空間を造り、軒先から入った新鮮空気を暖め、その空気集めて床下の基礎コンクリートに送り蓄熱します。そして住まいの外壁側の床から室内に循環します。

冬の快晴の日は最高50~60℃の棟温度になります。その空気を床下に送ることで、家全体の床表面温度が20℃程に保たれます。蓄熱された熱は少し時間をおいて効果が出ますので、夕方から夜にかけて室温も温かくなります。

このシステムで稼働するのは一台のファンだけですので、太陽エネルギーは当然タダ、ランニングコストは3,000~4,000円/年程度です。

夏はファンが逆送風し、屋根裏の熱気を軒先から出して屋根の温度を下げるとともに室温も下げてくれます。

もう一つの利点は、常に新鮮空気で換気してくれることです。冬は乾燥しますが洗濯物は室内干しで良く乾きます。温かい空気で換気することでコロナ対策にも役立つはずです。

阿蘇の住まいの12月初旬の一週間の温度記録です。

赤線が棟の集熱温度、青線が室温、緑線が外気温度です。

外気温が零下になっても室温は16℃以上を保っています。家全体がこの温度で維持できれば、くらし易く、ヒートショックも無くなります。

建て主はエアコンはほとんど使わないでも暮らせると言われます。

これまで住宅や施設40棟に取り入れました。建て主は「こんな良いものがなぜもっと広がらないの」とよく言われます。太陽熱空気集熱パッシブソーラーを取り入れることは建物全体に工夫が要ります。そして長く付き合う覚悟が要ります。その覚悟がなかなか難しいのかもしれません。

 


阿蘇の家

2020-04-29 15:21:53 | 日記

阿蘇地域には医療関係3件、福祉関係3件、保育園、青少年交流の家、YMCA阿蘇キャンプメインホール、なみのやすらぎ交流館(小学校のリノベーション)、別荘など10数棟の設計を手掛けているのですが、住宅の設計は初めてになります。

阿蘇の家は7年前に一度基本設計まで手掛けていて、敷地の関係で保留になっていたものです。今回は新たな敷地での再設計となりました。

国道57号線から200m程北側の敷地で元は畑だった所です。最初敷地を見たときは周辺を住宅に囲まれていたので、設計の芯になる部分を探しました。阿蘇の魅力はやはり阿蘇五岳と外輪山の風景です。敷地の中央に伸縮式の脚立を立て、約2.5M程の高さから4周の風景を見て、南東の方角に根子岳と外輪山が見えました。

南東の山の風景を阿蘇の家の設計の芯にすることにしました。建物のフロアーラインを地盤から1.0M近く高くすることで、外から見る視線と住宅からの外を見る視線に高低差でズレが生じるように計画しました。建物自体は平屋建てで車椅子でも補助する人が居れば登りやすいように小さな段のゆっくりした階段にしています。スロープは意外に長さが必要で、お年寄りの方には傾斜は足首に負担をかける場合もあるので、風設計室では緩やかな階段を設けることが多くあります。

住まいの平面構成はシンプルで玄関右側に和室、左側にLDKを配置し、どちら側からも南東の根子岳と外輪山が望めます。外壁は軒の短い妻側はガルバニュウム鋼板横葺き、軒の深い南北面は左官の塗り壁仕上げにしています。屋根には太陽熱空気集熱システムの「そよ風」を設置しています。集熱に採熱板と集熱ガラスを併用を初めて採用しましたが、熊本市より5℃以上寒い阿蘇でも真冬に70℃近い温風が、床下のコンクリートを温め、室内温熱環境も快適に維持してくれています。

10帖の和室は法事にも使われることもあり、縁側まで取り込んで使っていただけるよう、和室と縁側を仕切る障子は天井まで高くし、3枚引き込みにしました。

広めのLDKは杉板張りの斜め天井で、杉板材の定尺に合わせて照明のスリットでデザインしました。

根子岳と外輪山を見ながら、気持ち良く安心して暮らして頂けるようにと願いを込めた住まいです。

住まいは他にも地震対策、台風などの強風対策、メンテナンスのし易さ、室内温熱環境をサポートする断熱性とともに、パッシブなソーラーシステムも欠かせない要素だと考えて設計に取り組んでいます。

住み手の方から「住まいが温かいことが一番嬉しい」と必ず言われるので、いつも工夫し、時には施工にも加わりながらパッシブソーラーに取り組んでいます。


沖新の家

2020-04-13 11:46:46 | 日記

4月のはじめに引き渡した住宅です。

一年前の4月頃に相談に見えられて、設計に取り掛かったノリ養殖をされている方の住まいです。

敷地は熊本新港に近く、海岸から500m程の所で見に行った時「空が広いなあ」と感じました。風も強いですが爽快感があり気持ちの良い処でした。北東の方に金峰山の山並みが見え「この眺めを見て暮らしたい」と思ったのが設計のポイントになりました。

金峰山が見える写真には手前の道と一段上がった道が並行しており、一段上がった石垣部分は昔の堤防跡です。ここは以前海だった所を干拓した所でした。設計のもう一つのポイントは干拓の軟弱地盤に対する地震対策と海から吹き寄せる台風の強風対策です。

昔の海岸線であったことから、幸いに6.0M程の所に堆積した礫層がありその層まで地盤改良を行いました。建て主が打ち放しコンクリートと木が好きなことから、木造に一部分にコンクリート壁を挿入し地震対策と強風対策にも役立つように工夫しました。基本構造は木造で成り立つようにし、コンクリート壁はあくまで木造にプラスαの構造体ですが、建物強度は基準の2倍近く強くしました。コンクリートを垂直壁だけにしたのは建物重量を少なくする為です。

建物形状はシンプルにし、2階部分は大屋根の一部とし、西側は寄棟にして強い西風を受け流すようにしました。北東の金峰山を眺める場所は半屋内デッキを設け、テラスサッシを斜めに設けてこちらも風を受け流しています。東側コーナーにはコの字型にコンクリート壁を配置、構造補強と薪ストーブの防火対策に役立てました。

太陽熱空気集熱システム「そよ風」も採用しています。普段も海風が強く外は寒いのですが、家の中は温かくとても喜ばれました。施工者が「そよ風」施工が初めてだったこともあり、私も屋根に登り職人さんと一緒に設置を指導、手伝うことが多かったので、性能には自信がありました。集熱温度は天気が良いと60度を超え、室温も20度以上に保っています。

ノリ養殖は10月頃から4月初めまでが繁期で、朝早くから夜遅くまで続くキツイ作業で、海から戻ってしばらく仮眠する時にこの家の温もりはとても嬉しいと喜ばれまています。

ノリ養殖も高齢化が進み、年々担い手が減っているとのことですが、新しい家が暮らしの楽しさと体を休めてくれ、永く美味しい海苔を作ってほしい願いながら設計しました。


障がい者福祉サービス きおう

2020-04-12 15:15:57 | 日記

障がい者福祉サービスきおうが3月完成しました。

依頼主は風設計室の作品第一号となった喫茶店DECOYのオーナーです。

  

1985年(昭和60年)完成、鉄骨造ですが外装、内装杉板張りで妻型のフレームが南北に貫通し、天井の高い吹き抜け空間になっていました。両サイドの妻型フレームからの光に包まれた洞窟的な雰囲気がお客さんに愛されていたようですが、残念なことに2011年に焼失してしまいました。

一年後の2012年(平成24年)同じ場所にDECOY2の設計依頼を受けて、新しい喫茶店を完成させました、V型の屋根を持つ建物は最初のDECOYの自然光コンセプトを受け継ぎ、外壁は杉板の黒塗壁、内部は杉張りとして、なるべく以前の雰囲気を継承しました。

そして新しく3月完成したのが、障がい者福祉サービス きおうです。

初代障がい者福祉サービス きおうはDECOYの東側に鉄骨造店舗を改装し運営されていましたが、手狭であったこともあり、DECOY西側に新たに障がい者デイサービス施設を建てることになりました。

約50坪の木造平屋建て、食堂・談話室と機能回復訓練室は杉の梁現した吹き抜けとし、利用者に伸びやかな木の空間の中で過ごすことで、此処に来る楽しみが少しでも増えてほしいと願い設計しました。

大きな空間にするとその室内温熱環境を快適にする工夫が必要です。ここでも太陽熱空気集熱システム「そよ風」を採用しました。玄関に入ると建物全体がほっこり温かく、新鮮空気がどんどん入って換気しますので、感染予防や臭気除去にも役立ちます。

障がい者福祉サービス きおうでも初代DECOYの空間に親しみ育たれた子供さん達が看護師や理学療法士になり運営されます。御領の家と同様世代を超えて使っていただく建物の設計をする喜びを力に替えて取り組みました。