とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

モンティ・パイソンという生き方

2011年11月15日 02時12分16秒 | 世界的笑世界


先月、英国BBCで「ホーリー・フライング・サーカス(Holy Flying Circus)」というスペシャルドラマが放送されました。1979年にモンティ・パイソンの2本目の映画『ライフ・オブ・ブライアン』が公開された時、宗教への冒涜だと映画を糾弾する声があがり、テレビで公開討論がおこなわれた、その前後のいきさつを再現したドラマです。

もちろん、日本では見ることができませんでした。放送直後はフルの動画がアップされていたようですが、くやしいことに気づかなかった!いまは削除されていて、BBCが公開している短い映像だけ見ることができます。

パイソンメンバーを演じるなんて、ぜったいムリでしょ~と思ってたんだけど、映像を見てびっくり。しゃべり方とか雰囲気、似てる!!

Palin and Cleese Arrive at the BBC - Holy Flying Circus - BBC Four



これは公開討論のためテレビ局入りするジョン・クリーズとマイケル・ペイリン。ふたりが素でこんな風に会話をしてたかもしれないと思いつつ見ると、なんだかドキドキしちゃう。

こういうドラマが2011年につくられて、大いに話題になるという事実を見ても、モンティ・パイソンがいかに巨大な影響力を持っているかがうかがいしれます。しかも彼らはまだようやく70才になったかならないか。テリー・ジョーンズなんて、40才以上年齢のはなれた若い恋人とのあいだに子どもまで生まれたというから、加トちゃんもびっくりの健在ぶり(ジョーンズ氏は前妻との離婚がまだ成立していないそうですが)。

数ヶ月前には、ミュージカル『スパマロット』日本版のプロモーションのためにエリック・アイドルが来日していましたよね。ちょうど民主党党首選挙の日だったため、記者会見でエリックは「日本の首相になる覚悟で来ました」と真顔で言ってて大笑いしました。日本の政情までよく勉強してるのね~と感心もしたり。

パイソンの笑いについては、あちこちでたくさん語られているけれど、彼らの生き方とか、ビジネスの側面から語られたことってあるのだろうか?1983年に亡くなってしまったグレアム・チャップマンをのぞけば、生き残った5人のメンバーたちは実に良いトシのとりかたをしている。彼らの近況を聞くにつけ、それをつくづく感じます。

成功したコメディ・チームが、“余生”をどう過ごすべきか?パイソンにひとつのモデルを見ることができるかもしれません。

いまなお語り継がれる伝説コントの数々を生み出した彼らの“冠番組”「空飛ぶフライングサーカス」(Monty Python's Flying Circus)は、1969年10月5日にBBCでスタートし、1974年12月5日に終了しました。放送期間はわずか5年と意外に短かった。しかもラストシーズンにはジョン・クリーズは出演していません。「マンネリに陥っている」と感じたクリーズは第3シーズンで番組を終わらせたかったのですが、他のメンバーの同意が得られず、彼だけが抜けたのです(こんな風にやめたがるところ、タカさんに似てるんだよなあ)。



しかし、番組が終わってそれぞれがソロになったりユニットを組んだりして独自の活動をはじめても、モンティ・パイソンを解散することはありませんでした。あまりくわしくパイソンの歴史を書いてるとひとつの記事じゃとても足りないので、彼らのインタビュー決定版「モンティ・パイソン アンソロジー Almost Truth」を見ていただくか、伝記本「モンティ・パイソン・スピークス!」を読んでいただくとして、とりあえずおおざっぱにまとめてみると。

パイソンとしての映画製作やライブは続けたものの、彼らはコメディアンとしてのキャリアからは早々に足を洗い、ショウビジネスの周辺にとどまりながらも各々の興味関心のおもむくまま、歴史家、映画監督、旅番組のホスト、ブロードウェイ・ミュージカルの作者、といった第2の人生を歩んでいます。

本気を出せばソロで偉大なコメディアンになったであろうジョン・クリーズですら、パイソン、「フォルティ・タワーズ」、『ワンダとダイヤと優しいやつら』の3つの成功で満足したのか、カリフォルニアに移り住み、ときたまB級娯楽ハリウッド映画の脇役を楽しそうに演じ、それ以外は好きな読書をしたり、講演をしたりと、悠々自適の暮らしを楽しんでいるようです。無論、パイソンとフォルティ・タワーズだけでクリーズが世界最高のコメディアンのひとりになったのはまちがいありませんが。

(ちょっと脱線。クリーズがナビゲーターをつとめ、BBCで2001年に放送されたドキュメンタリー「The Human Face」がものすごくおもしろいです。「美とはなにか」「有名になるとは」「人間の顔とはなにか」等の哲学的なテーマをわかりやすく追求するシリーズもの。日本語字幕つけてBSあたりで放送してくれないかなあ?)

彼らがこうして、半引退ともいえる暮らしにはやくから入ったのは、いろいろ理由はあるのでしょうが、結局「もう働かなくても生きていけるから」というのがベースにあるんじゃないかと思う。というのも、彼らはテレビと映画の作品の著作権を自分たちで保持しているからです。「パイソン(モンティ)ピクチャーズ」という共同経営の会社を1973年にたちあげています。

「モンティ・パイソン アンソロジー」のインタビューで彼らは、BBCがテレビのもつ芸術的価値をまったく理解しておらず、貴重なフィルムをガンガン廃棄していたのを見てゾッとし、「空飛ぶ~」の著作権を局から買い取ったのだと語っています。おもしろい話ですよね。

経済にからきし弱いわたしは、現代のテレビ局とタレント(あるいはプロダクション?)の権利をめぐる関係がどういうことになっているのかぜんぜん知らないんですが、パイソンのこの行動は、当時としてはおそらく非常に画期的なものだったんじゃないでしょうか。

それは私腹を肥やすこと(だけ)が目的ではない。自分たちの創造物がきわめてすぐれたものであって、いずれ歴史的価値をももつはずだと、そして誰にも負けないくらい超笑える番組だと、彼ら自身がはっきり自覚していたことを示すものだと思うのです。

テレビに“芸術的”価値なんてものがあるのか否か、はさておき、自分たちのやっていることに絶対の自信があり、その価値を完全に理解していたからこそ、自分たちの手でそれを守る責務があると彼らは感じたのではないだろうか。実際、アメリカのテレビ局が「空飛ぶ~」を勝手に編集して放送した際、パイソンはテレビ局に裁判を起こし、それをきっかけに米国での放映権を勝ち取ったのだそうです。

こういうビジネスライクとも見える行動って、正直、日本人としてはやや理解しがたいところもある。ただ、パイソンが映像を出し惜しみしたりせず、じつに気前よくソフト化し、比較的安価に販売してくれるために、権利を守ろうとする彼らの闘いも立派に正当化されるんですよね。パイソンのDVDには実にいろいろな特典やらサプライズやらがしこまれていて、サービス精神にあふれています。

「テレビ」というものに対して、これほどの使命感と情熱と誇りをもって取り組むというのは、感動的ですらあります。身を粉にして働き、大成功をおさめたのだから、さっさとプチ引退に入ったって誰にも文句は言えない。モンティ・パイソンは、いわば笑いで世界を征服した最後のコメディアンでした。

それにしても・・・番組放送当時、世界で初めて「バカ歩き省」や、



「スペイン異端審問」や、



「死んだオウムコント」



を目にした人たちって、いったいどんな気持ちだっただろう?いま見ているこのわけのわからない番組が、その後半世紀にもわたって伝説になり、世界中で賞賛されることになるだなんて、考えただろうか?「モンティ・パイソンをリアルタイムで見ていた」というのがいかに貴重な体験だったかを思うと、とてもうらやましい・・・

家庭で録画などできず、ソフト化など誰も想像もしなかった時代、テレビとは、はかないものでした。一回放送されればもう二度と見られない一期一会の出会いで、視聴者ひとりひとりの記憶のなかにぼんやりと残っていくしかない、それがテレビの運命でした。そんな時代といまとでは、テレビと視聴者との関係はかなりドラスティックに変化したのだろうと思います。どちらが良いのかは、わからないけど・・・


最後に、パイソンの最新の近況を。
いま彼らは、28年ぶりに新作映画を製作中。グレアム・チャップマンの自伝をもとにした3Dアニメですって!『イエローサブマリン』ぽいノリなのか?楽しみだあ~モンティ・パイソンの新作映画が劇場で観られるだなんて!天国のグレアムも“特別出演”するようです。

テリー・ジョーンズの言葉が泣かせる:
「つい最近まで、グレアム・チャップマンが本当に死んでるって気づいてなかった---どうせ、のらくら怠けてるだけだろうくらいに思ってたんだ。だが、このエキサイティングな企画でまたグレアムと一緒に仕事ができて、いまはうれしいよ」



仲間って、すてきだな。

日本では、年明け早々ミュージカル「スパマロット」が開演。
1月に東京、2月に大阪で上演されます。オフィシャルサイトはこちら
主演のアーサー王(映画ではグレアムが演じた)にユースケ・サンタマリアか・・・
楽しみ・・・というか、観に行けるかしらん??









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