とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

関東and/or関西

2009年09月13日 23時42分31秒 | ワンフー日記
『天才伝説 横山やすし』(小林信彦 文春文庫)をゆうべ一晩かけて読みました。
漫才ブームから突然の死まで、小林信彦の眼がとらえた「天才・横山やすし」を描いた評伝(森卓也氏によると「私小説」。こう呼ぶ方がおそらく正確でしょう)です。

この本を読んで、考えるところはそりゃもういろいろとあるのですが、特に興味深いのは、これが「東京人が書いた上方漫才の本」だということでした。

たとえば、やすし・きよしがよく出演していた演芸番組「花王名人劇場」(制作は関西の大物プロデューサー澤田隆治氏)を、ちびっこのわたしは毎週楽しみに見ていました。ところが、小林信彦はこの番組の意図に批判的だったそうです。はあーそんな見方をしてた人もあるのか、とちょっとびっくりしたりする。

1 テレビに名人芸はありえない。
2 だから、みずから<名人劇場>と名乗るのはおかしい。

の、2点がその論拠だったと小林信彦は自分で解説しているのですが、こういう発想が果たして関西人の中から出てきうるものだろうか・・・と、考えちゃうわけです。

もちろん、こういう批判をするからといって小林氏が関西の笑いを敵視してるなんてことは、絶対にありえない。そういう感情的な話ではなくって、「笑いのローカリズム」ということについてわたしは考えてしまう。

よく「関東(東京)の笑い、関西(大阪)の笑い」という言い方がされて、それがしばしば論争に発展することもあります(ほとんどが不毛な論争ですが)。しかし、なんでそこで「論争」になるのかが、わたしにはいまいちわからない。それは、わたしが四国という土地で育ったせいかもしれません。

四国は西日本ですから、関西の笑いはテレビを通してガンガン入ってきます。ちっちゃい頃から当然のように吉本新喜劇も見てました。幼稚園~小学生当時は、ちょうどカンペイちゃんがアイドル的な人気のあったころで、「あっちこっち丁稚」とか「モーレツしごき教室」とか、のちの天然素材っぽい雰囲気の番組がおもしろかった。「ヤングOH!OH!」もすさまじい人気でした。

一方で、まだ藤山寛美がバリバリ現役だったので、松竹新喜劇のテレビ中継もよく見ました。演目などはまるでおぼえてませんが、寛美さんがやたらめったらおもしろかったことは記憶に焼きついてます。

しかし、関西一辺倒というわけでもなく、東京発信のバラエティも大好きでした。たぶん中国地方なども同じではないかと思いますが、関東ローカルのレアな深夜番組が3週遅れくらいで放送されたりするんですよね。

そういう番組は、関西では放送されない。なぜならその時間には関西ローカルの番組があるから。逆も真なりで、東京で関西のローカル番組が放送されることは、まずない。

そう考えると、テレビ好き&お笑い好きにとって、四国のド田舎という第3世界で育つことは、むしろ恩恵だったのかもしれません。西の笑いも東の笑いも、どっちも同じ容量で入ってきたし、公平に見ることができたのだから。

それと、「関東vs関西」という言い方は、やや繊細さに欠ける気がします。関西の中でも大阪と京都は感性がちがう。大阪と京都はむしろライバル関係にあるといってもよく、大阪は東京とのたたかいだけでなく京都とのたたかいも抱えているわけで、単純に見えて実は非常に複雑な家庭環境にあるわけです(笑)

おそらく東京も、山の手と下町では笑いの感性がちがうなど、<東京>の中のローカリズムが存在するはず。

春にビートたけしさんが食わず嫌いに出てくれた時、「関西に負けそうだったけど東京っぽいとんねるずが出てきたんで、応援してた」という話をしていましたよね。なるほどなあと思ったのと同時に、しかし同じ東京といっても、たけしさんの<東京>ととんねるずの<東京>はまるっきりちがうんじゃないのか、という気もしたんです。

とんねるずは、いわゆる江戸前とか浅草とかの文化圏とはまるで無関係な<東京>から出てきた、エイリアン的コメディアンなんだろうと思う。

ただ、それでも、たけしさんととんねるずに共通してあるのは、小林信彦が『天才伝説 横山やすし』の中で言っている「ある種の東京人の羞恥心」かもしれません。何かをストレートに前に出すのがなぜか恥ずかしい。だから茶化してみたり、引いてみたり、止まってみたりする。

わたしは、「ある種の東京」の笑いが持つこういう「羞恥心」に対して、関西的なノリよりも共感を感じることが多いです。だからとんねるずに熱中したのだと思う。「好き嫌い」という次元でいうと、<東京>の笑いも<大阪>の笑いも同じくらい好きです。でも、より強く共感するのは、<東京>だと思う。たぶん。

最近では、沖縄、北海道、栃木、福岡などなど、<東京vs大阪>の単純な図式にはまりきらない芸人さんが多く出てきています。この傾向が<笑いのローカリズム>をどう変えていくのか?
まあ、いまのところは、東京・大阪二局集中へのアンチテーゼでしかないとは思いますが・・・

ちなみに、「ねるとん紅鯨団」や「おかげです」は、かつては関東より関西の方が視聴率が高かったようです。








最新の画像もっと見る

コメントを投稿