とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

ブロマンスとしてのとんねるず

2012年08月26日 01時58分13秒 | ワンフー日記



「ブロマンス」という言葉が、一般に使われるどころか、まだ生まれてさえいなかった1980年代なかば、アジアの片隅のこの小さな島国のテレビジョンで、ふたりの若者がこんなセリフをつぶやいていた。


「俺といっしょに、ロマンスしようぜ」


最近、映画やドラマで、いわゆる「ブロマンスもの」が流行するようになって、あらためてあのころのとんねるずをふりかえってみると、偶然であるとはいえ、彼らがいかに時代を先取っていたかということにおどろかされます。

「ロマンスしようぜ」のセリフは(ファンには説明するまでもなく)とんねるずの初単独主演ドラマ「お坊っチャマにはわかるまい!」(1986年4月15日~1986年7月22日放送 TBS)からの引用です。

タカさん演じる風来坊の北原天気が、昔の親友でサラリーマンの平田正美(ノリさん)のもとへふらりと現れて、何度かこのセリフを言う。手元に映像がないので、どのシーンで何度使われたかがわからないのですが、正美のつとめるおもちゃ屋さんにいっしょに就職したり、お坊っチャマ軍団と対決したり、がんばったのにダメだったりしたあとの決めゼリフ的に、天気が何度か言っていたと記憶します。

ファンにとっていちばん印象深いのは、やはりなんといっても最終回ラストシーン。仕事を辞め、同棲していた恋人にも別れを告げてひとり旅立とうとする天気。堅実に暮らしていたはずの正美が、そんな天気の後を追いかけてくる。


正美「今度は俺に言わせてくれよ。俺といっしょに、ロマンスしようぜ
天気「ああ。もっと熱くな」
正美「どんな風に?」
天気「こんな風に」

・・・KISS・・・花火ドカーン・・・やぶさかでない・・・THE END。


と、たしかこういう流れでした。

多感な思春期のオトメの心を動揺させるに十二分な殺傷力をもったラストシーンでした(笑)
おかげで、30年近くたったいまでもまだワンフーやってるわけですが。


俺といっしょに。ロマンスしようぜ。

考えてみれば、不思議なセリフです。「ロマンスする」なんて動詞はないよ。
だいたい、ロマンスするって、どういう意味?

ごく普通に訳せば、「恋愛する」という意味になるでしょう。1986年当時のテレビの“常識”で考えれば、これは男性が女性にむかってつかうべき表現である(現在ではもう“常識”ではないですけどね)。

にもかかわらず、天気はこのセリフを正美にむかってしか言いません。同棲してる恋人にも、憧れのお嬢様にもぜったいに言わないのに、正美にだけ言う。しかも何度も。

デジタル大辞泉の解説によると、「ロマンス(ロマン)」とは「1 空想的、冒険的、伝奇的な要素の強い物語。特に中世ヨーロッパの、恋愛・武勇などを扱った物語をいう。ロマン」とあります。たしかに「ロマン」と聞くと、なんとなくファンタジックな冒険物語を想像してしまう。知恵蔵2012の解説にも「ロマンスの本質は冒険と恋愛にあり・・・」とある。

ドラマ「お坊っチャマにはわかるまい」では、天気も正美も完全なヘテロセクシャルの青年として描かれています。天気は水商売の恋人のヒモとして暮らしているし、正美は同僚の女性といい仲になりかける。そしてふたりとも、会社役員の美しいお嬢様に憧れている。

だから、天気が正美にむかって「ロマンスしようぜ」と言うとき、それは恋愛しようぜという意味ではない。いっしょにワクワクするような冒険をしようぜ、というくらいの意味なのかもしれない。


しかし---ここからが大事なのですが---もしかしたら、それだけではないんじゃないか?ひょっとしたら、天気の中に、正美を恋愛の対象として見ている人格がいて、「ロマンス」という言葉をつかうことによって無意識に正美に愛を告白しつづけているんじゃないだろうか?

そんな解釈を許すような、いやむしろ挑発するような場面やギャグが、このドラマにはつめこまれていました。たとえば天気と正美が同じベッドで寝ていたりとか(これはローレル&ハーディ以来のバディ/ブロマンス関係の基本中の基本)。







彼らは毎週のようにこれでもかと“ブロマンス”ぶりを見せつけていた。どんなシーンがあったかはブログ「萌えろ!とんねるず」さんのこちらのエントリーをごらんください。ね、毎週火曜日9時がくるのが待ちきれなかったのも、当然でしょ?(笑)

笑わせる目的のギャグもあれば、まじめにふたりの友情を表現するシーンもあった。でもどのシーンにも、「ひょっとしたらこのふたりは?」と感じさせずにいられない色気があった。じつはそれこそが、バディ/ブロマンスものの真髄なのです。

ここは、しかし、非常に微妙なラインではあります(そして非常におもしろいところでもある)。

もしも、天気と正美がほんとうに性的関係をもつ恋人同士になったら(もしかしたら最終回のあとそうなったのかもしれないけど)それはもはやバディ/ブロマンスではない。それはゲイのお話です。ゲイの物語とバディ/ブロマンスの物語を混同する人が時々いますが、これらはまったく別物なのです。

バディ/ブロマンスものの魅力というのは、「ひょっとしたら」に集約されるとわたしは思う。天気の正美への思いはひょっとしたら恋なのかもしれない。正美もひょっとしたらそれに気づいているのかもしれない。でもそれらはことごとくほのめかされるだけで、あからさまに表現されることは決してない。

しかし実際最終回では、ふたりは彼女も仕事もすべて捨てておたがいを選ぶのですから、ここにひとつのバディ/ブロマンスの頂点があるわけなのです。


最終回では、「ロマンスしようぜ」のセリフのあとに天気と正美がキスをします。肉体的な接触をするのはこのシーンだけ。その時点でゲイドラマになるんじゃないか?と思われるかもしれませんが、そうではない。

個人的にあのキスシーンは名場面だと思うのですが、というのも、「キス」というものがあれほど象徴的につかわれたことは、日本のドラマではほとんどないんじゃないかと思うからです。

リドリー・スコット監督『テルマ&ルイーズ』でも、ラストシーンで主演の女性コンビふたり(スーザン・サランドンとジーナ・デイビス)が脈絡なくキスをします。




『テルマ&ルイーズ』エンディングシーン
(映画未見の方はネタバレをご理解の上、ご自身の判断でご覧下さい)





ふたりの命がけの絆を表現できる行動がこれしかなかったから、ほとんどアドリブ的にキスをしたのよ、とスーザン・サランドンはのちに語りました。

「お坊っチャマにはわかるまい」のラストキスにも、まさにそれとまったく同じ意味合いがこめられていたと思う。しかも「お坊っチャマ」は『テルマ&ルイーズ』より5年も早かった!リドリー・スコットに勝った!(笑)まじめな話、このドラマ、そしてとんねるずの先進性を、ここでも感じてしまいます。


とんねるずってすばらしいなあと思うのは、ギャグであれ普通の芝居であれ、微妙に同性愛を暗示するシーンを、彼らはいつでも真剣に演じるんですね。ぜったいに茶化さない。「お坊っチャマ」にかぎったことでなく、バラエティをやっていても同じ姿勢だし、それはいまでも変わらない。

もちろん彼らはお笑いなので、バディ/ブロマンス的要素を結果として笑いにもっていくことはやります。でも、それは対象を茶化すこととはちがう。

例のノリさんバースデーパーティ事件をひきあいに出すまでもなく、とんねるずの存在そのものが、リアルバディ/ブロマンスを体現しているというのは、すごいことだと思う。

あのサプライズのときでさえ、ふたりは、おそらく無意識に、たくさんのことを“暗示”していた。

「タカの手、でっかいんだ・・」と頬を染めるノリさん。
「泣くなよ!」と相棒の肩を抱くタカさん。

ドンペリのボトルを回し飲みしたあのふたりの姿ほど、リアルで激しいホモエロティシズム的暗示を、わたしはほとんど見たことがありません(とんねるず以外はおそらくマーティン&ルイスだけだろう)。


あまりにも深い友情でむすばれたふたりだからこそ、その友情を守るためなら、他のすべてを捨てる覚悟があるのではないか?そうだとすれば、それはすでに友情を超えた「愛」ではないのか?ロマンスではないのか?

そんな関係にわたしたちがあこがれるのは、もしかしたら、それが現実にはおこりえない夢物語=ロマンスであるからかもしれません。

日本でバディ映画ブーム(らしきもの)が起きているのも、他人に無関心をよそおうクールな顔の下で、「ロマンスしようぜ」と熱く切なく言える相手を、われわれが求めていることの証なのかもしれない・・・



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2 コメント

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永遠のNO.1ドラマ (chirira)
2012-08-28 23:33:30
『お坊ちゃまにはわかるまい』は、私にとっては永遠のNO.1ドラマです。
もちろんとんねるずワンフーだから、というのが一番の理由ではありますが、それを抜きにしても
あのドラマは色んな人間模様・・・男女、男同士、上司部下、ライバル、親友・・・を織り交ぜた
最高のドラマだったと思います。
まぁしょっちゅう『天気と正美』から『貴明と憲武』に素で戻っちゃったりもしてましたが、ワンフーに
とってはそれがまたドキドキ嬉しかったり(笑)

「ロマンスしようぜ」の意味ですが・・・
私は、初回で天気が正美に言ったこのセリフと、ラストで正美が天気に言ったこのセリフ、同じ言葉
でも全く意味が違うという解釈を持っていました。
ファイアーさんの言う、『ロマンス』を『恋愛』と受け取るか、『冒険』と受け取るか、そこだと思うんですよね。
そう考えると、前者は『冒険』、後者は明らかに『恋愛』を含んだニュアンスで使われています。
天気と正美がお互いの中で『ロマンス=恋愛』と解釈したからこそ、キスに至ったんだと・・・。
当時はそこまで深く考えたりしませんでした(笑)
ただただ、「天気と正美は、やっぱりお互いを想い合ってたんだ。結ばれたんだ」とドキドキしてこの
キスシーンを繰り返し見てましたww
当の2人は(特に貴さんは)このラストに納得してなかったようですが・・・

このドラマもソフト化はされず、いまや幻の作品ですよね。
たまに動画サイトに上がってもすぐ消されちゃうし・・・
勿体ないです。

あ、最後に、当サイトをリンクして下さってありがとうございます♪
まだ初期の拙い記事でお恥ずかしい限りですww
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chiriraさん (ファイアー)
2012-08-29 02:12:32
すっかりごぶさたして、ごめんなさい。
リンクのご連絡もつい遅くなって・・・失礼しました。
さしつかえないでしょうか?大丈夫かな?
すいません、勝手に・・・
リンクさせてもらった記事は、個人的にうれしくて何度も読ませてもらってたので、
ぜひ紹介したかったんです。

「ロマンスしようぜ」は初回に天気が、最終回で正美が言うんですね。
それで、意味がより深くなっているんですね!確かに・・・
当時はわたしもただドキドキしてただけでした^^
タカさんはうたばんか何かで「わけわかんないけどああなった」とか言って笑ってましたね。
ノリさんは、あのラストについて何か発言したことがあるのかしら?

いずれはソフト化されるはずと信じて待ってるんですけどね・・・
放送当時なぜ録画しとかなかったのか、自分ののんきさに腹が立ちます(笑)
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