「俺たちゃ忍者だ」(以下、「忍者」)
<登場人物>
服部半蔵・・・石橋貴明
村上一郎(漢字推定。別名イチロー・ムラカミ)・・・木梨憲武
<あらすじ>
真田幸村を首領とする伊賀の忍者・服部半蔵と村上一郎。謀反の計画をしるした巻物を奪うため、薩摩藩のとある城へ忍び込む。すったもんだの挙げ句、無事巻物を手に入れたふたりであったが、そこに敵の追っ手が。半蔵と村上の運命やいかに・・・!
それにしてもベタなタイトルである。ビデオ収録コント中、もっともベタである。理由は不明(*1)。
始まりは真っ暗な舞台。そこにトランペットソロの哀感あふれるメロディが流れ、次のナレーションが入る。
光あるところに影がある
まこと栄光の影に数知れぬ忍者の姿があった
命をかけて歴史をつくった影の男たち
だが人よ 名を問うなかれ
闇にうまれ 闇に消える
それが忍者のさだめなのだ
サスケ お前を斬る!
ご存じの方も多いでしょうが、これは、1968年9月~1969年3月にTBS系にて放映されていた忍者アニメの傑作『サスケ』(原作・白土三平)のオープニングを使っている。イントロで流れていたこのナレーションは、当時非常に有名であった(らしい)。ナレーションを担当したのは声優の勝田久氏。現在まで数多くのドラマ・映画・アニメで声優として活躍するかたわら、勝田声優学院学院長として後進の指導にもあたっている。
『サスケ』は、当時放映されていた『鉄腕アトム』と人気を二分するTVアニメだったらしい。しかし子供向けアニメとしては物語がやや暗く、アトムほどのメジャー人気を得ることはできなかった。とんねるずのふたりも子供の頃見ていただろうと推測できる。
ちなみに、『サスケ』のオープニング曲はかなりアップテンポなものだったらしい。冒頭で流れるトランペットソロはおそらくオープニング曲ではなく、挿入歌かエンディング曲であり、このあとコント中で流れる、よりアップテンポで歌詞も入った曲がオープニング曲だったのではないか。
(『サスケ』はDVD化されています。興味のある方はどうぞ。で音楽のこと教えて下さいませ。筆者は未見。)
つまり、「俺たちゃ忍者だ」はアニメ『サスケ』のパロディという枠組みをもっているのだ。コントの冒頭、タカさんが設定について言う説明セリフの内容(「われらは真田幸村を首領とする…」)も『サスケ』をふまえていると思われる。
とんねるずはこのナレーション中に、まだ暗い舞台の両袖に登場。刀を振り回しながら上手下手を往復して走り回る。お客さんは笑っているが、画面がやや暗いため、ふたりがどんな動きをしているのかはわからない。
「パラパパー」と曲が終わり、明るくなった舞台の中央にふたりが立っている。
第一声。
貴明・憲武「俺たちは忍者だ」
貴明「わたしの名前は服部半蔵」
憲武「そして私は村上一郎」
名前だけで十分おもしろい。
ノリさんの声がやや嗄れている。ここでタカさんは「はなっからやり直します」と、最初からあらためてコントをやり直す。これが台本にあったのか、それともいまひとつつかみが良くないと判断したタカさんの独断だったのかはわからない(たぶん後者だと思う)。しかし、このやり直しが功を奏することとなる。
二回目。
貴明「わたしの名前は服部半蔵」
憲武「そしてわたしはイチロー・ムラカーミ」
急に"A-ha?"などと答え始めるノリさんに、会場大爆笑。ノリさんの天才的なリアクションがタカさんによって見事に引き出された一例と言えるだろう。
さて、わたしなりに「忍者」を概括してみたい。このコントは、「マイケル・ホイ(許冠文)」的手法と「コント55号」的コンビネーションをあわせもった良質のシチュエーション・コメディだと言える。
たとえば、服部半蔵と村上が薩摩藩の城の門を通過するために、あれこれと策を練ってはことごとく失敗してしまうという、非常に笑える場面がある。(忍者が正門から城に入るというのも考えたらおかしい話だが、それはおいとこう。)
初めは、薩摩藩の忍者になりすます、といったわりとまともな手段を使う。半蔵は、まるでテレビ局の通用口を出るかのような気軽さでらくらく通り抜けるのだが、なぜか村上はひっかかり、いつまでたっても門を通過できない。
とうとう途中から「薩摩には鹿児島実業があるからサッカーのブラジル体操で通り抜けよう」などの奇策にはしるふたり。最後には「サッカーで怪我をして治療に来た選手のふり」が成功して、ふたりは無事城に入り込む。
これは、まさに許冠文コメディに近い手法である。「その1」でもふれた香港のマイケル・ホイ(許冠文)の作品では、さまざまな場面において、およそ考えうるすべての「笑える」状況をとにかく詰め込むという特徴がある。
たとえば『Mr.Booインベーダー作戦』という映画がある。主人公の売れないテレビタレントが、テレビ局との専属契約が切れる前によその局へ移るため、悪徳制作局長の部屋の金庫にある自分の契約書を盗みに入る計画を立てる。そして実弟とともに屋上から窓伝いに局長の部屋に侵入しようとするのだが、ここでさまざまなハプニングが起き、ふたりは部屋に入ることすらできずに、壁にへばりついて悪戦苦闘する。このようなことがえんえんと続くのである。
並べてみると、これらふたつの場面の枠組みは非常に似ている。その枠組みに、とんねるずは「業界」や「サッカー」といった彼ららしいネタをもりこんで味付けしていると言えるだろう。(もちろん、許冠文がチャップリンやキートンの喜劇を参考にしていたことはまちがいない。)
次に、コント55号との親近性について。コント55号についてよく言われる特徴は、欽ちゃんがあれこれと出す指示に、坂上二郎さんがリアクションで応える(ボケる)、つまり欽ちゃんが二郎さんをイジることで笑いを作り出す、というものだろう。
「忍者」では、とんねるずは完璧にこのパターンを踏襲している。通常、とんねるずはボケとツッコミの役割が決まっていないコンビだが、こと「忍者」に関しては、ノリさんが終始ボケ役に徹し、タカさんは欽ちゃん的役割に徹している。これほどボケとツッコミの役割をはっきり分けたコントは、ビデオ収録分中では「忍者」だけである。
(*1 執筆当初このように書いたが、その後何度かコントを見直し、タイトルのベタであることの理由が見えてきたので追記しておく。このコントは、昔からのお約束ギャグで構成されている。つまりコント全体がベタなギャグの連続であり、もっと言えば、そういったお約束ギャグをパロディ化した作品なのである。古典的な笑いを単に踏襲するのではなく、「パロディ」していることを表明するために、タイトルも、これ以上ないほどベタなものにわざとしているのである。その証拠に、舞台の上手にはコントタイトルが落語のお題のように書かれている。)1/21追加
その4に続く…パラパパー!
<登場人物>
服部半蔵・・・石橋貴明
村上一郎(漢字推定。別名イチロー・ムラカミ)・・・木梨憲武
<あらすじ>
真田幸村を首領とする伊賀の忍者・服部半蔵と村上一郎。謀反の計画をしるした巻物を奪うため、薩摩藩のとある城へ忍び込む。すったもんだの挙げ句、無事巻物を手に入れたふたりであったが、そこに敵の追っ手が。半蔵と村上の運命やいかに・・・!
それにしてもベタなタイトルである。ビデオ収録コント中、もっともベタである。理由は不明(*1)。
始まりは真っ暗な舞台。そこにトランペットソロの哀感あふれるメロディが流れ、次のナレーションが入る。
光あるところに影がある
まこと栄光の影に数知れぬ忍者の姿があった
命をかけて歴史をつくった影の男たち
だが人よ 名を問うなかれ
闇にうまれ 闇に消える
それが忍者のさだめなのだ
サスケ お前を斬る!
ご存じの方も多いでしょうが、これは、1968年9月~1969年3月にTBS系にて放映されていた忍者アニメの傑作『サスケ』(原作・白土三平)のオープニングを使っている。イントロで流れていたこのナレーションは、当時非常に有名であった(らしい)。ナレーションを担当したのは声優の勝田久氏。現在まで数多くのドラマ・映画・アニメで声優として活躍するかたわら、勝田声優学院学院長として後進の指導にもあたっている。
『サスケ』は、当時放映されていた『鉄腕アトム』と人気を二分するTVアニメだったらしい。しかし子供向けアニメとしては物語がやや暗く、アトムほどのメジャー人気を得ることはできなかった。とんねるずのふたりも子供の頃見ていただろうと推測できる。
ちなみに、『サスケ』のオープニング曲はかなりアップテンポなものだったらしい。冒頭で流れるトランペットソロはおそらくオープニング曲ではなく、挿入歌かエンディング曲であり、このあとコント中で流れる、よりアップテンポで歌詞も入った曲がオープニング曲だったのではないか。
(『サスケ』はDVD化されています。興味のある方はどうぞ。で音楽のこと教えて下さいませ。筆者は未見。)
つまり、「俺たちゃ忍者だ」はアニメ『サスケ』のパロディという枠組みをもっているのだ。コントの冒頭、タカさんが設定について言う説明セリフの内容(「われらは真田幸村を首領とする…」)も『サスケ』をふまえていると思われる。
とんねるずはこのナレーション中に、まだ暗い舞台の両袖に登場。刀を振り回しながら上手下手を往復して走り回る。お客さんは笑っているが、画面がやや暗いため、ふたりがどんな動きをしているのかはわからない。
「パラパパー」と曲が終わり、明るくなった舞台の中央にふたりが立っている。
第一声。
貴明・憲武「俺たちは忍者だ」
貴明「わたしの名前は服部半蔵」
憲武「そして私は村上一郎」
名前だけで十分おもしろい。
ノリさんの声がやや嗄れている。ここでタカさんは「はなっからやり直します」と、最初からあらためてコントをやり直す。これが台本にあったのか、それともいまひとつつかみが良くないと判断したタカさんの独断だったのかはわからない(たぶん後者だと思う)。しかし、このやり直しが功を奏することとなる。
二回目。
貴明「わたしの名前は服部半蔵」
憲武「そしてわたしはイチロー・ムラカーミ」
急に"A-ha?"などと答え始めるノリさんに、会場大爆笑。ノリさんの天才的なリアクションがタカさんによって見事に引き出された一例と言えるだろう。
さて、わたしなりに「忍者」を概括してみたい。このコントは、「マイケル・ホイ(許冠文)」的手法と「コント55号」的コンビネーションをあわせもった良質のシチュエーション・コメディだと言える。
たとえば、服部半蔵と村上が薩摩藩の城の門を通過するために、あれこれと策を練ってはことごとく失敗してしまうという、非常に笑える場面がある。(忍者が正門から城に入るというのも考えたらおかしい話だが、それはおいとこう。)
初めは、薩摩藩の忍者になりすます、といったわりとまともな手段を使う。半蔵は、まるでテレビ局の通用口を出るかのような気軽さでらくらく通り抜けるのだが、なぜか村上はひっかかり、いつまでたっても門を通過できない。
とうとう途中から「薩摩には鹿児島実業があるからサッカーのブラジル体操で通り抜けよう」などの奇策にはしるふたり。最後には「サッカーで怪我をして治療に来た選手のふり」が成功して、ふたりは無事城に入り込む。
これは、まさに許冠文コメディに近い手法である。「その1」でもふれた香港のマイケル・ホイ(許冠文)の作品では、さまざまな場面において、およそ考えうるすべての「笑える」状況をとにかく詰め込むという特徴がある。
たとえば『Mr.Booインベーダー作戦』という映画がある。主人公の売れないテレビタレントが、テレビ局との専属契約が切れる前によその局へ移るため、悪徳制作局長の部屋の金庫にある自分の契約書を盗みに入る計画を立てる。そして実弟とともに屋上から窓伝いに局長の部屋に侵入しようとするのだが、ここでさまざまなハプニングが起き、ふたりは部屋に入ることすらできずに、壁にへばりついて悪戦苦闘する。このようなことがえんえんと続くのである。
並べてみると、これらふたつの場面の枠組みは非常に似ている。その枠組みに、とんねるずは「業界」や「サッカー」といった彼ららしいネタをもりこんで味付けしていると言えるだろう。(もちろん、許冠文がチャップリンやキートンの喜劇を参考にしていたことはまちがいない。)
次に、コント55号との親近性について。コント55号についてよく言われる特徴は、欽ちゃんがあれこれと出す指示に、坂上二郎さんがリアクションで応える(ボケる)、つまり欽ちゃんが二郎さんをイジることで笑いを作り出す、というものだろう。
「忍者」では、とんねるずは完璧にこのパターンを踏襲している。通常、とんねるずはボケとツッコミの役割が決まっていないコンビだが、こと「忍者」に関しては、ノリさんが終始ボケ役に徹し、タカさんは欽ちゃん的役割に徹している。これほどボケとツッコミの役割をはっきり分けたコントは、ビデオ収録分中では「忍者」だけである。
(*1 執筆当初このように書いたが、その後何度かコントを見直し、タイトルのベタであることの理由が見えてきたので追記しておく。このコントは、昔からのお約束ギャグで構成されている。つまりコント全体がベタなギャグの連続であり、もっと言えば、そういったお約束ギャグをパロディ化した作品なのである。古典的な笑いを単に踏襲するのではなく、「パロディ」していることを表明するために、タイトルも、これ以上ないほどベタなものにわざとしているのである。その証拠に、舞台の上手にはコントタイトルが落語のお題のように書かれている。)1/21追加
その4に続く…パラパパー!
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