デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

もし、あなたがジャズ喫茶のマスターなら7月17日に何をかける?

2017-07-16 09:30:19 | Weblog
 明日7月17日はビリー・ホリデイとコルトレーンの命日にあたる。親の命日は忘れてもこの日を覚えている罰当たりなビリーのファンやコルトレーン信者は多い。ジャズ喫茶全盛の1970年前後は必ずと言っていいほど各店で特集が組まれた。昼は通常営業で夜にコルトレーン。ビリーとコルトレーンをバランス良く流す店。時間帯で企画を立てる店がほとんどだったが、中には一日中どちらかを徹底的に流す店もあった。

 さて、もしあなたがマスターで、ビリー・オンリーの日なら何をかけるだろうか?コロムビア時代からデッカ、ヴァーヴと順を追ってかける。コモドア盤を中心に全盛期に絞る。オーケストラをバックにじっくり聴かせるものと、コンボと丁々発止のセッションを交互にかける。どのレコード選びも楽しいが、不世出のシンガーを延々と聴くとさすがに飽きるだろう。そこでインスト物をはさむ。まず大定番、マル・ウォルドロンのレフト・アローン。ストリングスをバックに詩情豊かに吹き上げるジョニー・グリフィンの「White Gardenia」。ジーン・アモンズの「Got My Own」もいい。ズート・シムズの「For Lady Day」もある。

 そして、ウェブスター・ヤングの「For Lady」。ジャケットがいい。とてもプレスティッジと思えない。女性の立ち位置が不自然なのは、向き合っていた人がいたからだ。それを編集して敢えて一人にしたことで後姿から伝わるものが大きくなる。ヤングはトランペット奏者であるが、ここではコルネットを吹いている。録音は1957年で、ビリーが麻薬や離婚で苦悩していた時期だ。その哀しみを代弁するかのように音色は物悲しい。そこが心を打つ。バイス・プレスと呼ばれたポール・クィニシェットとマルの参加もビリーの作品集としての価値を一段と押し上げている。静かなる傑作とはこれをいう。

 レコードという文化も消えつつあり、ジャズ喫茶で全てを学んだ世代は寂しい限りだが、先日、ソニーがレコードの自社生産を再開するというニュースが伝わった。何と29年ぶりだという。レコードを知らない若い世代にこそ聴いてもらいたい。CDやパソコンでは味わえない深くて豊かな音がそこにある。ジャケットからゆっくりレコードを取り出し、ターンテーブルにのせる。そして静かに針を落とす。そこには仏壇に向かうような厳かな空気が流れる。
コメント (6)
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